海よりも清澄な青

雨夜りょう

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11人魚が知りたいわけじゃない

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「リン!待たせてごめんね」

 昨日と同じ場所、同じ時間にオスカーはリンに逢いに来た。

「待ってなんかいないわ、貴方と同じにしないでよ」

 自分は渋々来ただけだし、第一人魚にとっては瞬きと同じ時間だとリンは言う。

「うん、ありがとう。でも少し過ぎたから」
「待ってない」

 彼女はつんと顔を横に向ける。横顔も綺麗だとオスカーはじっと見つめると、いつまで見てるんだと苛立ちが眉に現れ始めてオスカーはふっと笑う。
 この人は顔に全て出てしまう人らしい。

「分かったよ、今日はリンの事をもっと知りたいと思ってるんだ」
「住処の場所については喋らないわよ。良いわ、何が知りたいのよ」

 二人は少しぎこちなさを残しながら話し始めた。
リンが海と同じ青色が好きな事、人魚の中ではまだまだ子供で百年も生きていない事、海の中から海面を見つめるのが一番好きな事。
 沢山の質問に答えていくうちに、少しずつリンの表情が柔らかくなっていくのが感じられる。

「この間は、小魚同士で喧嘩しているのを諫めたのよ。あの子たち自分の寝床の大きさで喧嘩していたわ。」

(彼女は、海のように穏やかに笑うんだな)

 けして大きな声で笑うわけでも、口を開けて笑うわけでもない。大輪の花とは違う、密やかに咲く小花のように静かに、すべてを包み込むように微笑んでいる。
 彼女の事を知っていくたびに、好きという感情が溢れていく。

(もっと、彼女の事が知りたい)

 どのような場所に住んで、どんな人生を送って来たのか。彼女の触れられたくない過去すらも、いつか話して欲しいと思った。

「リン、俺はリンが好きだよ」

「またその話なの、人魚が好きだなんて貴方も奇特な人ね」

 燃えるようなこの想いはリンには全く伝わっていないようで、変な人だと言われてしまった。
 それどころか人間に好きだと言われた事に嫌悪感があるのか、きゅっと拳を作って握りしめていた。

「そうじゃないんだけどな、まあ良いか」

「もう、帰るわ」

 そう言い残して、リンは海に潜ってしまった。
 二人はまだ始まったばかりだから、彼女のペースで歩いて行けばいい。
  早く明日の夜になって欲しいと思いながら、オスカーは陸に上がった。
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