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14:恋風
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二人の前に、フルーツティーが用意された。アリシアは紅茶に砂糖は入れず、ジュリウスはティースプーン三杯の砂糖を入れ、口を潤した。
「今日も美味しいです。桃にラズベリー、果物がいっぱい入っていて……甘い」
アリシアならば確実に苦虫を噛みつぶした顔になっただろう紅茶を、ジュリウスは嬉しそうに飲んでいた。あまりにも美味しそうに飲むものだから、一口飲んでみようかと思ってしまうほど幸せそうにしている。
「あ、アリー様。以前シフォンケーキを頂いたでしょう。茶葉を練り込むというのが斬新で、クッキーで作ってみたんです。砂糖の量を減らしていますので、良かったらどうぞ」
そう言ってジュリウスは従者から紙包みを受け取り、アリシアに手渡した。
「あと、レモンの果皮を砂糖煮にして乾燥させたものを細かく刻んで、生地に練り込んだものも用意しました。今日のお茶には合わないかもしれないですけど、生姜を使ったものもあります」
「美味しいと良いんですけど」とジュリウスは照れたような笑みを浮かべる。アリシアは甘い物を好んでは口にしないが、ジュリウスが作ってくれたレモンタルトはとても美味しかった。きっと今回のクッキーも美味しいだろうと、ジンジャークッキーを手に取った。
「んん! ピリッとした生姜が刺激的なのに、優しい甘さがして、香辛料だろうか? 風味が鼻から抜けて、美味しいな。これ」
サクサクとクッキーを夢中で食べていると、ジュリウスの視線を感じて顔を上げる。相好を崩しているジュリウスが視界に入り、アリシアは瞠目した。
そう遠くない未来に、彼に恋染める己が見えた気がしたからだ。戸惑うアリシアの頬を、薫風が撫でていった。
「す、少しアウラと散歩してきても良いだろうか!」
「え? は、はい。どうぞ」
ジュリウスからの返答もそこそこに、アリシアはアウラに飛び乗って、風のように駆けて行った。
◇
「アリー様、どうしたんだろう?」
取り残されたジュリウスはきょとんとして首を捻った。これまで失礼な態度はとっていないはずだと、困惑したジュリウスは傾けた首を反対へやった。
(……綺麗だったな、アリシア様)
彼女は美しい白馬に軽やかに飛び乗って、銀の髪を靡かせ、澄み渡る空の下を青嵐のように駆けて行った。
誰かに彼女は風の精かと問われれば、首肯する程度には麗しい姿だった。
「美しく、愛らしいでしょう?」
「……はい。え?」
アリシアが去って行った方向を見つめていたジュリウスに声がかけられ、思わず心のまま返してしまった。
勢いよく振り返ると、侍女リンダが悦に入った笑みを浮かべていた。
「ジュリウス様も、お嬢様を愛らしいと思いになりますか。お嬢様はいつも思うままに行動なさいます、それを煩わしいとお思いにならないでくださいませ。彼女のそれは、きっとジュリウス様の助けになりますから」
いつもとは違い、リンダは大人びたように遠くを見つめている。
「お二人が、連理の枝となりますように」
静かに頭を垂れたリンダは、顔を上げると、瞬時獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべる。
「さ、それで? お嬢様のどこが愛らしく、好ましく思われるのか。このリンダに教えてくださいませ」
「え、や、あの」
「ご令嬢、あまり主をからかわないでください」
もだもだと口ごもるジュリウスに、従者から救いの手が入る。
「申し訳ありません」
使用人がきいて良い口ではないため、リンダは大人しく控えることにした。
「今日も美味しいです。桃にラズベリー、果物がいっぱい入っていて……甘い」
アリシアならば確実に苦虫を噛みつぶした顔になっただろう紅茶を、ジュリウスは嬉しそうに飲んでいた。あまりにも美味しそうに飲むものだから、一口飲んでみようかと思ってしまうほど幸せそうにしている。
「あ、アリー様。以前シフォンケーキを頂いたでしょう。茶葉を練り込むというのが斬新で、クッキーで作ってみたんです。砂糖の量を減らしていますので、良かったらどうぞ」
そう言ってジュリウスは従者から紙包みを受け取り、アリシアに手渡した。
「あと、レモンの果皮を砂糖煮にして乾燥させたものを細かく刻んで、生地に練り込んだものも用意しました。今日のお茶には合わないかもしれないですけど、生姜を使ったものもあります」
「美味しいと良いんですけど」とジュリウスは照れたような笑みを浮かべる。アリシアは甘い物を好んでは口にしないが、ジュリウスが作ってくれたレモンタルトはとても美味しかった。きっと今回のクッキーも美味しいだろうと、ジンジャークッキーを手に取った。
「んん! ピリッとした生姜が刺激的なのに、優しい甘さがして、香辛料だろうか? 風味が鼻から抜けて、美味しいな。これ」
サクサクとクッキーを夢中で食べていると、ジュリウスの視線を感じて顔を上げる。相好を崩しているジュリウスが視界に入り、アリシアは瞠目した。
そう遠くない未来に、彼に恋染める己が見えた気がしたからだ。戸惑うアリシアの頬を、薫風が撫でていった。
「す、少しアウラと散歩してきても良いだろうか!」
「え? は、はい。どうぞ」
ジュリウスからの返答もそこそこに、アリシアはアウラに飛び乗って、風のように駆けて行った。
◇
「アリー様、どうしたんだろう?」
取り残されたジュリウスはきょとんとして首を捻った。これまで失礼な態度はとっていないはずだと、困惑したジュリウスは傾けた首を反対へやった。
(……綺麗だったな、アリシア様)
彼女は美しい白馬に軽やかに飛び乗って、銀の髪を靡かせ、澄み渡る空の下を青嵐のように駆けて行った。
誰かに彼女は風の精かと問われれば、首肯する程度には麗しい姿だった。
「美しく、愛らしいでしょう?」
「……はい。え?」
アリシアが去って行った方向を見つめていたジュリウスに声がかけられ、思わず心のまま返してしまった。
勢いよく振り返ると、侍女リンダが悦に入った笑みを浮かべていた。
「ジュリウス様も、お嬢様を愛らしいと思いになりますか。お嬢様はいつも思うままに行動なさいます、それを煩わしいとお思いにならないでくださいませ。彼女のそれは、きっとジュリウス様の助けになりますから」
いつもとは違い、リンダは大人びたように遠くを見つめている。
「お二人が、連理の枝となりますように」
静かに頭を垂れたリンダは、顔を上げると、瞬時獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべる。
「さ、それで? お嬢様のどこが愛らしく、好ましく思われるのか。このリンダに教えてくださいませ」
「え、や、あの」
「ご令嬢、あまり主をからかわないでください」
もだもだと口ごもるジュリウスに、従者から救いの手が入る。
「申し訳ありません」
使用人がきいて良い口ではないため、リンダは大人しく控えることにした。
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