狂った勇者が望んだこと

夕露

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第二章 旅

107.「……変わった魔法」

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投げやりとはいえ一つ話が済んでホッとしたら少し肌寒さを感じた。冷たい風が廊下の向こうから流れてきているらしい。
誰か来たんだろうか?
とはいっても玄関を見ても誰もいない。ああでも奥のほうで人の歩く音がする。もしかしたら宿屋の人かもしれない。暖炉があった場所はこの宿のリビングしかなかったからずっと居着いて使わせてもらっているけれど人が増えるなら移動したほうがいいかもしれない。話す場所が場所なだけに会話の内容は他の人には違う内容に聞こえるよう魔法をかけてはいる。でもこんな辺境の土地でももしかしたら魔法に長けている人が魔法を解いて話を聞いていることだって――大丈夫か。魔法が破られたらそこで気がつくしな。
心配なのは女二人だけで居続けているのを見られることだ。
この世界の特徴から考えて片割れがいなけりゃおかしいし、旅慣れした女だって比較的安全な土地でも一人きりでいることはほとんどない。
しょうがない。あと少ししたら移動するか。

「あと、そうだな。梅子がこの世界に来て今日私と会うまでに、梅子がなにかしたことってある?他にはされたこととか、印象的だったこと」

梅のことだから私以外どうでもいいとか思って話を端折ってそうだから聞いておくと、梅はうーんと唸ったあと「そうだ」と胸騒ぎがする笑顔を見せた。

「ロナルにあの花あげたよ?ダメだった?」
「いや、それは別にいいけどそれだけ?」
「……ロナルはずっとサクがあの花にかけた魔法について知りたがってたから、助けになればいいって思って私も魔法をかけた」

あの花にかけた魔法というと、ロナルへの伝言か。
『この子を守れ』
それだけの伝言。だけどそれだけじゃない。お願いよりも命令にしたのは、ロナルが臭わせていた奴隷魔法をロナルがかけられてもかけられていたとしても関係なく私の伝言を守れるようにしたかったからだ。お願いなら選ぶ権利があるけれど、命令なら従わなければならない。強い意志でもって命令に反することはできるだろうけど、ロナルはそうしない確信があった。中立よりながら協力者を申し出たときのロナルの顔を思い出す。
……そろそろ転移球を使って連絡をとるのもありかもしれない。いや、アルドさんと連絡をとるのを先にするか?微妙に悩むな。
しかしこの魔法、私は精神魔法の類いだと思ってたけど、今思えば洗脳とか奴隷魔法みたいだな……。あのときは切羽詰まっていたとはいえ今度ロナルに会うようなことがあったら梅のこと含めて謝っとこう。多分。


「ロナルはあの伝言をどう使いたかったのかね。……まあ、ジルドのためだろうな」
「そう。ロナルとジルドって意外といい組み合わせなんだよ。ロナルってなに考えてるか分からない雰囲気だしてるくせにずっとジルドのことしか考えてないの。なんでもジルドジルドジルド。ちょっとおかしいぐらい」
「……とりあえずこれだけ突っ込むけど、似たような人知ってるわ」
「ええ~誰そいつ。まあとにかく本当に必死だったから……『あの人の力になれない』って『あの人は自分を殺しすぎる』って『あの人は最終的に自分を後回しに、犠牲にする』ってずっと言ってて……私も似たような人知ってるから力になりたくなった。だからお別れするときあの花にロナルの願いが叶うように魔法をかけたんだ」
「……変わった魔法」
「そう?」


だってそれって人の願いを叶えるための魔法だ。
祈りのようにも思えるけれど、実際に叶えさせてしまうのなら神様を彷彿とさせるような、反則技な気がする。


「見届ける前にこっちに来たからどうなったかは分からないけど、あの花をロナルに渡して『とりあえずやってみたらいいでしょ』って発破かけたから……やりきっただろうなあ」


梅がそのときのことを思い出しているのか、ロナル自身のことを思い出しているのか分からないけれど、驚くほど穏やかに微笑んだ。
……本当に驚いた。
梅がこんなふうに誰かのことを話すのを初めて見た気がする。ロナル凄いわ。胡散臭いとか厄介だとかぐらいにしか思ってなかったけど、本当凄いわ。驚きすぎて語彙力低下してしまう。
そして、決意する。
早くロナルに会おう。梅にこんな顔をさせた男だ。どんどん梅と仲良くなってもらおう。梅が執着するものはどんどん増えてほしいし、なにより私にかかる負担を減らしたい。……まさかこんなにロナルに会いたくなる日が来ようとは夢にも思わなかったわ。


「あとはさっき話したことぐらいかな?魔物が現れてシールドを壊したぐらい。印象的だったのはそれぐらいで他は覚えてないや。どうでもよかったし……ああ」
「ん?」
「……ジルドが自由になったらどうするのかなって思って」


魔物が現れてシールドを壊したことを”ぐらい”でまとめれるんだから凄いな。ぼんやりそう思っていたら、一瞬誰それ?と思ってしまったぐらいの人物の名前が聞こえてきた。ジルド。そういやアイツ梅の話から考えるに今大変なんだろうな……。立場が立場だし。

「あー、そもそもジルドがなにに縛られてるのか詳しくは分からないんだけどな。古都シカムとフィラル王国の勇者召喚についての関係からみると、まあ、国絡みなんだろうけど。古都シカムの町長の息子がこんな国の軍事トップだし」
「ん。ロナルが言うには人身御供だって」
「……物騒な単語」
「サクはどう思う?ジルドが自由になったらなにするんだろう?サクにとってジルドはどう見えてる?」

近くでずっとロナルの言葉を聞いてきた梅はなにか思うところがあるようだ。個人的意見としても梅がもっとロナルに興味を持てばいいと思うから会話にのる。
しかし、ジルドか……。

「……脳筋?」
「ロナルとおんなじこと言ってる」
「うん、それ。ロナルが言ってた脳筋ぐらいしか思い出せなかった。あとは赤髪ロン毛で戦闘馬鹿で血の気が多い……ぐらいか?それで……勇者の子供で、なんか苦労性っぽい?あー……女性に弱い?丁寧?……ごめん、ギブ」
「ふふっ!でもぜんぶ合ってる。ロナルから聞いたとおりだもん。私は二回しか会ったことがないからなんとも言えないけどさ。……でも多分、頭が固いっていうか捨てれない人だと思う。懐にいれてしまったものに関しては板挟みになってもそのままでいて、なんていうかな」
「……知ってる似た人がそう?」
「へへえ-」

私を見て笑った梅に、私も笑ってしまう。
やっぱり敵わないわ。
私に関する記憶がないうえこの世界で会って話した時間ってそんなにないはずなのに、梅は元の世界で私に言ったことと同じことを言ってる。

「~~っ!デレた。サクがデレた!」
「はいはい」

ニヤニヤ笑う梅を無視して、私の身体にもたれかかってきていた小さな梅の頭に顔をのせる。丁度良い高さだ。元の世界でも部屋でゴロゴロしているときよくこうやってもたれかかりあいながら時間を過ごしたもんだ。

しかし、そうか。
ジルドが私みたいな性格ならアイツはこれからどう動くかな。

私みたいだけど戦うことに関しては積極的でそこは大地みたいな奴か――残念だけどロナルと会うのはタイミングを見たほうがよさそうだ。きっとジルドは自由になれたとしてもあの国を捨てないだろう。国というより魔物に襲われ疲弊した城下町の人々を捨てることができなくて、結果、あの国に残り続けるんじゃないだろうか。そのさい地位はどうするのかは分からないけれど、万が一私と会うようなことがあったら掲げる建前も残っていることだし嬉々として襲いかかってきそうだ。
想像に眉を寄せていたら、廊下の向こうで聞こえていた足音が大きくなっていくのに気がついた。向こうさんもこちらに人がいるのには気がついているようで、まっすぐにこちらに向かってきている。


「失礼、儂はこの宿の者なんですが、お連れのかたはどちらにいらっしゃいますかな」


しゃがれた声に振り返れば、老齢の男性が立っていた。こちらを脅かさないように発せられた穏やかな声色はその人の性格を現しているようだ。白い髭を生やしたその人は目元を緩やかに下げてこちらを見ている。公園でチェスをしていそうな人だ。

「連れはいま部屋で休んでいるところです」
「そうですか。なに、さきほどこの宿に保護魔法をかけ終わったところでしてな。この宿の中でしたらゆるりとお過ごし頂けるとお伝えしたかったんです。勿論、外に出られる場合はこのような田舎でも女性一人では歩かれませんように」
「わあ!それって私たちのために?ありがとうおじいちゃん!」
「こら梅、おじいちゃんて」
「いいんですよ。おじいちゃんなんてなかなか呼んでもらえませんからな。光栄です。保護魔法はちょうどかけようと思っていたところだったんですよ。よい時に来られましたな」
「そうだったんだー。あれ?おじいちゃん、お孫さんはいないの?」
「……最近は会っておらんのですよ」

まるで前から知っていた人のように話しかける梅にも快く返事する男性は眉を下げて目元にシワを作った。ちょっと困ってる?
あんまりにも柔らかい態度だから判断がつかなかったけど、一応、ソファの背もたれに身体を預けるどころか前のめりになっていた梅の頭を撫でて少し落ち着かせる。……ん?逆効果だったか……?まあいいや。
矢継ぎ早に質問していた梅が黙ってニヤニヤ笑い出したところでソファから立ち上がる。男性に向き合うと、ソファで見たときよりも小さく見えた。少し腰の曲がった男性は私を見上げて微笑む。
頭を下げた。

「お気遣いありがとうございます。保護魔法は明後日から始まるという雪祭りに合わせてですか?」
「そのようなところです」
「そうですか……」

これまでの男性の話を言い換えたら、保護魔法をかけた宿の中なら女性でもゆっくりできる空間だから安心していいということだ。悪意を持った人は入れないようにするのか、今日宿泊する人しか入れないようにしているのか、どちらともなのか……。その仕組みは分からないしなんでもいいけど、かけようと思った理由は知りたいところだ。元々は私たちの、お客に対してのものじゃないらしいし、女性だからということでもないようだ。


「そういえば先ほど雪崩が起きていましたけど、雪祭りには影響なさそうですか?」


濁された言葉を追求しようか悩んだけど、止めておいた。ここは素直に宿の中ではダラダラしても大丈夫って状態を喜んでおこう。
そう思って話を切り替えたら、なぜか男性は一瞬息を止めたように顔を強ばらせた。そして温かみのあったはずの声を震わせて、眉さえ眉間に寄せて不安混じりに私を見る。


「雪崩、ですか」
「……はいそうですが」
「結構大きな音してたよねー?」
「私は保護魔法をかけに行っていて、いや、大丈夫きっと」


狼狽し一人呟く男性に、追求しないでおこうと思った”保護魔法をかけた理由”がチラついて、私まで胸騒ぎに喉が渇く。
どくん、どくんと心臓が動いてビリ、と痛みが走った。

……?

どこかで覚えがある感覚。
『そ。解けたり相手が死んだら、分かる。離れてても状況は分かるから躊躇すんな』
懐かしい記憶。
リーフ。
次々と思い出す記憶や確信が予感をつれてくる。音が聞こえる。雪を踏む音、荒い息遣い、声が聞こえる――。


「サク?」


首を傾げた梅の横を通り過ぎて、まだ混乱しつつも私の動きを見る男性の横も通り過ぎて、玄関に向かう。もう音は目の前まで来ていた。
バンッ、と乱暴に開いたドア。そして部屋に響いた悲鳴。



「じいちゃん手を貸してくれっ!セルリオがっ!」



――リーフ。
この世界で出来た相棒が、泣きそうな顔で立っていた。








    
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