狂った勇者が望んだこと

夕露

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第四章 狂った勇者が望んだこと

230.「謎を」

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ゴルドさんと別れたあと、教えられた帰り道を歩いていたら数秒で違和感を覚えた。気になって引き返してみたら、同じ道順を辿ったはずなのにゴルドさんの村に辿り着くことはなかった。一方通行だというのは本当のようだ。
目的の場所に辿りつくための正しい手順はとても大事だと言うことが分かる。

『魔の森ってね、行きたい場所には正しい道順で歩かないと辿りつけないの。森に溜まった魔力がそうさせるんだって。面白いから私すぐ覚えちゃった』

フールやディグ爺とも魔の森の話はしてたみたいだけど……ラウラは道順をお父さんに教えてもらったって言ってたっけ?
 となると目的の場所が魔の森にあるのなら、知っている人に教えてもらうのが確実だろう。


「問題なのはその知ってるって奴自体分からないってことだよな。つーか小難しいことばっかでめんどくせー」
「あ、大地。はよ」
「はよ」


どうやら私はまた独り言を言っていたらしい。
欠伸する大地の向こう側には地面の上にひいた布団の上で寝ているセルジオたちが見える。レオルドと夜を過ごすときに見たとはいえ何度見ても不思議な光景だ。シールドを張って闇の者対策をしているとはいえ魔の森で布団の上に寝ているなんて、普通の人が見たら目を疑う光景だろう。でも私の次に起きた大地は最高の野宿だったと太鼓判を押していたし、地面の上で寝ると寝た気がしないし、今後もこれでいこう。


「知ってるかどうかはまだ分かんないけどあてはある」
「マジで?つーかどこ行くつもりなんだよ」


魔の森でリーフたちと合流したあと、私たちはお互いの情報交換で一日を費やすことになった。
私は、呪い子と呼ばれた最初に魔法を使ったヴェルやその子孫のレオルドのこと、魔の森に暮らすゴルドさんたちの価値観に伝えられてきた物語、勇者召喚にたてられた予想などを話して、リーフとセルジオは英雄伝の時系列や実際にあった物語という視点で見たとき描かれた登場人物は誰なのか、イメラたちの願いのことなどの仮説を話してくれた。

私とセルジオとリーフは地図や本や紙を広げておおいに盛り上がったけど、ハースと大地とレオルドはあまり興味がないことらしく、早々に寝てしまった。徹夜組も限界がきて寝ることになったけど、私は興奮しているせいか数時間で起きてしまって今に至る。
おかげで十分な睡眠をとった大地の悪気のない、ある意味無関心な質問に笑みが引きつる。


「リヒトくんたちの村」
「リヒト?マジか……行けんの?あてって誰だよ」
「イメラ」
「イメラ……あー!あのおっかねえ美人か」


イメラをそんなふうに流せて羨ましい限りだ。
相槌を打ちながら欠伸をする私に大地が鞄から干し肉とドライフルーツを取り出して分けてくれる。私もお礼に果物ジュースとパンを四次元ポーチから取り出して分ければ「ずるい」と言われてしまった。そういや大地はこれが使えないんだった。他の魔法も相変わらず使えないものが多くて、本人曰く不便が多いらしい。
これじゃあ以前私が大地に保険に言ったことは効果がないかもしれない。魔法をそういうものと思えば使えると思っておけば大地にくるかもしれない危険な状況を逃れられると──


『呪い子を作った力──その力は文字通り、なんでも出来てしまう……叶えてしまう』


──もしかして、ゴルドさんも私と同じような気持ちであんなことを言ったのかもしれない。
落ち着いて考えたりちょっと離れた視点で見てみれば気がつくことがある。それはきっと私が見るものを決めてしまっているせいだろう。


「ってかイメラって会おうと思ったら会えんの?」
「そううまくいかないし、今ここに来られてもいろいろ段取り悪いから場所を移してから数日かけてでも試してみようと思ってる」
「場所移すって?」
「禁じられた場所になっているキルメリア跡地に行こうと思ってる。本当はもともとラミア国だった古都シカムのほうがよかったんだけど、昔と違って森で覆われて景色が見えないからキルメリアのほうで手を打つ。フィリアン王女は聖剣が眠る聖なる場所を知っていたし、イメラの先祖にあたるはずだからなにか関りがあるはずなんだ。フィリアン王女の日記を持ってきてくれたのもイメラだったし」
「あー難しいことはパス。行ったら分かるんだったらそれでいーや」
「じゃあ聞くな」


饒舌になってしまう私を見た瞬間、大地はうぇっと顔を歪めたあと私の話し相手を作ろうとしたのかセルジオたちを起こしに行く。失礼極まりない。

ああでも、そんなのに構ってられないぐらいしたいことが沢山ある。

本当は梅とロナルに会いに行きたいけど、梅がイメラを見たらどんな反応するか分からない。異常なほど私に執着している梅が、ときどきとはいえ私を殺そうとすることもあるイメラを見て穏便な話し合いを許すとは思えなかった。それならいつ現れるか分からないイメラの問題を片づけてしまったほうがいい。それにサバッドたちの願いを叶えるためにはイメラから手を打つべきだ。
イメラとリヒトくんを会わせることがいい結果に繋がるかは分からないけど、現状、試せる方法はそれぐらいだ。場所や状況にあわせて記憶を見ることを考えれば、リヒトくんたちの村は大きな手掛かりになる。

『クォードとヴァンの墓を見つけたっ』

……ああでも、イメラたちに関わることならジルドも呼んだほうがいいのかな。
なにせ神聖な場所はクォードさんとヴァンが眠るナナシの村だった場所で、リヒトくんたちはその村で過ごしていた子孫だ。ジルドの英雄伝の知識を借りればリヒトくんたちの村を見つけるのにも──いや、駄目だ。
ここにはレオルドもセルジオもリーフもいるんだ。まだ私がサクだってバレるのは止めておきたいし、それに次時間がとれるのは2週間後って話を聞いてるのに、会って3日しか経ってないのに連絡とるのもどうなんだって感じだ。


「おはよリーシェ……よく寝れた?」
「あんまり。セルジオとリーフも眠そう」
「ん……」


大地に起こされて目を擦るセルジオとリーフはふらふらしていて危ないかぎりだ。取り出したタオルを水で濡らして渡せばスッキリと幸せそうな顔。
大地を完全無視して眠り続けるレオルドの姿と五月蠅い大地と喧嘩しているハースが背景になければつられて同じ顔をしそうになる。
だけどリーフとセルジオは私が持っていた紙を見て瞬くと、眠気を吹き飛ばしてにいっと笑みをつりあげた。反応の良さにわきあがったこの感情は、もう誤魔化しようがない。




「謎を解きにいこう」




私の誘いに2人は目を輝かせて同意した。こればっかりは我慢できなくて私も笑ってしまった。






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