狂った勇者が望んだこと

夕露

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第三章 化け物

193.馬鹿な人

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シーラたちを探しに森に行ったリヒトくんは戻ってこなかったため今いる面子だけで映像を見に行くことにした。好きにどこかへ行ける状態になっているリヒトくんはいくら名前を呼んでも気が済むまで帰ってこないだろう。それに映像が毎回最初から始まることを思えば、リヒトくんと合流するのはロイさんの最期が終わってからか映像がすべて終わったあとでもいいはずだ。
いざとなったら黒い道を使って探すかネックレスを使って転移すればいい。

「これは……話に聞いてたけどほんま凄いな」

初めて遺跡を見て石像の問いかけを受けたライは先に1度来たことがあるセルジオたちから説明を受けていた。ぱっと見では不可思議な現象を楽しむというよりは難しい顔をして思案している。

「はい!初めまして誰かさん!」

そして詩織さんとヴェルの映像が始まるとセルジオとリーフがそれぞれなにか言い合いながらメモを取り出した。どうやら映像の記録をとるらしい。ライは映像を食い入るように見ていて、大地はそんなライにときどきちょっかいかけてはハースに止められてと忙しい。


「……それで?いつまでそんな感じなんですかね」


隣で座るレオルドを見れば蒼い目がすっと逸れていく。どうやら拗ねている?ようだ。今まで私が他の男と関係を持っても望んだことだと言って、セルジオのときなんか手伝いまでしたというのにライだけは嫌らしい。解せないけど分かりやすすぎるほど落ち込んでるからへたに何も言えなくて映像に視線を戻す。

「……テカはなんでそんなに人の望みに興味があるの?」

ヴェルの問いかけにポニーテールがふわりと揺れて詩織さんの驚いた顔が見える。驚いた顔は困った顔に、そして最後は優しさ浮かぶ表情に変わった。

「ここがね?私にもだけどあなたにも参考になったら良いなあ」

その言葉を聞くのは2度目だというのにまた私の胸を震わせてオーズはいないのに泣きたくなってしまう。私の望み、私の望みは。


「ねえ、サク。俺はいままで君に言ってきたことに嘘はないよ」
「……ん」


映像を見ながら話し続けるレオルドが言葉を選ぶようにゆっくりと話し出す。地面についていた手にレオルドの手が重なって、普通ならドキリとしそうな場面だというのに様子がおかしいレオルドに気味悪ささえ覚えてしまう。よく分からない自論をもっていつも人を振り回してるくせに……まあ、意外と面倒見がいいし気をまわしもする奴だけど。

「でもときどき、俺だけがと思ってしまうときがある……あの男を見ると、本当に……」

言葉の続きを聞きたいような聞きたくないような微妙なところだ。レオルドを見てもまだ視線を合わさない。絡む指を撫でればそれには返してくれる。

「俺だけ、ねえ」

思い出すのは不安だと殊勝なことを言った暗い顔だ。
『俺だけが君を欲しがってる』
あのときのことを考えれば、そういうことだろう。かといって素直に何度も好意を伝えるのは、なんというか難しい。どうしたものかと映像に意識を戻せばクォードさんが聖剣を手に入れたところだ。

「なんでライをそんな邪険にすんの?もしかして前から知り合い?」
「あの国にいたころから特に関わったことはなかったよ。ただ、君がよくあの男の店に行っていたのは知ってる」
「ん?」
「路地裏のあんな遠い場所まで時間があれば行ってたっけ」
「え、こわ……」
「怖い?そう……俺は、君が好きな男はアイツだってことも知ってるよ」
「え」

予想だにしなかったことを告げられて素で驚いてしまう。それをどうとったのか手が握られて、思わず顔を見ればまだ視線は合わない。
なんだろな……。
面倒とは違う感情がわいて、緩んでいた口元から息を吐きだせば吹き出すようになってしまった。

「知ってたんだ」
「否定しないんだ」
「意外。レオルドってなさけないところあるんだ」
「……」
「ふうん、そう。それで」

好きと認めるのに長くかかった男の話をしているのに恥ずかしさや気まずさより子供みたいなレオルドが面白くて笑える。ああでも最近……私がリーシェとして動き始めて他の奴らも一緒に行動するようになってからはあんまりだったけど、思えば会ったときからずっとコイツは子供みたいだった。もしかしたらレオルドのいう我慢のひとつがこれかもしれないけど、それなら隣にいる女々しいことをいう子供はなんだろう。もしかして甘えているんだろうか。
そんなことを考えて、そんな自分にまた笑ってしまう。
不満そうなレオルドの視線が一瞬だけ見える。

「あのとき君に魔力をあげるだけじゃなくて抱いたのはそんななさけない感情のせいだよ」
「あのときって、フィラル王国でのこと?」

返事はないけれど合っているらしい。春哉の奴隷魔法を解いたあとレオルドの部屋に飛ばされてそのまま朝まで過ごした日のことだ。
レオルドに手を伸ばして口づけたあの瞬間のことはよく覚えている。
こんなことは望んでなかった。そう想う自分が許せなくて、私が望んだことだって決めてレオルドに手を伸ばした。笑えるのが自分で自分に魔法をかけたんじゃないかってぐらい、レオルドと過ごしたあの日の時間のことを思い出せなかったことだ。意識しないようにして記憶を薄れさせて、たかがセックスだって、ただの魔力補充だって思い込んだ。未知の快楽に酔って魔力に溺れて早く終わればいいって、レオルドが真面目に話していることも信じなかったしぜんぶ聞き流してた。
でも、思い出す。

『信じないだろうけど、俺はね?君が帰りたいのならできる限り力を貸す』

真名の話をしているときも同じことを言ってた。妊娠しないようにレオルドが魔法をかけたときだって、チャンスがきたとき枷にならないようにとか言っていたっけ。あのときはどうでもよかったけど今ではあの状況でそんなことに気を回せたレオルドに感謝してる。

『分からなくていいけど俺は君がほしくてたまらないんだ。やっと見つけた。だから……君の望みを叶える。だから、お願いだから俺を』

またひとつ思い出す記憶はなさけない顔でなさけないことを言うどうしようもないものだ。
蓋をしていた記憶を思い出せるようになったのは色んなことを受け入れられるようになったからだろうか。それともただたんに長い時間をかけたことで客観的に見られるようになっただけなのかもしれない。分からないけど、思い出す記憶に隣の奴を重ねてみると表情が緩むんだ。


「馬鹿なヤツ」


先に身体だけでもほしいと言って楽しんだくせに不安になって……本当に馬鹿としかいいようがない。あのときレオルドの心情を知ってもやることは変わらなかった。結局、私はレオルドに手を伸ばしただろう。
馬鹿な奴だ。
『レオルはアンタを追って飛び降りた』
置いてかれないように追いかけてきて望んでもないこと言って、私がこの世界を選ぶ理由を作ろうとして、今はひとり拗ねてる。どうしようもない。
それで……なんだろうな。助けようとしてくれてありがとう、なんていうのは今更かな。

「レオルド」
「……」
「私を見ろ」
「……」

無視し続ける子供の手を持ち上げて口づける。唇越しに伝わる肌は温かくて、びくりと震えた。目を開ければ青い血管に骨ばった手。見慣れた古傷をたどって顔をあげれば驚きに固まるレオルド。
――ああ、やっぱり悪くない。いい気分だ。
手の甲だけじゃなく手の平にも口づけてみたくなったけど、調子にのったあとが怖そうだから代わりにレオルドの手を自分の頬につける。熱い手。


「いまさらな話」


はっきりと言えば緩みきった唇が嬉しそうにサクと言って……ああ、違和感を覚えてしまった。

「そうだね、今更だったね」

触れるだけの口づけがなんでこうも心を騒がせるんだろう。離れていく唇に、吐息に、目の前の幸せそうな男に落ち着かなくなる。

「錯覚魔法でごまかすのもしんどいからもう離れろ」
「錯覚魔法解いたら?なんの問題もないよ」

にこにこ五月蠅いレオルドを突き放す。
映像はまだ続いていて、ようやくリルカの話まで進んだところだった。もしかしたらこの映像を見ているあいだにリルカが現れるかと思っていたけどその気配はない。
『お互いしんどいから、もうお終いにしよう?』
惨劇を味わい死してなお長い時間苦しみ続けて諦めに笑う彼女のことを考えてしまったせいだろう。助けて、なぜ、辛い、苦しい――そんなナニカの声が聞こえたきがした。ナニカは泣いて諦めて落ち込んで恨んで、でも期待して……探し続ける。

じっと、見続ける。





『だから、お願いだから俺を――見捨てないで』





思い出した記憶はもう蓋をしても意味がない。








 
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