海よりも清澄な青

雨夜りょう

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4人魚の彼女に逢うために

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 次の日、オスカーは人目を盗んで海に来ていた。もしかしたら彼女に逢えるかもしれないと思ったからだ。
 この世界では使える魔法は種族ごとに異なっている。人間は炎、人魚は水と雷、エルフは風と土、といった風に。稀に別の属性を扱える者も存在するが、それは海の底に落ちてしまった宝石を探し出すようなものだった。

 水魔法が使えれば安全に長時間海に居られる。しかし、例に漏れずオスカーも炎魔法使いだった。人間には珍しく光魔法も使えたが、水魔法か風魔法が使えなければ意味は無かった。

「よし、泳いでみるか!」

 だからといってオスカーに諦めるという選択肢はなかった、人間同士ですら能動的にいかなければ欲しいものは手に入らないのだ。
 ましてや彼女は人魚だ、待っていては一生手に入らない。無駄と分かっている努力でもするしかない、しないよりも幾分もましだ。
 そう思って、オスカーは海を沖の方へ向かって泳ぎ始める。冷たい水が肌をくすぐる。

「居るわけないよな」

 顔を水につけて海の中を覗き込むと、魚たちが思い思いに泳ぎ回っていた。彼女が居ないか必死に目を凝らして海中を泳ぐ。
 暫く泳ぎ続けていたが、ふとオスカーは違和感に気が付く。

(なんだ?濡れているような気がしないな?)

 不思議に思っているとオスカーの足を魚がくすぐってくる。吃驚した拍子に口から息が漏れる。

「うわっ!」

 通常水中で人は会話をする事は難しい、喋るために息をする必要があるからだ。だというのに、何故だかオスカーはきちんと息が出来ていた。
 オスカーには全く理由が分からなかったが、彼女を探すのに都合がいい。水魔法使いを探す必要も無くなった。

「今度から夜も潜ってみようか。生まれて初めて光の魔法が使えることに感謝している」

 オスカーは王子で守られる立場であり、フランシア王国で三番目に偉い人間だ。当然怪我をするのは騎士であるし、天上人であるオスカーが一介の騎士を治癒することはない。
 必要すら見いだせなかった光魔法が、今オスカーの役に立っている。それも彼女に逢うための術になっているとすれば、心は踊るようだった。
 とはいえ夜間に王城を抜け出すのは至難の業だ、協力者が必要になってくる。全幅の信頼をおく乳兄弟を思い出し、相談してみようとオスカーは心に決めたのだった。





「アレックス!夜にも出かけさせてくれないか!!」

 バタバタと紳士らしからぬ音をさせて、オスカーは執務室に駆け込んだ。
 ぎょっと目を見開いたアレックスは、咄嗟にオスカーの口を押さえる。

「ばっか!んなこと大きな声で言うんじゃねーよ」

 アレックスは小声でオスカーを叱咤すると、やれ王太子としての自覚がどうの、ただでさえ出掛けているというのにまだ足りないのかだのと、くどくどと説教をしてくる。
 口どころか鼻まで押さえていることに気がついていないアレックスは、まだ話を続けようとする。

(……くる、しい!)

 アレックスの腕を叩くと、やっと意図を察してくれたらしくオスカーの口から手が離れる。

「ぶはっ!」

「わりぃ。で?なんで夜中に出掛けたいって話になったんだよ」

 心配そうな表情を浮かべるアレックスに、手で問題無いことを伝えると息を整えてから話し始める。
 意中の女性を先日見かけたこと、それは人魚であること、その人魚から渡されたであろうペンダントが水魔法と同じ効果を発揮すること。
 長くなった話を、アレックスは真剣な顔で聴いていた。

「マジかよ、オスカーが十年越しの片想いを拗らせてる変態な事は知ってたけど。相手は人魚だって?」

 本気かと続けるアレックスに、オスカーは深く頷く。

「そこまで言わなくても良いと思うんだが、概ねその通りだ」

「分かった、ギルバートを呼んでくる」

 それだけ言うと、アレックスは執務室を去っていった。
 
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