野蛮令嬢は貧弱令息に恋をする

雨夜りょう

文字の大きさ
38 / 46

38:策略

しおりを挟む
「……はあ、一体どうしたものか」

 コーザは深いため息をついた。先ほどは承諾したものの、実際問題、ミリアが望むようにするにはリスクがある。
 マクミランは高位貴族であり、男爵家などすぐに捻り潰せる。穏やかな気質の現当主だが、牙を剥いた者にまで優しくいてくれないだろう。

「ヘンティーに相談してみようか……」

 コーザの幼馴染で、同じく男爵のヘンティー・デポット。臆病で依存心のあるコーザは、困った事があればヘンティーを頼っていた。今回も彼に頼れば何とかしてくれるだろうと、コーザはヘンティーへと手紙を送る事にした。

「それで? 何を困っているんだ」

 数日後、手紙を受け取ったヘンティーが、コーザのもとへとやって来る。コーザとは違って細く、気の強さが前面に出ている顔で、ヘンティーはソファーへと座る。
 早く用件を言えというヘンティーに促され、コーザはミリアとの会話を話した。

「…………はあ、お前の娘は相変わらずだな」

 コーザの話を聞いたヘンティーは大息を吐いた。いくらなんでも、娘の一人窘められないなど親としてどうなのだと。
 とは言え、これはヘンティーにとっても良い話ではあった。アリシアとジュリウスが万が一婚約を解消するようなことになったら、自分達にもチャンスが巡ってくるからだ。

「で? どうするつもりなんだ? ジュリウスを嫁にすると言ってしまったのだろう?」

「そう、なんだ」

「伯爵家へミリアと結婚する方がメリットがあると思わせるか、ミリアにジュリウスを誘惑させ結婚したいと思わせるか、アリシアに何らかの方法で瑕疵をつけるか、あるいは殺すかのどれかだな」

 そうヘンティーは方法を提示する。コーザが頷くのを確認して、ヘンティーは続けた。

「言っちゃ悪いが、男爵家で嫡男がいるミリアと、侯爵家で嫡男がいないアリシアとでは、天秤にかけるまでもない。では、ミリアにジュリウスが誘惑できるかだが、本人からの打診があったところをみると、既に誘惑して拒絶されたんだろうな。じゃあ、アリシアの生命を脅かせるかと言われると、いくら文のマクミランとはいえ侯爵家だ。そう簡単に、騎士団を出し抜いて殺せはしないだろうな」

「なら、瑕疵をつけるしかないのか?」

「そうだな。例えばだが、妙齢の女性が誘拐されたという事実だけで、アリシアの価値は大幅に下がる」

 別にアリシアを誘拐する必要はなく、婚約者以外の男と出歩いていたという噂だけでも、家によっては問題だと判断されるだろう。急ぐ必要がなく、的確にジュリウスを手に入れたいのなら、大胆な事はせずに正攻法から始め、軽い犯罪へと移るべきだ。しかし、ヘンティーはあえてそう言った。
 依存心があるコーザは、今まで困った事があればヘンティーを頼って生きてきた。ヘンティーがそう言い切れば、コーザは考えることをしない。

「ちょうど、マクミランの領地で星祭りがあったな」

「その時に?」

「あの日は人がごった返すからな、騎士団も警備に人が割かれるだろう。アリシアへの警護が手薄になるし、婚約者と祭りに出るかもしれない。一番成功する確率が高いと思うが?」

「そ、そうだな」

 コーザは神妙な面持ちで頷いた。

「孤児たちや金に困っている奴らに金を握らせて星祭りに参加させて、人口を増やしたらどうだ? 例年よりも人が多いとなれば、現場は混乱し、更にそこに人が投入されるだろう」

「な、なるほど! それは良いかもしれない!」

「なるべく人は多ければ多いほど良いだろう。大事な幼馴染の為だ、私も資金を提供しよう」

「い、いいのか!?」

「ああ、コーザの為だからな」

 アリシアに瑕疵をつけるだけでは足りない。ラグダンが婚約を破棄する保証などないし、マクミランが別の婿を立てれば意味がない。だが、もし、この星祭りで誘拐されたアリシアを、息子のアティマが救い出すことができれば……。
 彼女の命の恩人として、マクミラン家はきっと、アティマに好意を抱くだろう。すぐに婿入りさせられずとも、時間をかければ篭絡できる。これこそが最善の策だと、ヘンティーは嗤った。

◇ ◇ ◇

 自宅へ帰ったヘンティーは、サロンでティータイムを行っている、息子アティマのもとへ訪れる。

「アティマよ、マクミラン領で星祭りが開催される。せっかくから、見物に行って来たらどうだ。この冬一番の催しだそうだぞ」

 
 そう言うと、アティマは目を輝かせた。

「はい、父上! ぜひ行かせていただきます!」

 何の疑いもなく頷いた息子に、侯爵は内心で嗤った。アティマは、良く言えば人よりも純粋で正義感に溢れ、悪く言えば愚鈍で偽善的だ。
 星祭りでアリシアが誘拐されたという騒ぎを聞きつければ、この息子なら良かれと思って捜索に参加してくれるだろう。しかし、その正義感ゆえに計画を話してしまえば、阻止しようとしてくるに違いない。
 この純粋すぎる息子に、全てを話す必要はない。ただ、星祭りに行かせるだけで良いのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...