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3:失敗のその後
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「父上! この婚約を破棄してください!!」
ラグダン家が帰るや否や、アリシアは声を上げる。
アリシアがこの婚約を承諾したのは、相手がラグダン家の令息であり、男勝りな性格の自分でも、受け入れてもらえるのではないかと思ったからだ。それがどうだ、蓋を開けてみれば木すら登れない三男坊とは。一緒に遠乗りも剣の稽古も出来そうになかった。
とてもじゃないが、彼と幸せに暮らす未来が見えない。そんなアリシアをジークはすげなく断ってしまう。
「それは出来ないよ、もう契約を交わしてしまったからね」
「今からなら間に合うかもしれないではないですか」
「アリシア、先日言ったよね。この婚約は決定事項だと」
何度も言わせるなとばかりの返答に、アリシアは押し黙ってしまった。
(家出、するか? そうしたら父上も諦めて養子をとるかもしれないし、いや、そんな無駄なことしても無意味か)
この時代を生きる女性が出来る仕事は多くない。家庭教師か針子、あるいはメイド、もしくは娼婦といった女の体を使う仕事だ。そのどれもが成人女性が対象で、十歳の世間知らずの箱入り娘が出来る事ではない。
優しげな顔をした父は、存外頑固だ。きっと婚約は破棄できないだろう。
「はあぁあぁぁぁぁぁ」
「ふふ、諦めてくれアリシア」
ジークはくすくすと優雅に笑う。一度殴ってやろうかと思いながら、アリシアは独り言を呟き始める。
「…………家出するのに必要なのは、金銭。ドレスを売って金を稼いで、髪の毛を切って、男物の服も必要だな」
「や、止めてね?」
「何の話ですか、父上」
意趣返しにふんと鼻を鳴らして、アリシアは自室へと向かった。
◇ ◇ ◇
「う、げほ、ごほっ」
自室へと戻ったジュリウスは、興奮したせいで咳が止まらなくなっていた。じわじわと上がり始めた熱のせいで、頭までぼんやりとしている。
(あ、あんなお転婆だとは思わなかった。)
妖精のような少女なのに、男顔負けの口調と態度。出来上がったはずの理想の令嬢像がガラガラと音を立てて崩れ去っていた。
婚約者など誰でも良いと思っていたにもかかわらず、アリシアの様相に惑わされたせいで婚約を続ける自信がとんと無くなってしまっている。
それでも、ジュリウスには婚約破棄を願い出る事は出来なかった。家格の低い者から、不貞行為も無いのに婚約破棄することなど出来なかった。それ以上に、自分がさっさと婿に行った方が、ラグダン家の益になるだろうと思ったからだ。
(……僕に丈夫な体があったら。家族とのわだかまりも無く、家族の役に立てて、自慢の息子でいられたかもしれないのに)
格上の令嬢と喧嘩してしまって、両親に迷惑をかけてしまった。もしかするとこの婚約は破談になってしまうかもしれない。ただでさえ、貴族の三男ともなれば結婚の相手として市場価値が低くなってしまうというのに。将来貴族であり続けられるのは長男だけで、それ以外の子供は騎士になったり婿養子になったりして生計を立てるしかない。それなのにジュリウスは体が弱いせいで、そのどちらもが困難な状況にある。そうなれば金食い虫として実家にいるしかないのだ。
(アリシア様に嫌われて、この婚約が破談になってしまったらどうしよう。僕が家族の役に立つにはこれしかないのに。ごめんなさい、父様)
止めどなく溢れ出る涙で視界が滲んでいく。もしも婚約が続行になったら、今度は黙っていよう。言いたい事を飲み込んで、結婚までこぎつけることが出来るように。
熱にうなされながら、ジュリウスはそんなことを思った。
ラグダン家が帰るや否や、アリシアは声を上げる。
アリシアがこの婚約を承諾したのは、相手がラグダン家の令息であり、男勝りな性格の自分でも、受け入れてもらえるのではないかと思ったからだ。それがどうだ、蓋を開けてみれば木すら登れない三男坊とは。一緒に遠乗りも剣の稽古も出来そうになかった。
とてもじゃないが、彼と幸せに暮らす未来が見えない。そんなアリシアをジークはすげなく断ってしまう。
「それは出来ないよ、もう契約を交わしてしまったからね」
「今からなら間に合うかもしれないではないですか」
「アリシア、先日言ったよね。この婚約は決定事項だと」
何度も言わせるなとばかりの返答に、アリシアは押し黙ってしまった。
(家出、するか? そうしたら父上も諦めて養子をとるかもしれないし、いや、そんな無駄なことしても無意味か)
この時代を生きる女性が出来る仕事は多くない。家庭教師か針子、あるいはメイド、もしくは娼婦といった女の体を使う仕事だ。そのどれもが成人女性が対象で、十歳の世間知らずの箱入り娘が出来る事ではない。
優しげな顔をした父は、存外頑固だ。きっと婚約は破棄できないだろう。
「はあぁあぁぁぁぁぁ」
「ふふ、諦めてくれアリシア」
ジークはくすくすと優雅に笑う。一度殴ってやろうかと思いながら、アリシアは独り言を呟き始める。
「…………家出するのに必要なのは、金銭。ドレスを売って金を稼いで、髪の毛を切って、男物の服も必要だな」
「や、止めてね?」
「何の話ですか、父上」
意趣返しにふんと鼻を鳴らして、アリシアは自室へと向かった。
◇ ◇ ◇
「う、げほ、ごほっ」
自室へと戻ったジュリウスは、興奮したせいで咳が止まらなくなっていた。じわじわと上がり始めた熱のせいで、頭までぼんやりとしている。
(あ、あんなお転婆だとは思わなかった。)
妖精のような少女なのに、男顔負けの口調と態度。出来上がったはずの理想の令嬢像がガラガラと音を立てて崩れ去っていた。
婚約者など誰でも良いと思っていたにもかかわらず、アリシアの様相に惑わされたせいで婚約を続ける自信がとんと無くなってしまっている。
それでも、ジュリウスには婚約破棄を願い出る事は出来なかった。家格の低い者から、不貞行為も無いのに婚約破棄することなど出来なかった。それ以上に、自分がさっさと婿に行った方が、ラグダン家の益になるだろうと思ったからだ。
(……僕に丈夫な体があったら。家族とのわだかまりも無く、家族の役に立てて、自慢の息子でいられたかもしれないのに)
格上の令嬢と喧嘩してしまって、両親に迷惑をかけてしまった。もしかするとこの婚約は破談になってしまうかもしれない。ただでさえ、貴族の三男ともなれば結婚の相手として市場価値が低くなってしまうというのに。将来貴族であり続けられるのは長男だけで、それ以外の子供は騎士になったり婿養子になったりして生計を立てるしかない。それなのにジュリウスは体が弱いせいで、そのどちらもが困難な状況にある。そうなれば金食い虫として実家にいるしかないのだ。
(アリシア様に嫌われて、この婚約が破談になってしまったらどうしよう。僕が家族の役に立つにはこれしかないのに。ごめんなさい、父様)
止めどなく溢れ出る涙で視界が滲んでいく。もしも婚約が続行になったら、今度は黙っていよう。言いたい事を飲み込んで、結婚までこぎつけることが出来るように。
熱にうなされながら、ジュリウスはそんなことを思った。
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