狂った勇者が望んだこと

夕露

文字の大きさ
49 / 263
第一章 召還

49. 「んな魔法使えねえんだよ!どういう理屈だ!」

しおりを挟む
 


気のせいかちょっとピンクになりかかってきてる気がする。
シールドがあるから、シールド内にいる魔物が攻撃しようとしてくるのを呑気に眺めていられるけれどそろそろ危ないかもしれない。同じようにシールドの変化に気がついていたリーフも眉を寄せて非常に嫌そうな顔だ。
……音が聞こえる。
ジルドたちがいる方向だ。またなにか大きな魔法を使ったらしい。そろそろ控えないとここら一帯の森はなくなるんじゃないか?
こいつらと普段一緒に戦う奴らに同情する。魔法で周りの気温調整や空気の確保をしていなければこの暑さか煙の吸い過ぎで一酸化炭素中毒になって死んでる。あいつらそのへんまったく考えてないしな。
煙のせいで視界がどんどん見えづらくなってきている。いいことといえば順調に魔物は減っていることだ。特に植物の魔物スーセラは見た目通り火に弱いらしく火から逃げ回る姿を遠目に何度か見た。

「うっげ、また来た」

リーフの視線を辿れば魔物がこちらに向かってきているのが見えた。リーフの落胆に同意してため息を吐く。

「だな。これで何匹目だ?」
「……5・6・7匹目。スーセラは初めてだな。さっき大地が倒したタイプの奴じゃん」
「だな」

魔物は逃げ回った結果、私たちのほうに辿り着く。身体を燃やしながら体当たりをかますように全力で走ってくる姿は恐ろしい。だけど彼らはもう目の前のことしか見えていないのか直線でしか動かない。好都合だ。
最近は弓も上達して魔法の力も少しだけでよくなっている。気持ちを落ち着かせて弓を引き絞る。
こんなに魔物が向かってくるのは私のすぐ隣で大喧嘩してる奴らがいるからだろう。

「くっそほんと心配して損した!つか、なんでこんな高さから落ちて無事なんだよ!」
「んなこといったってお前らみたいに魔法使っただけだっての」
「んな魔法使えねえんだよ!どういう理屈だ!」
「だーうっせーなー!できるもんはできるんだよ」

魔物と一緒に空から降ってきた大地にハースが怒鳴り散らす気持ちもわかる。分かるが、うるせえ。それに魔物を呼ぶからやめてほしい。
もう一度息を吐いて気を新たにしてから弓をひく――当たった。周りに充満している熱気と炎を絡めてとばした火の矢はスーセラに効果的だった。
獣の魔物ダーリスと違って植物の魔物スーセラに弓がきくのか不安だったけれど問題はないらしい。

「おいお前ら。火の周りが早いからちょっと移動すんぞ。それにシールド内の魔物もあんま刺激したくねえし」

きっと気のせいじゃない。私たちに注目してシールド内にいる魔物が集まってきている。シールドの色はまだ赤色。まだ大丈夫。
しかしこのシールドはどれだけ持つんだろう。
もしピンクになってレベルAの状態になったとしたら、そのシールドはすぐ破られるんだろうか。それとも少しは維持するのか?そもそも構造はどうなってるんだろう。シールド外から魔物が見え魔物の声が聞こえるように、シールド内にいる魔物もちゃんと私たちが見えて音も聞こえるようだ。人間という獲物を見つけたら襲いかかってくる魔物にそれはどうなんだ。
どうせなら外の様子は見えないようなシールドにすればいいものを。
煙を伝わせるシールドを見上げる。直角に伸びているように見えるシールドは聞くところによると禁じられた森を覆うように楕円形らしい。地中も含めてはっているとのことだから念入りだ。

……なかはどうなってるんだろう。

レオルが言っていたような魔物だらけの、魔物しかいない場所?全体は……。
ああくそ。こんなところで考えることはできないらしい。どこかに魔物がいる。近づいてくる音が聞こえて弓を構える。

「上だっ!」
「おお!」

ダーリスだ。一番に発見したハースに笑みを深くして叫んだ大地が火の玉をぶつける。魔物はすんでのところでかわすもシールドに身体をぶつけてバランスを崩し地面に落ちた。
どうやら本当に大地はもう大丈夫らしい。
ハースと2人すぐさま止めをさしに行く様子に安心する。あの2人いいコンビになりそうだ。
あと心配なのはこれだけだ。

「色が濃くなった」
「……そろそろヤバそうな気がすんだけど気のせい?」

また、ジルドたちがいる方向で大きな音が聞こえる。
今度は少し地面が揺れたような気がした。

「アイツらシールド壊すんじゃねえの」
「流石にそれは注意してるだろ。……多分」

いくら血に飢えているとはいえ、古都シカムの近くにある禁じられた森のシールドを壊すようなことはしないはずだ。シールド外に集まっていた魔物はほとんど殺せたとはいえ中にはまだあんなに――あ、れ?


違和感。






   
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...