野蛮令嬢は貧弱令息に恋をする

雨夜りょう

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13:相乗り

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 休憩を終えた二人は、馬小屋へ訪れた。近くには馬丁が馬の世話をしていた。

「リック、アウラはいるか?」

「おや、お嬢様。デートですか?」

「ああ、そんなところだ」

「ほー、お熱いですね。アウラなら少し前に飯を食ってのんびりしてますよ。今日はまだお嬢様が来られていないから、アウラがそわそわしていました」

 リックとの軽口に、本当に毎日来ているのだろうと察せられた。

「そうか、アウラを連れて来てくれるか? 今日は中には入れないからな」

「ええ、すぐに」

 リックは愛馬を取りに馬小屋へと入っていった。ジュリウスは、慣れない場所で少し落ち着かない様子でアリシアの隣で佇んでいた。

「アウラというのは、アリー様の愛馬ですか?」

「ああ。白い毛並みで、気性も穏やかだが、私の言う事をよく聞く賢い子だ」

 アリシアが楽しそうにアウラを待つ間、ジュリウスは周囲の馬たちを見ていた。普段訪れる機会のない場所に、僅かに緊張している様子でそわそわしている。
 やがてリックが手綱を引いて現れたのは、すらりと伸びた四肢、引き締まった体躯、そして知性を宿した瞳をした美しい白馬だった。

「アウラ! 待たせたな」

 アリシアが駆け寄ると、アウラは甘えるように首を擦り寄せてくる。アリシアは慣れた手つきでその鬣を撫で、ジュリウスの方を振り返った。

「ジュリは馬に乗れないと言っていたな。アウラは賢い子だ、怖くないから安心してほしい」
「は、はい」

 ジュリウスは視線を泳がせた。ジュリウスはその病弱な体質から、激しい運動は避けるべきだとされてきた。そのため乗馬の授業は殆ど受けられていない。

「リック、準備を」

 アリシアがそう言うと、リックは心得たように、アウラの鞍に二人が乗れるように少し大きめの座面を取り付け、あぶみの位置を調整し始めた。
 準備が整うと、アリシアは軽やかに馬の背に飛び乗り、ジュリウスへと手を差し出した。

「さあ、ジュリおいで」

 ジュリウスはごくりと唾を飲み込んだ。眼前の白馬は大きく、その背に乗るなんて動く建物に飛び乗るような感覚で、しり込みしてしまう。

「ええと……」

 戸惑うジュリウスを急かすことなく、アリシアはじっと待った。そうして幾分か時間を要したが、ジュリウスは意を決して差し出されたアリシアの腕を掴み、慎重に片足を鐙にかけた。

「ジュリ、大丈夫か?」

 バランスを取りながらジュリウスがゆっくりと馬の背に跨がると、アリシアから声がかかる。馬の背は高く、視線が高くなったことに恐ろしさを感じて、体を強張らせてしまう。

「だい、大丈夫です」

「ジュリ、ちゃんと私の腰に手を回すといい」

 アリシアの言葉に、ジュリウスは顔を真っ赤にしてしまう。アリシアの腰に手を回せだなんて、初心者を乗せて歩くには非常に合理的だが、羞恥心から指先が触れるのをためらってしまった。

「あ、その……」

「そんなんじゃ落ちるぞ? もっとしっかりだ」

 ジュリウスの遠慮がちな様子に、アリシアは呆れたように言い放った。それでもしっかりと手を回せずにいると、アウラが僅かに体を揺らす。
 先ほどまで微動だにしていなかったのだから、疾く主人の言う通りにしろと促すかのように。そうは言われても、ジュリウスはすんなりと行動に移せるような性格はしていない。

「ここを掴んでいるといい」

 焦れたアリシアが、ジュリウスの手を掴んで自身の腰へ手を回させた。すでに真っ赤だったジュリウスの顔は、耳まで真っ赤になってしまった。

「よし! リック、行ってくる!」

 アリシアが声をかけると、アウラはゆっくりと歩き出した。ジュリウスは、アリシアの腰に回していた指先に僅かに力を入れる。ジュリウスの心臓が、ドクドクと大きく脈打っていた。

(家に帰ったら乗馬の練習をしよう。これでは僕がもたない)

 柔らかく風を切りながら進んでいく馬上で、ジュリウスはそんな事を思った。アウラは蹄の音も軽やかに邸を抜け、森へと続く小道をゆっくりと進んでいく。
 ジュリウスは暫く緊張していたが、アリシアと密着していたことにも少し慣れ、馬上の高さや揺れにも慣れると、木々の間から差し込む木漏れ日や鳥たちのさえずりが心地よく感じてくる。

「ジュリ、着いたぞ」

 アリシアに声をかけられ、視線を前に向けると、一面に野花が咲き乱れた開けた場所が広がっていた。遠くには湖があり、湖面が陽光を反射して煌めいていた。

「わあ……」

「さ、ジュリ。降りておいで」

「あ、はい」

 降りる時は、乗る時よりも恐ろしいだろうと思っていたが、案の定重心がずれると途端に恐怖心が襲ってくる。
 軽やかに降りたアリシアに感嘆しながらも、どうしたものかとジュリウスは視線を泳がせた。

「アウラ」

 アリシアの掛け声に、アウラは少し腰を落とした。先ほどよりも地面への距離が近くなったおかげで、幾分か恐怖心が和らぐ。

「さ、ジュリ。手を」

 アリシアに手伝われながら、どうにか地面へと足を降ろした。

「慣れない事をして疲れただろう? 使用人達がお茶の用意をしてくれたから、あちらのシートへ行こうか」

 用意された上質なブランケットには、バスケットとジュリウスが持ってくるようにお願いした刺繍鞄が置いてあった。

「今日はフルーツたっぷりのお茶を用意したそうだ。休憩にしようか」

「はい、楽しみです」

 二人は用意されたブランケットへ腰を下ろした。
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