狂った勇者が望んだこと

夕露

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第一章 召還

65.「見れば死ぬとまで伝えられるものです」

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ホーリットの遠征のときに現れた謎の魔物を殺した男は、あのとき見間違えたのかと思ったけどやっぱり赤い瞳をしていた。
落ち着いた声が一歩遅れて耳に届く。

「一応そうですね。あなたは」

なんでこの人はわざわざ私をこんな場所につれてきたんだろう。いや、誘ったんだろう。この人はサバッド?
一気に零れそうな疑問を喉元で堪えながら目の前の男を見る。20代前半だろうか。

「すみません、そうですよね。どうぞ私のことはラスと読んでください」
「俺はサク。あなたはサバッドですか」
「半分そうです」

半分?
ひっかかる言い方に眉を寄せていたら彼は台座に置いていた手を離して完全に私のほうを向いた。思わず辺りに視線を走らせる。台座を囲い飾るようにいくつものアーチが円を描いて並んでいる。
そしてそのアーチの向こうにはいくつかのドアがあった。カントリーチックなドアで古びた石造りのこの場所にはひどく違和感がある。見覚えのあるドアに目当てのものを探せばそれはすぐに見つかった。
青いドア。
きっとあの向こうはセルリオと落ちた鍾乳洞に、初代勇者ソラの墓に繋がってる。

「あの双子のサバッドはあなたが仕掛けてきたんですか」
「結果としてはそうなります」
「古都シカム周辺に起きていた異変もあなたが」
「起こしたのは私ではありません」

どうも信じられなくてじっとラスさんを見ていたら、ラスさんは私を非難することなくただ悲しそうに微笑んだ

「ここで起きた異変は、数ある禁じられた森の1つで多くの魔物の減少がみられたためです」
「魔物の減少?」
「はい。突然、それも禁じられた森の中でも1番大きく、長く魔物が巣食う場所で多くの魔物が減少したのです。魔物がひしめく空間にできた大きな空間は魔物たちに飢えを思い出させ、今回の移動に、異変に繋がりました」

……関係ないとは思う。
だけどなぜかこの話を聞いて思い出したのはレオルだ。
聞くところによると遊びたいというレオルを私は狙ったわけじゃないが禁じられた森に送ったらしい。そしてそこでレオルは長い間多くの魔物と命がけの戦いをしていたというような話を聞いた。
……古都シカムの異変の原因って、私か?

「禁じられた森は元々魔が働く森のうえ、そこに住む魔物の魔力を得てある変化を生み出しました。各地にある禁じられた森どうしを、正確には禁じられた森に棲む同じ魔力を持つ魔物どうしを繋げたのです」
「繋げたって……じゃあ、魔物は転移できるってことか?」
「はい。禁じられた森に溜まった濃密な魔力は惹かれあって道を作っています。だからもし魔物がいなくなったからと禁じられた森のドームを消してしまえば、そのときにはいなくとも残る魔力を追って魔物が現れることとなるでしょう。1匹来ることができたならその1匹を確かな道として大勢の魔物が現れます。
今回他の禁じられた森の中にいた魔物が古都シカムにある禁じられた森に大移動をしたことで、魔物の魔力が濃くなりドームの外にいた魔物にまで伝わってしまったんです」

内外からドームを壊そうとしていた魔物の姿を思い出してぞっとする。
もしあのドームが壊れていたら魔物が大量にこの周辺に現れるだけでなくここら一帯が禁じられた森になったかもしれない、ということか?そして広くなった禁じられた森に他の禁じられた森から魔物が流れてくる。そしてまた。
……今度からはちゃんと場所を決めてレオルを転移させよう。
心に固く誓って、私の考えがまとまるのを待ってくれているラスを見る。本当に疑問は尽きることがない。

「なんでそんなに詳しいんだ?それになんで俺に教えてくれる」
「長く闇の者について研究してきたからです。……あなたたちが呼ぶ魔物のことです。ダーリス、スーセラ、コスボハ、サバッドと魔物のタイプに分けていますが、彼らはすべて闇からきた者と伝えられています。どれだけ調べようが分かったことは多くありません。確かなことは3つだけ。
彼らは人を狙う。
ほかの生き物には目もくれず狙うことから、ある学者は彼らを作ったのは魔力となる想いを持つ人間ではないかと考えています。だからこそ彼らは陽から生まれた陰が己を作る個から離れないのと同じように、闇の者を作った私たちだけを認識し、かえろうとする。私たちが暗い想いを抱いた相手の形を造りながら、私たちが願うだけに留めていた願いを実行しているだけではないかと」

初耳のことばかりだ。
乾いた喉を潤したくて唾を飲み込もうとしたけれど唾が出ない。カラカラで気持ち悪かった。沸いた可能性はあまりにも嫌なもので、脳内を過った鍾乳洞での出来事を忘れたくて大きく息を吐きだした。
人間の負の感情で作られるのが魔物、闇の者だとしたら……それが生まれる理由なら、どうやって殲滅することができるだろう。それが本当ならいま私を塗りつぶそうとしている薄暗い感情を糧にどこかで魔物が生まれたはずだ。
闇の物を殲滅しないで元の世界に帰る方法を見つけることだって、時間が保証されないと分かったいま意味のない夢のようなものになっている。
本当、最悪だ。
 
「禁じられた森以外であなたたちがよく見る魔物というのはほとんどはクランという闇の者です。クランに寄生されたものはその形と色を残しつつ他のすべてを奪われ最終的に闇の者クランになります。
本来闇の者は全身真黒な姿をしています。そうです。謎の魔物といわれるあの姿をしています。禁じられた森の奥は彼らであふれている。全身を黒く彩った獣型の闇の者ダーリス、顔を持たない影のように揺らめく人型の闇の者ユラメ……ホーリットであなたと見た闇の者はサバッドになりかけていたユラメです。そして完全なる人型で銀髪に赤眼をしたロストという闇の者。闇の者の目は私のように赤かったでしょう?」

隠すこともなく自分の目を指さしたラスさんは私と目が合ってからもしばらく無言だった。

「……赤眼をした魔物サバッドと呼ばれている者の多くはただの人間です。眼が赤くなってしまう原因は様々です。先天性のものだったり森の魔力にあてられた結果であったり赤眼の両親を持つ子であるから──様々な理由があります。
しかし理由はどうあれ違いを持つ私たちは化け物と……サバッドと呼ばれ、疎まれ、迫害された。そのようなことが現実になってしまったのは、先ほどお話ししたように闇の者の中に人型の赤眼をしたロストが確認されていたからです。上位のユラメもロストも斬り殺すことは難しい。見れば死ぬとまで伝えられるものです」
「でもあなたは殺せた」
「そうですね。申し訳ありませんがこれは教えられません」
「……そ」

ここまでスラスラと貴重だろう情報を教えてくれた彼がそう言うのだ。無理やり口を割ろうとしても無駄だろう。
彼は続ける。


 
 
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