愛がない異世界でも生きるしかない

夕露

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【トアと過ごす時間】

61.オカシイ聖騎士

 




丁度お風呂から上がったときだった。部屋に入ってきたトアと目が合う。

「よ、今終わったとこ?」
「そうです」
「えーアンタまだそんな感じでいくの?堅苦しすぎるって」
「そうですか」
「ははっ!こりゃ駄目だ」

梓は髪を拭きながらからから笑うトアを眺める。あの一件があってからというものトアに堅苦しいと再度言われてしまうぐらいには梓の態度はつれないものになってしまった。
ふむ、とトアは考える。一時は敬語ながらもう少し柔らかな態度だったのに今では日が経つほどに悪化していく。これはよくないが願ったりか叶ったりでもあった。

「樹、相談があるんだけど」
「……なんですか?」
「まあ座って話そうぜ?」
「紅茶でいいですか?」
「おう」

頭の後ろで手を組むトアは普段通りの明るい表情だ。けれど変わった声色に梓は悩んだあと紅茶を淹れる。涼しい部屋、のぼる湯気。カチャリと茶器が音を鳴らした。


「俺達手を組まねえ?」
「え?」


切り出された思いがけない提案に梓は目をぱちくりとさせる。もしや聞き間違いかと思ったがニッと笑うトアは返事を待って動かない。
──手を組む?どういうこと?
言葉なく悩む梓の心が手に取るようにわかったのだろう。トアが続けた。

「ここ2週間ずっとアンタのこと見てて信頼できるって思ったんだ。だからこの相談を持ち掛けてるってこと、頭に入れておいてな?」
「……分かりました」
「まず言っとくと俺は八重一筋」
「え?」
「なんだよ、悪い?」
「いえ」

二度目の衝撃に梓はカップを机に戻してしまう。驚きのあまり小皿に紅茶が零れてしまった。
──八重さん一筋?でもこの世界の人たちは恋愛をしないっていうより恋愛が分からないんじゃないっけ?
今まであったことを思い出してみても答えが見つからなくて黙るしかない。

「それだ、樹」

黙る梓にトアが真面目な顔をして指を差してくる。

「アンタ自分のこと話さねーじゃん。そういうの俺嫌いなんだよねー」
「なんですか突然。あなたに迷惑かけてないし別にいいんじゃないですか?」
「え?お互い穏やかに過ごすっていうのは建前なわけ?俺らが合わせろよってこと?」
「……そう思ったのならすみません。でも……じゃあ思ってることずけずけ言ったほうがいいってこと?」
「そーそー!そのほうが話しやすいじゃん。腹の探り合いして時間無駄にするとか意味分かんなくね?今のだってふつーに聞けばいいじゃん。トアは八重一筋なの?ってさ」

口は悪いが言っていることはもっともだ。
けれど。

「トアが素直にそうやって言うのが当たり前なように私も黙って考え込んでそれから話すのが普通……というよりクセなの。だからトアのために全部変えることはできないけど思ってることはなるべく言うようにする。とりあえず距離感近くて凄くウザいので離れてもらえると嬉しいかな」
「最初にそれっ」

笑うトアに最初抱いた予感は当たったのだと分かって梓は天井を見上げる。まあこれはこれでトアの言うように話しやすくはなるだろう。そう思うことにして沸いた他の感情はすべて溜息で吐き出してしまう。

「それで結局さっきのこと聞かない感じ?」
「そんな聞いてほしそうな顔してる人に聞かないよ。それに私人の恋愛相談のるとか絶対に嫌だ」
「女のくせにそんなこと言う?」
「女のくせにって……ああ、でも他の聖騎士もそんな感じなの?今まで話してきた限り魔物のことで精一杯で恋愛自体知らない人って印象しかないんだけどって、なに」

目をキラキラさせて口元はニヤニヤさせるなんて器用なことをしているトアに眉をひそめたけれどまるで効果がない。前のめりになったトアに「近い」って言えば離れてくれる冷静さはあるけど声色は明るいどころか踊り出しそうなものになってしまっている。

「誰だれ?アンタ誰が気になんの?」
「いや、誰もそんなこと言ってないから。聖騎士の話をしてるんだけど?あと近いし気色が悪い」
「アンタほんと酷いよねー」
「……彼氏とか彼女って意味分かりますか?恋人のほう」
「え?なに急に凄い馬鹿にされてる感じがする」
「え?分かるんですか?」
「それ素で言ってる?ああ、あーなるほど」

梓が真面目に話しているのが分かってトアは思いがけない事態に悩んでしまったが、ようやく理解できて手を叩く。

「俺が自分で釘刺したのに忘れてた。なあ、樹。俺アンタらが言う恋人とか彼氏彼女って最初よく分かんなかったんだけど最近分かってきた、ように思う。八重はそうなんだ。俺、八重だけがいいなーって思ってんの」

今ままでのような明るい顔じゃなくて誰かを──八重を想って微笑んだトアに梓は息を飲む。同時にいたたまれなくなって紅茶を飲むが味がしない。
──どうやらトアは一番若いだけあって思考も柔軟?なのかな。

「……聖騎士ってかこの世界に住む奴のほとんどは樹の印象で合ってると思うぜ?男女関係なく。そんなことちんたらしてねーでさっさとヤッて子供作ったほうがいいし」
「ん、んー」
「なに?」
「男の人だけじゃなくて女の人もそんな感じなの?子供が大事……女性が少ないんだっけ」
「あーそうそう、俺なんか聖騎士になるまで見たことがある女って数人、4人だけだった」
「え、ほんとに少ないんだ」
「だな。これでも多いほうなんだけどな」
「はあー」

驚きすぎてまともに返事が出来ない。それなら産めよ増やせという考えになるのはしょうがない?だろうか。けれどこの世界の人は恋愛に縁遠いと言いつつも女性はそうではないと思っていた。この世界に住む女性でも絵本を見ながら聖騎士に憧れて恋心を抱くこともあるような気がしたのだ。

「アンタらが言う恋愛をしてる奴もいるにはいるらしいけど俺は身近にそんな奴知らないね」
「でも」
「……なんだよ?まただんまり?」
「トアは八重さんが好き?なんだよね?」
「八重がいいなって感じ」
「そう」

沸いた疑問は結局口には出来なかった。
そんなにも、恋愛をするぐらいなら子供を増やせという意識がある世界で、その経緯が出来るぐらい長い年月──子供は生まれたはずだ。現に男性に限れば様々な年齢の人を城下町やお城で見る。それなのに女性は保護されてしまうぐらい少ないのはどういうことだろう。出生率が低いにしたってバランスが悪すぎる。ああそれでも、この城では10歳ごろの少女に限ってはよく見る。
『あ……樹様』
──あのときリリアさんは何を言おうとしたんだろう。
あの時思った今度はまだなかった。たまに顔を見るけど最近いつも忙しそうで挨拶ぐらいしか出来ていない。

「手を組むってどういう意味?」

梓がオカシイ神子ならトアもオカシイ聖騎士なのだろう。そんなオカシイ聖騎士は梓を見てにんまりと笑みを浮かべる。

「樹たちがしたっていう二組の聖騎士と神子が一緒の部屋で一日過ごすってやつ、しようぜ?」
「お断りします」
「即答!頼むって!テイルさんに相談したら別にいいって言ってくれたしさー」
「余計嫌だ」
「余計っ!くぁー!」

頭を抱えるトアには悪いが気持ちは一切変わらない。梓は外を眺めながら城下町を探す。
──千佳はどう過ごしてるだろう。
『わっ、私にはアラ、アラストしかっ』
この世界で生きると決めるぐらいアラストさんが大好きで何度も関係を持っているようだった。子供もいつか出来るんだろう。子供。そんな素敵な言葉にぞっとしてしまうのはなんでだろうか。


疑問を形にする勇気は、なかった。





感想 15

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