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36、ユキを追う者

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「来た!」

 二人が返ってくるまでギルド内でひたすら待ち続けた。やがて帰って来た二人は楽しそうにしていて、やはり腸が煮えくり返るようだった。

「一人で出来るって事を無事にアレクさんに証明できたようだし、アレクさんは自分の分の依頼を進めてくれたら良いよ」
「はいはい、じゃあなユキ。頑張れよ」

 トントンとユキの肩を叩いたアレクは、笑いながら去って行く。ユキがどこに住んでいるのかつける為、こっそりと後をつけていく。
 冒険者になってからもう数年が経つ、新米冒険者の後をつけることなど朝飯前だった。

「陽だまりの猫亭!アレクの!!」

 ユキの後を追いかけて着いた先は陽だまりの猫亭で、アレクが拠点にしている宿屋だった。
 もしかしてここで働いているのだろうか?それとも、一緒に泊まっているとか?

「泊ってるですって!!そそそ、そんなの許さないわよ!!」

 彼女は、顔を真っ赤にして怒った。今まで女の影も形もなかったというのに、一緒の屋根の下で生活しているだなんて。
 一緒の屋根の下ならまだマシだ、一緒のベッドだったりした日にはもう卒倒する自信がある。
 首根っこ締めあげてどういう事だか今すぐあの女を問いただそうか、そう考えていると後ろから大声がした。

「ヒルダ!やっと見つけたぞ!!今日の授業をサボって一体全体こんな所で何をしているんだ!」
「げっ!お父様!!」

 苛立ちを露にしてドタドタと近寄ってくる父を見たヒルダは、先ほどまで思っていた事を撤回して回れ右をする。
 陽だまりの猫亭の存在を気付かれてはいけない、此処にはアレクも泥棒猫もいるのだ。
 瞬時に冷静になった頭でヒルダはそう思った。ここから離れよう。

「そのうち帰るわお父様!」
「あ!こらまて!!」

 こんな所で父と遇うなんて災難も良い所だ。まあ人込みを味方に取れば、すぐに撒けるだろう。
 自信満々に、ヒルダは人込みの中を走り出す。風の魔法を使えば後ろを振り向く必要もなく、前を見て走り続けられる。人の流れも読めるため驚くほどの速さで父との差を離していった。

「ここら辺で駄目押しするわ、っと」

 身体能力強化のスキルを持つヒルダは、素晴らしい跳躍力で近くの建物の屋根に飛び移った。

「じゃね、お父様」

 後ろを走る父にウインクを飛ばすと、ヒルダは余裕で父を撒ききったのだった。
 このまま陽だまりの猫亭に戻ってしまっては待ち伏せられているかもしれないと思ったヒルダは、依頼でもしてから帰ろうと冒険者ギルドへと向かうことにした。
 至極当然の話だが、家に帰りついたころには玄関先で待ち構えていた父親から拳骨をくらったのだがこれは深くは語るまい。

「明日から本格的にあの女の情報を集めてやるわ!」

 痛む頭を擦りながら、ヒルダは拳を天に突き上げた。

「絶対にあの女にはアレクを渡したりしないわよ!打倒女狐!!」
「ヒルダ、うるさいぞ!!」
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