狂った勇者が望んだこと

夕露

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第四章 狂った勇者が望んだこと

254.必要な時間

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薄暗い魔の森のなか、シールドを張って休憩がてら次の準備をしているあいだ、梅は終始ご機嫌だった。


「んっふふ、なんだか文化祭みたいで楽しいね」
「情報操作をそういえるのは梅だけだと思う」
「ええー?でも変装してるとそう思わない?桜のタキシード恰好良かったなあ」
「梅のドレスも綺麗だったね」
「ふふふふふふ」


元の世界でした文化祭のことを思い出しているう梅はご機嫌に両頬に手をおいて笑うが、普段の梅ならともかく変装した姿だと少し不気味だ。
梅の今の姿は、黒髪ショートに青い瞳で、胸甲に革ズボンとガントレットを装着している。顔の造形は変えていないから綺麗で人を魅了するものだけど、全て黒づくめの姿はどこか妙な迫力を持っていた。わずかとはいえ身長操作で履いたブーツで背も高くなったことだし、真顔で見られると威圧感さえ感じる。
かくいう私も癖っ毛の茶髪ショートに青い瞳と魔法で変えたあと、生成りの長袖シャツのうえに黒のレザーベストを装着し、黒のワイドパンツとあわせた身長操作のためのブーツを履いて変装をしている。


「これから話し方には注意だからね」
「はーい!ちゃんと先輩らしくいろいろ教えてあげるね!」


男装しているはずなのに、口調を変えるつもりは一切ないらしい。まあ、梅は梅のままでいいか。できないことに力を入れる必要はないだろう。早々に諦めて私たちは本道に向かって森を出る。
そして見えたのは先の見えない海。くねくねと曲がる道を歩く人々の姿も見える。初めてこの光景を見たときは、自分の現状も忘れてわくわくした。見慣れない人の行き来する光景、この世界でも貿易をする海の街──トナミ街。
セルジオとハース三人でトナミ街任務にあたったとき以来だ。最悪な記憶といい記憶がある複雑な場所は、近づくにつれて以前とは違った物々しい空気を感じた。以前は商人が多かったのに鎧を着こんだ人のほうがはるかに多い。トナミ街が傭兵を広く募っているのは間違いないようだ。


「トナミ街に何用で来た?」
「傭兵募集してるみたいだからきたんだけど。ついでに弟分を傭兵登録しようと思ってね」


門番に理由を尋ねられた梅は銅製のプレートを見せたあと、お金を差し出す。門番の確認は驚くほどあっさりしていて、数秒後には入場が許可された。私たちと同じ目的の者がいかに多いのかよく分かる。
梅が傭兵として動きだしてから気がついたことらしいが、トナミ街は早い時期から傭兵の募集が始まり、現在も続いているとのことだ。話すようになった傭兵たちの何人かもトナミ街へ向かったきり戻った者はいないとのこと。サク班長として関わった事件のことを思えば対策のひとつなのかもしれない。実際のところは分からないが、気になりついでに、回収したかったものも回収してしまえばいいい。
そう考えれば、痕跡を残すのならこの場所がぴったりだった。脳裏に浮かんだ、疲れきった町長の顔もその理由のひとつだ。

『なにかあれば是非私を頼ってほしい』

あれが使えるならよし、使えなくてもサクとして痕跡を残すのにも使える。
そう思ったけど最初にこの場所に来たほうがよかったかもしれない。男装しているが言動に違和感を覚える梅を見ていたら不安になってくる。その場合、女傭兵がつれている男は誰だって話になってくるけど……?


「オルヴェン、早く行こっ!」
「っ」


黒髪の梅に手を引かれて、うだうだ考えていたことがどこかにいってしまう。
オルヴェン。
そう呼ばれたせいか、小さな後ろ頭が違う誰かを思い出させる。いまとは違う幼い表情──ああ。もしかしたら、こういう瞬間があったのかもしれない。


「分かったから、オーズ」


うまく笑みは作れなかったけど、お互いに決めた偽名を呼びあって、根拠なく、これでよかったと思った。


「はい、これで終了!」


そして梅のいうがまま傭兵ギルドで傭兵登録をしたら、あっという間に終わった。傭兵ギルド。いかにもファンタジーな異世界要素を、1年はかるくこえてようやく触れたことに感動する。
知ろうと思えば知る機会はあっただろうに、これまで知らなかったということは必要ないものとして思っていたんだろう。傭兵という存在を知った梅がすぐにそうなろうと傭兵ギルドを見つけたように、私が勇者や魔物について調べて英雄伝に辿り着いたように、見るものを選んでいるのがよく分かる。

傭兵ギルドから発行された銅製のプレートが陽の光にキラリと輝く。何も書いていない長さ4センチほどしかない長方形のシンプルなものだけど、魔力を通したことで本人以外誰にも使えないものになる高性能のアイテムだ。だからいくら偽名を使おうと登録は一度しか使えず、立派な身分証明書になるとのこと。傭兵ギルドで発注されている依頼への失敗や成功記録も照合できるようになっているんだから、魔法の世界ならではの戸籍登録のようだ。これって使いようによっては危ないだろうに。
登録料1万払って自分に首輪をつけたような気持ちになる。


「それでこっちが依頼掲示板!あ、やっぱりここでも募集したままだね。このまま受注しちゃう?」
「んー、どれどれ」


梅の指さす掲示板を眺めてみたら、確かに、トナミ街の警備を担う傭兵募集紙が貼られていた。
本街において、民の安寧と秩序を守るべく、警備の任にあたる傭兵を広く募る。といった案内から始まり、武技に長けたものや規律を重んじる者といった条件や給与などの待遇が書かれている。一番気になったのは、留意事項だ。

課題は複数あり、これを果たせぬ者は任に就けぬ。
選ばれし者のみが、この街を護る盾となる。

仰々しい文句のようにも思うし、そういうものと思えば流せるものだ。残念なことに紙を見るだけだとトナミ街がどちら側なのか分からない。
やっぱり、受注するしかないだろう。
そう思って複数貼り付けられていた紙の一部を取ろうと手を伸ばしたところで、掲示板に知った単語を見つけた。

スリャ村。

思わず内容を見てみれば、明日の朝、スリャ村に戻る馬車の警護をしてほしいとのことだ。
スリャ村といえばラウラのことを思い出す。あれから元気にやっているだろうか。


「……」


懐かしさに思いを馳せながらほかの掲示板を見ていたら、また、懐かしい単語を見つけてしまった。

フール。

逃亡犯罪者のリストの中にあって、名前とともに似顔絵が書かれていた。
スリャ村はサクとして行った場所だから立ち寄らないほうがいいだろう。万が一勇者サクとの関係を疑われたら被害にあう可能性がある。
それでも、ドクリと動いた心臓が、不安にさせる。

すべてを同時にすることはできないし、全部叶えられない。優先順位はつけなきゃいけない。それでも。



「オルヴェン?」



梅に呼びかけられて、ハッとする。オーズを思わせる姿を見たせいか、アイツのどこまでも陰気に落ち込む姿を思い出してしまった。

『救えない存在』

これは、イメラたちのことをそう言って、ことあるごとに後悔したり達観したりと迷惑だったアイツへの反抗心なんだろう。


「寄り道していい?」


スリャ村への警護の依頼紙を取って梅に見せれば、迷いなく頷いて「じゃあ宿を取ろうと」笑い、晩飯の候補まで話し出した。


「それなら刺身が美味しい店がある……ありがとう」


懐かしい会話をしながら受付に行って、スリャ村への警護依頼を受注する。契約は簡単に済んで、出発時間や失敗リスクを聞いたらそれで終了だ。



突如できた自由時間は、不思議な時間だった。



情報収集しつつ買い食いを楽しみ、肝心の宿は傭兵が多くて安い部屋が取れないと分かると、奮発して上等な部屋を予約して子供のように盛り上がる。そして最後は、美味しい宿の食事に葡萄ジュースいっぱいのジョッキで乾杯した。
梅と一緒だからか、本当に、元の世界で過ごしているような気持ちだ。梅と2人だけで旅行に行ったらこんな感じだっただろう。

ロナルが見たら眩暈をおこして倒れるかもしれない。
だけどライなら笑ってくれるはずだ。

部屋でデザートをつまみながら武器の手入れをして、装備品の見直しをしをする贅沢な時間は、きっとこれが最後だろう。


「姿が見えないよう魔法をかけるよ」
「はーい!……ふふっ」
「どうかした?」
「一緒に召喚されて旅をしてたらこんな感じだったのかなあって思ったの。似合ってるよ、サク」


当時使っていた暗緑色のマントはラスさんがくれた黒緑色の羽織になっているけれど、ほかはサクのときにおなじみだった格好になった私を見た梅が、にこにこ笑いながらいう。

もし、梅と一緒に召喚されていたら。

想像して、私も笑う。


「そんときは梅子って呼んでただろうな」
「いやあああ!最高!」
「楽しそうでなにより」


以前、いかにも勇者らしいから止めておいたほうがいいと忠告を受けてアイフェに変えたけど、今は問題ない。梅に手を伸ばせば、エスコートを望むように手がのせられる。
そして転移した先は薄暗い場所だった。もしかしたら控室に飛ばされるかもしれないと思ったけれど、転移先は机ひとつと壁に書架が並ぶシンプルな部屋だった。以前通された執務室とも違ううえ、想定していた控室でもない。どこか──そう、アルドさんに案内された執務室の奥の部屋のようだ。通される人物も限られ、魔法も使える場所。アルドさんは執務室に転移できる転移球を私にくれるとき「あまり人に知られてはいけないから」と言っていた。それは、トナミ街の町長でもあてはまるだろう。それなのになぜ、私が前に渡した投げナイフをこんな場所に置いているんだろう。

人買いどもと対峙した魔の森に転移できるための印を残した投げナイフは窓際におかれていた。投げナイフを手に取ってすぐ違和感に気がつく。

もしかしてこれ、一度も使ってないんじゃないか?

クラリスのこともあって私の魔力が残るものを回収したかったけど、一度も使われていない可能性は考えていなかった。確かにこれを使って転移せずとも、あがっていた火を頼りに該当する場所を見つけることはできただろう。

それなら。



「勇者サク、か?」



トナミ町長は、どっちだ?

蝋燭の灯りが揺れて、声がするほうをみれば、トナミ町長が1人でドアに立っていた。
傭兵はいない。
そしてトナミ町長は、一見誰もいない空間に、私がいることを確信したように口を開く。


「契約をしよう」


梅が警戒を顔に浮かべて注意してくるけど、声に促されて私はトナミ町長に近づく。すでに張っているみたいだけど、私もシールドを張って声が外に漏れないよう細工した。最低限の安全はとっている。それに──空間に黄色く作られた二重丸が浮かび、文字が続けられる。トナミ町長はすべて書き終えると、宣言した。


「名前を書き込んだ瞬間、契約は成立する。ここで見たこと話したこと一切他言無用。いかなる手段でも許されない。違えた場合代償は命」
「なお、違えようとした瞬間から命を失うものとする。嘘は許されない。どうですか?トナミ町長……湊さん」
「もちろん構わない……桜さん」


湊さんは私を見つけると、ホッとしたようにも疲れたようにもみえる顔で笑みを浮かべた。


「あなたも勇者だったんですね」
「桜さんたちが召喚されるより19年前からいる。話したいことはたくさんあるが、何が知りたい?」


19年前という年月に驚くけれど、湊さんのいうように話すべきはこれじゃないだろう。息を吐いて心臓を落ち着かせたあと、尋ねる。


「そうですね。あなたはフィラル王国と敵対できますか?覚悟だけではなく」
「無論……そうか。アルドたちから聞いていないか」
「え?」
「君にとっても私たちにとってもそうだろうが、リスクを減らしたかったんだろうな。まず、私は今回の一連の流れを大まかではあるが知っている。君は私たちのことを、私たちは君のことについて情報を伏せられていたようだがな。私はライガとアルドを筆頭に作られた組織の一員だ。とはいっても名前がついた組織ではない。フィラル王国を潰すための組織だと思ってくれたらいい」

組織。
初めてきく話に目を瞬かせていたら、隠れていた梅が声を出した。もう魔法をかけている意味もないだろう。魔法を解けば暗がりに梅の姿が浮かび上がる。揺れる火にあわせて見える影は梅を違う人のようにみせた。


「やっぱアイツっていけ好かないのよねえ」


ほんとに。
心の中で梅に相槌を打つ。
ライが根回しにいろいろやってるとは知ってたけど、本当に人生賭けてしてきたことだったと分かる。本当に、知らないところで話が進んでいく。例えば、戦争を止めるなんて甘い正義感なんて、こういう流れを作っている人からすれば駒の1つにしか思われないんだろう。

『場数が違うで?お嬢さん』

ムカつく言葉を思い出してイラっとするけど、まず、突然現れた梅の存在に戸惑う湊さんに説明したほうがいいだろう。


「君は」
「私は梅子。好きに呼んで?」
「仲間です」
「梅子……ああ、なるほどそういうことか!ははっ、いや、いい。つまらない疑問が解けただけだ。


契約を申し出てくれた人に嘘をついていたような形になったのにも関わらず、湊さんはご機嫌だ。


「疑問と言えばこの投げナイフを飾っていたのは、私がここに来ることを想定していたからですか?」
「ああそうだ。君ならいつかこれの危険性に気がついて取りに戻ってくるだろうと思ってね。まさかアルド達が既に君の協力を仰いでいたとは思ってもいなかったから無駄足だったわけだが、この緊急事態に会えたのだから文句をいうことではないな。フィラル王国が古都シカムに突如攻撃をしかけ、半壊状態になっているのは知っているか?」
「はい。消火は終わったものの紗季さんは重症、アルドさんは軽傷、ウシンと勇者大地が治療にあたっている状況です。ライは勇者レナに捕まって勇者進藤と一緒にルラル王国にいます」
「っ!そう……か。私は勇者鈴谷の情報しかなく、具体的なことをは知らなかったんだ。そうか。生きていてくれたか」


どうやら湊さんは戦争に関する直接的な情報を持ってはいないようだ。組織というぐらいだから役割が違ったのかもしれない。


「フィラル王国側に間者はいるんですか?」
「ロナルとディーゴだが、彼らともいまは連絡が取れていない。私はフィラル王国で監視されている立場でね。19年という貢献をもっても未だ監視対象だ。そんな臆病者の彼らは私が差し出すものを受け入れはしないよ。できることといえば武器の流通に傭兵の出入りを自然とする場所を作り、こちら側になる勇者の見極めぐらいのものだ。まあそれでさえ疎まれていてね、よく私を殺そうとしてくるんだ。君にも迷惑をかけたことがあったね」
「ああ、あれはそのために……」


確かにあのとき転移球のすりかえは私の身を狙ったものだと言っていた。あのときもっと興味を持って話を掘り下げていれば、早く組織とやらに関われる機会があったのかもしれない。
廻り廻って関わることになったとはいえ、不思議なものだ。
思い出話に花を咲かせたくなるけれど、これは時間があるときで十分だろう。


「これからあなたたち組織はどうするか決まっているんですか?フィラル王国と対峙するトップのひとりは敵側につれていかれ、ひとりは軽傷とはいえダメージを負っています。フィラル王国で起きた混乱で時間的猶予があるとはいえ、また勇者が送り込まれたら古都シカムは持たないでしょう」
「ほかの者も自分の立場に応じた役割があるが、私はトナミ町長としてこの場所を守るという名目で陣営を張るよ。どのような存在であろうとも侵入する者には制裁をすると触れを出す予定だ。仲間には傭兵として出入りしてもらうようになっているし問題はない。この戦争だが……勇者は勇者と戦い、只人は只人と戦うようになる。そして早くに勇者を失った陣営が負けるだろう。現在いる勇者は少なくとも、今年召喚された勇者に君が召喚された年の勇者、進藤、鈴谷、私、ラド、レナ、──といる。ああ、もし今いった勇者で聞き取れないところがあるのなら君が知らない勇者だろう。私から教えることはできないが、君はどれだけ把握している?」


聞き取れずに眉をしかめた私に気がついた湊さんがつらつらと慣れたように応えてくる。これはあるあるの流れなんだろう。質問されたことに応えれば、私が知らない勇者はあと4人いることが分かった。


「戦場で会えるよ。残りの4人は私たちの陣営だ。あとは……そうだな、今年召喚された勇者は君以外は読めないが、少なくとも前向きに参戦するようではないな」


梅を見てそういった奏さんに今年召喚された勇者を思い出す。もうほとんど顔も覚えていないが、少なくとも伊藤は私を殺せると思ったら参戦しそうだ。


「近いうちに私はルラル王国に行きます。知っている情報があれば教えてください」
「……ライガを助けるつもりというのであれば、あまり言いたくないが、君には行ってもらいたくはないな。勇者サクとしてフィラル王国側を混乱に陥れてほしいところだ」
「私がいなくても美名でも悪名でもあなたたちが好きなように使ってください。私はまだまだ子供ですから、自分のしたいことをします。あと、勇者鈴谷とフィラル王は確実にフィラル王国から離れることはありません。詳しくは割愛しますが、決戦の日、そこで会おうと約束を取り付けました。一方的なものではあるんですが、あいつらは必ず私たちに会うためフィラル王国から離れません。なのでキューオもいつあるか分からない決戦の日に備えてフィラル王国から離れません。……最低限、役割を果たしていると思いますが」


にっこり微笑めば、湊さんは目をぱちくりさせたあと、大声を出して笑った。豪快な笑い方で、アルドさんに似たものがある。
最初に会ったときはお偉いさんといった空気があったけど、いまは五月蠅いおじさんという雰囲気だ。


「そうだな!違いない!君は十分すぎるほど役割を果たしている。君のいう情報が本当なら、決戦の地もフィラル王国側にできるということだ!素晴らしい!確認するが、それほどまでにその約束はフィラル王たちにとって重いものなのか?絶対に守る保証は?決戦の日というのは具体的に決まっていないんだな?」
「はい」
「素晴らしい!それならアルドが回復するまで時間も稼げるわけだ。決戦の日をいつとするか君たちが現れなければならないのだろう?君たちが現れなければ決戦の日ではない。例え私たちが死んでも君たちが現れなければフィラル王たちにとっての勝利にはならない。いいじゃないか!」


饒舌になった湊さんは低い笑い声にふさわしい表情をして私たちを見る。


「君のいうとおりだ。勇者サク、勇者梅子。ここからは大人の私たちがうまく君たちを使うとしよう!ところで君の時間的猶予はあとどれぐらいある?」
「……十分な睡眠はとっておきたいので、あと2時間ぐらいかと」
「素晴らしい!ではその2時間のあいだにすべてを語ろう。君が割愛した話、その約束の話は特に重要だ。だがまずはルラル王国の話だな」


好きなように使えといった手前、断ることもできず、頷くしかできない。
梅は湊さんの勢いに圧倒されていたが、しばらくここにいることが決定したと分かるやいなやすぐ私にピクニックセットをねだってきた。
万が一のことを考えて部屋の灯りはつけないようにしたいという湊さんの意見も加わって、私たちは絨毯に座りこんだり寝転がったりしながら暗がりのなか話すことになった。飲み物に食事を各自つまみながら大事なことを話し終わったあとは、流した話をお互いに聞きあって、驚いて笑う。



不思議な時間。



けれどこれは必要なことだったんだろう。
楽しそうに笑う梅を見て、そう思った。






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