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第三章 化け物
194.この世界の人間
しおりを挟むリルカの話が終わってランダーの話が始まったところでようやくレオルドが諦めてくれたから映像がよく見える場所に移動する。
「それで?照合とやらはどこまで進んだのかな」
「レオル。ちょうどよかったあなたの意見も聞きたかったんだ」
皆と合流してすぐ意外なことにレオルドが自らセルジオとリーフに話しかけに行った。映像の記録をとることは3人で考えていたことだったのかもしれない。にしてもセルジオがレオルドをレオルと呼べるようになっている光景は感慨深い。憎まれ口叩くリーフと並ぶ3人の姿はフィラル王国の兵士が見たら驚きに声を失うには十分なものだろう。ハースはきゅっと口を閉じてなんともいえない顔をときどき浮かべては大地に笑われて平静を取り戻している。
「なんや鬱陶しいぐらいに元気になってんなあ。慰めてあげたん?」
「言い方に悪意あるどころじゃないですよね」
「だから俺アイツが嫌やねん」
にっこり笑って隣に並んだライを見ながら含まれた意味を考えてしまう。だから?レオルドがライを把握していたようにライもレオルドを見ていたようだったけど……。
『レオルやってアンタは受け入れた』
『俺だけのものにできたはずやったのになあ。でもまあミスったんは俺や』
『──なあ、俺で最後にしい』
思い出す言葉に自然と目を閉じて微笑んでしまう。
最後にこだわったのはそういうことか?いや、なにも考えないほうがいい。世の中べつにすべて答え合わせする必要はないだろう。面倒くさい、本当に面倒臭い。
「それで?随分熱心に映像見てたけどなんか気がついたことあった?」
「いや、そもそもこの映像がおかしすぎるわ。数百年前に作られたもんやっちゅうのにところどころ擦れてるとはいえちゃんと残ってて、条件をクリアしたら勝手に動くようになってる。かといって動力源は願いをいう対象ではないしな。魔の森から魔力を使ってるとしても、この魔法をかけた人物がいないのに勝手に魔法が発動し続けるって不気味やで」
「ひとつ予想してるのがここには闇の者が憑いていてそいつが魔法を使ってるってやつなんだけど」
「闇の者が場所に憑くって?」
「コスボハっていう物の魔物もいるみたいだしおかしいことじゃないだろ?生き物だけじゃなく無生物にも憑くんだったら空間にも……場所にも憑くだろうし」
怪訝そうに眉を寄せるライに思わず言い訳めいた言い方になってしまう。
『怨嗟が積もってあそこは闇の者の巣窟になってるんだよ。いや、あの崖の下の空間が闇の者そのものになってる』
ロウが言っていたことを思い出しながらこの話をライにしてもいいのか悩みどころだ。ラスさんはお互い協力することにしてるし教えてもらったことはアルドさんに話して有効活用してるけど、オーズの話をするのはどうだろう。あいつがロストだということがバレたらこいつ経由でジルドに伝わるだろうし経緯の説明やら解明のための追求と面倒なことになりそうだ。あいつがいない今、矛先は間違いなく私に向かう。あいつが戻ってきたとしても追及されることでレオルドと同じかそれ以上の力を持ってる奴が不機嫌に暴れたら戦争を前にした現状ではいい方向には進まないだろう。そもそもあいつは自分のことなのに他人頼みにすべてを望んだり他人の望みを本人の力ではなく勝手に叶えたりすることを毛嫌いしている。
『それに俺の望みが叶わなくなるんだよ』
答えを教えろと言う私に静かに微笑む顔はきっと素直に話すことはない。話せば叶わなくなる願いがなんなのか予想がついてしまった以上、これは確信に近い。
『見当違いもいいところだ。俺は会いたくなんてねえよ』
『いつも憎まれ口を叩きやがるのに最後の最後で……救われる?何言ってやがる。言い捨ててそれで終わりかよ』
あやふやなソレに名前を与えれば形になってしまう。
ヴェル、詩織さん。
2人はどこかでサバッドとして生き返ってしまったんだろうか。でもおかしいのは2人がサバッドになっていない証明に記憶を確認してるくせに、ディオが私に詩織という名前を提案したことだ。詩織さんなら生き返らないから?けど、詩織さんも違う世界から召喚された勇者だ。いや、数百年もまえは勇者という認識はなかったことを思えば勇者という名目はなく異世界から召喚されたというのが正しい。
「見えもしない感じもしないのにいるっちゅうのはやっぱ不気味やね。それなら闇の者は空気のようにどこにいてもおかしくないってことやん」
「まあ、そういう予想してる」
「じゃあこれは?多かれ少なかれ人は必ず負の感情を持ってるもんやろ。それなら1人だけじゃなくこんだけ人がいればここに憑いている闇の者はどんどん増えていくんやない?それとも増強される感じなんかなあ?」
「いや、そこまで詳しくないからなんともいえないけど……でもどちらかといえば増強っていう感じじゃない?闇の者が憑いた対象はどんどん色を失って最後は真っ黒になって完全に闇の者になるってことは対象に侵食していくことだろ。あーでもそれならここはサバッドみたいに色を取り戻した場所っていってもなんか無理があるよな」
「せやなあ」
ライはずいぶん面白そうに悩む私を見ている。けれどその視線が一瞬逸れたあと悩み始めて、たっぷりの時間をかけたあと重々しく口を開く。
「俺はな、これまでのことがあって勇者と魔物のことはそれなりに調べてきた。ジルドが魔物のほうに興味をもったのと比べて俺は勇者のほうが気になったんやけどな」
「……勇者の子供だから?」
「それもあるけど、ジルドがさんざん化け物や魔物やいわれてきたからなあ。人と勇者ってなにが違うんやろって気になってん。だから勇者が魔物って話を聞いたときかなり笑えたんよ。魔物を連想させる外見のジルドを魔物と呼んで魔物を倒す象徴の勇者を崇めてるけど実は勇者のほうが魔物でした、なんてなあ」
「友達想いなんだ」
魔物と呼ばれる友人のことを気にしてたんだと思ったまま言えばライはからからと笑う。
「あいつは勇者と違って阿保みたいに努力してつよおなった人やからな。こんな言い方は勇者に失礼か?でもな、勇者は魔法の使いかたが異常でろくに修行もせんと当たり前に魔法を使いよる。俺も勇者の子供としてその恩恵を受けてアイツと一緒に育ったからよお分かる」
「……勇者の子供は勇者と同じかそれ以上の魔力を持ってるんだっけ。それならライはそんな力を持っていて、同じ勇者の子供であるジルドにはそんな力はなかったってことだけど」
「せやで?他の勇者とも比べてきて俺は確信してる。俺はただの勇者の子供や。魔力は同等以上あるとはいえ勇者の発想が俺にはないし劣化版やと思うてる。勇者同士の子供であるジルドは勇者の子じゃなくてこの世界の人や」
ラスさんが言っていたことと同じだ。それに私の予想と同じライの確信に違和感を覚えてしまう。勇者の子供はこの世界の人、つまり魔物じゃないというルールがあるのなら誰が作ったんだろう。誰がというよりこの世界の理なんだろうか。
『なぜ勇者召喚が出来たのか、なぜ、魔法がつかえるようになったのか――最初に魔法を使ったのは誰なのか』
ラスさんの言葉を思い出す。
最初に魔法を使った人がそんなルールを作ったのだとしたら?
「でもそれならますます分からんのが人と勇者の違いや。分かりやすい違いいうたら扱える魔法と威力やけど、それじゃ魔法を使う源である魔力に違いはあるかっちゅうと多いか少ないかぐらいでそのものに違いはない。まあ、魔力交換は味に違いがあるけどそれぐらいやしね。そもそも魔力はぜんいん持っとるし」
「それ……そうなんだよな。人も勇者も化け物に違いないし特に明確な違いが分からないんだよな。異世界から召喚されたっていうのが勇者でそれは違いだけど……」
「願った人のぶんだけ想いが詰まった召喚でこの世界の人として作られるのが勇者。負の想いで作られたのが魔物なら同じく想いで作られた勇者も魔物。それなら想うことができる存在が人、想いで作られたのが魔物ともいえそうやけど、魔物もいろいろ想うてるみたいやし連携して襲うとこみたらちゃんと考えてもいる」
「うん……」
返事をしたいのに魔力のことがひっかかってうまく頭が回らない。
奇跡を起こす魔法の源である魔力。
『私達の世界に魔力がないものはいません。いるとしたら死人のみ……生きている前提として魔力はあります。魔法として使える魔力は、個人が持つ生きる最低限に必要な魔力を超えた余分なものだけ』
最初にミリアが言っていたことだ。この世界のぜんいんが持っている魔力。
『あ、内緒だよ?僕ってね魔を持つ人なんだ。凄いでしょ?』
昔と今の違いの話を考えれば昔はぜんいん魔力を持っていなかったか、ぜんいんが魔力を持つものだと認識されていなかったことが考えられる。魔力は想いで魔法はお願い。魔力を足しさえすれば、思えば、願うだけで奇跡を形にしてしまえるこの魔力はなんだ?
『魔力は生きているものにしかない生命エネルギーだ。魂の容量で大きさは変わり魔法として使えるのは余剰分だけ』
生命エネルギー。元の世界でファンタジーなものに慣れていたから違和感はなかったけれど、そんなもので奇跡が起こせるなら元の世界でだって普通に魔法は使えていたはずだ。異世界だから?この世界だから?この世界はそういう理があるから?
ソレ自体がもう異物だ。
『勇者様たちが私達の世界の人間になって、そうなった身体に流れる魔力は最初はうまく使えません。身体のなかに貯めることが出来ずに外へと放出してしまうのです』
この世界の人間になった身体には魔力が流れている。この世界の人間。召喚された勇者は最初魔力を貯めることができず外に流し魔力欠乏症になってしまうけど、徐々に身体は慣れていく。この世界の人間。魔力欠乏症の症状は作り替えられる身体の悲鳴にも思えてくる。
『あなたは私達の世界に入り込み、あなたの身体は順応した』
この世界の人間。
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