486 / 502
第5部
魔獣襲来・希望灯火
しおりを挟む
中央統括神殿は、エンロートから遷都する前からこの地にあった。
古来、ロセアンには清浄な気を生み出す泉があり、人々はその湧き水のそばで精霊の気配を感じ取ることができた。
やがてその恵みの泉には自然と人が集まり、人々は精霊を祀るために泉のそばに小さな祠を築いた。それが後に精霊神殿へと発展し、今日に続く精霊信仰の始まりとされている。
みつの時代の国王は、疫病と愛し子への罪悪感からエンロートを捨て、ロセアンに遷都した。
ロセアンは当時すでに神殿都市として栄え、立派な精霊神殿も存在していた。しかし、遷都によって“王国の中心”となるこの地には、それにふさわしい、格段に大規模で荘厳な聖域が求められた。
そのため国王は国の威信をかけ、既存の神殿に併設する形で王都の象徴となる大聖堂を新たに築いたのである。
ナイトストーンと呼ばれる濃紺の鉱石で造られた天井は、気が遠くなるほど高くそびえ、結界の光を受けて無数の結晶が星々のように瞬いていた。
淡い輝きが天井全体に散り、夜空を逆さに映したかのような深い群青の世界を作り出している。
幾十もの円柱が森の木々のように静かに立ち並び、その頂から枝分かれした肋骨状アーチが天井へと伸びていく。
それは、まるで巨木が枝葉を広げて星降る空そのものを支えているかのような、荘厳で息を呑む光景だった。
頭上の“聖なる夜空”を埋める微細な光は、見る者の胸にそっと触れ、張りつめた心を静かにほどいていく。
恐れを鎮め、祈りを包み込むために造られた空間は、まさに光に抱かれた聖域そのものだった。
中央の身廊は広大で、避難民が集まってもなお余裕があるほどだった。左右には翼廊が伸び、礼拝用の小さな祭壇や聖具室が並ぶ。
奥には大祭壇があり、そこには清浄なる泉を模した魔力の水盤が静かに浮かんでいた。
そして、大聖堂最大の象徴が、壁一面を覆う巨大なステンドグラスだった。
四方を囲む硝子片は、中央統括神殿の結界の発する光で夜でも鮮やかな色彩を見せていた。
赤は大地が宿すあたたかな息遣い、
青は祈りが静かに満ちる光の流れ、
緑は精霊が育む生命のざわめき、
金は女神の祝福そのものが降り注ぐ輝き。
これらが混ざり合い、まるで大聖堂そのものが一つの森であるかのような美しさを放っている。
床に落ちる光は、円を描くように揺らぎ、心の穢れを払うようだった。
魔獣の気配に怯えて、命からがら避難してきた人々は、一瞬外の喧騒を忘れてステンドグラスを見上げていた。
中央統括神殿は、その名の通り王国中の精霊神殿を統括する最高峰の神殿。その大聖堂は王族の冠婚葬祭を取り仕切る格式の高い聖域。
王都の住民であっても、住まいの近くの精霊神殿には何度も足を運んでも、中央統括神殿の大聖堂に足を踏み入れたことのない住民がほとんどだった。
だからなおさら、中央統括神殿の大聖堂に受け入れられたということは、『王国の本当の危機』だということを人々に実感させていた。
泣き腫らした目をこすりながら、ひとりの少女が母親の胸から顔を上げた。
「……きれい……」
純粋な、心からの呟きだった。
「ほっほっほっ。みな、ご苦労じゃったのう。まだまだ人が押し寄せるからゆっくりくつろげはしないだろうが、安心して過ごすがよい」
長い白髪に、長いまっすぐな髭を持つ優しげな風貌のグルンドライストが目を細める。
「おじいちゃん、だぁれ?」
「統括神殿長様だよ」
小さな女の子がグルンドライストの前で首を傾げ、母親が慌てて引き寄せる。
「よいよい、みな夕食時に大変だったのう。今神官たちが総出で炊き出しをしておる。それまでおじいちゃんの話を聞くかの?」
「聞くー」
「どんなお話?」
「むずかしいのはやだー」
今まで怯えていた子どもたちの瞳に輝きが戻っていた。
「みな、愛し子様のことは知っておるかの?」
子どもたちが、涙を拭いながらこくりとうなずいた。
「今世の愛し子様は、名をアシェルナオ様と言ってのう、十数年前に王太子殿下をご自分の命と引き換えに救ったのじゃよ。その尊き行いに女神様は新しい命をくださった。そうしてお生まれになったアシェルナオ様の幼い頃といえば、それはそれは可愛らしくてのう、わしを見るたび『たかいたかい』をせがまれたものよ」
「たかいたかい……?」
「うむ。十四、五年前のわしはすでにジジイじゃったが、腕がぷるぷるするほど全力で持ち上げたものじゃ。するとアシェルナオ様はそれはそれは満面の笑みで言うのじゃよ、『グルグル、もっともっと!』となぁ」
「えへへ……」
泣いていた子どもの口元が、かすかに笑みに変わる。
グルンドライストは笑みを浮かべて大きく頷く。
「恐れは心を暗くする。笑顔は心の闇を払いのける。笑ってこの難局を乗り切れば、きっともとの平穏な暮らしが戻って来る。子どもらは心配せずににこやかに笑っておるがいい。大人は、陛下に託されて戦っている者たちのために祈ってやろうではないか」
穏やかなグルンドライストの言葉に、子どもたちは元気に「はぁい」と返事をし、大人は魔獣制圧のために戦っている人々のために頭を垂れて祈った。
その大聖堂の左側廊は、円柱と円柱の間を白い布で区切った、臨時の救護施設になっていた。
手前には比較的軽傷な者が集められ、医師の手当てを受けていた。避難途中で転倒して怪我を負った住民や、逃げる途中で倒れ、持病を悪化させた老人らがいた。
魔獣との闘いで重傷を負った騎士や従卒、冒険者たちは重傷者が多く、負傷者の呻きや、慌ただしく動き回る神官たちで場は騒然としていた。
「重傷者は奥に! 治癒班、癒し手が必要な患者とそうでない患者に印を。癒し手は魔力の使いすぎに注意するんだ」
場の指揮をとるのは神殿長補佐のオルドジフだった。
「兄上」
キリキリと動き回るオルドジフに駆け寄ったのは、自宅から避難民に混じって中央統括神殿にたどり着いた、ロザーリエの手を引いたフォルシウスだった。
「無事だったか、フォル。怖かっただろう、ロザーリエ」
弟と姪の無事を目にして、オルドジフの表情が和らぐ。
「突然のクリムベルで街中が混乱していましたが、勇敢に走ってくれました」
第一騎士団や神殿騎士団にいた経験はあっても小さい我が子を連れて避難するのは緊張するもので、兄の姿を見てようやくフォルシウスの肩の力が抜けた。
「わたし、もう5歳だもの。それに、大きくなったら、お父さま、お母さまみたいに騎士になるの。まじゅうはこわいけど、泣かないわ」
「えらいぞ、ロザーリエ」
胸をはるロザーリエの頭を、オルドジフが優しく撫でる。
「早速ですが、負傷者を癒します。そのあいだ、ロザーリエをお願いします」
貴重な癒し手は一人でも欲しい。オルドジフはロザーリエを受け取った。
「おじさま、リィもお手伝いする」
小さい頃はオルドジフの厳めしい、怒っているような顔つきを見ては大泣きをしていたロザーリエだったが、その心根が優しいものだとわかってくると、尊敬できる伯父として慕うようになっていた。
「そうか。では伯父さんのそばにいるんだよ」
「はい」
小さいながらに今の状況を理解しているロザーリエに、フォルシウスは誇らしげに頷いた。
「この者は奥へ! 至急癒し手の治療を! この者はクリーンで傷口を清浄して医師の手当てを。この者には毛布と体を温めるものを。誰か、包帯と清潔な布を補充してくれ。神官、寝台が足りない。簡易寝台の準備を」
オルドジフは次々に運ばれてくる負傷者を、傷病の緊急度や重症度に応じた優先度を決めて指示を出した。
眉間に深い皺を寄せたその顔は怒っているように見えるが、動きは的確で、声には迷いがない。オルドジフの的確な指示で大きな混乱はなかった。
だが。
いくら指示が的確でも運び込まれる担架は途切れず、神官たちは避難してきた住民たちの世話もあり、圧倒的に人手が足りなかった。
その中でロザーリエは神官に混じって保管庫から清潔な布を運んでいた。
幼いながらに懸命に手伝いをしている姿に、住民たちの目が向けられている。
「あの、私にも手伝いをさせてもらえないでしょうか」
避難してきた若い男が手をあげた。
「昔、医師の助手をしていました……患者さんのお世話なら慣れています」
「私は包帯を巻くのが得意です」
女性が手をあげる。
「俺は負傷者を運ぶ手伝いをする」
「よければ炊き出しの手伝いをしてもいいかしら。怪我人のお世話はできないけれど、煮炊きなら得意よ」
次々に住民たちから声がかかり、オルドジフは目を見開く。
厳つい顔のまま、しかしわずかに表情が和らぐ。
「……ありがたい。治療や傷の処置は無理でも、やってもらいたいことはたくさんあります。ツジネ、炊き出しの手伝いをしてくれる方を厨房に案内してくれ。デジレ、手伝いを募って清潔な布で包帯を作ってほしい。力のある者は水を運んできてくれ」
オルドジフの言葉に、多くの住民たちが動き出した。
包帯や水桶を運ぶ者、担架を支える者、裏で炊き出しをする者。
不安と恐怖で満ちていた大聖堂は、今、住民たちが避難するだけではなく自分たちにできることを見つけて動き出し、小さくても確かな希望を灯し始めていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
ここを乗り越えれば、ここを乗り越えればと思いながらも、全然乗り越えられません。納得できない文章を何度も何度も書き直していくうちに何が書きたかったのかがブレてきて、パラドックスに陥っていました。
それは、文章上のパラドックスで、ブレで、アシェルナオが登場しないあいだのお話を書くべきかどうかブレたのではないです。つまらない場面が続くと思われるでしょうが、私にとって全部必要な場面なんです。
私にとっては必要なのですが、落ち込んで逃げ出したくなって、運営さんにどうやったら一括非公開設定にできますかと問い合わせてしまいました。ああ、そうなんですね。推敲を何度重ねても納得できなくて非公開になっている話があるので一括非公開にできないんですね。だって推敲重ねても重ねても納得できないのですもん。
そんな悩み抜いたお話。やっと、公開できる形になりました。
完結させようと、ずっと頑張っています。でも乗り越えられずに逃げ癖がついてしまっているので、首根っこを摑まえるためにも応援いただけると嬉しいです。
古来、ロセアンには清浄な気を生み出す泉があり、人々はその湧き水のそばで精霊の気配を感じ取ることができた。
やがてその恵みの泉には自然と人が集まり、人々は精霊を祀るために泉のそばに小さな祠を築いた。それが後に精霊神殿へと発展し、今日に続く精霊信仰の始まりとされている。
みつの時代の国王は、疫病と愛し子への罪悪感からエンロートを捨て、ロセアンに遷都した。
ロセアンは当時すでに神殿都市として栄え、立派な精霊神殿も存在していた。しかし、遷都によって“王国の中心”となるこの地には、それにふさわしい、格段に大規模で荘厳な聖域が求められた。
そのため国王は国の威信をかけ、既存の神殿に併設する形で王都の象徴となる大聖堂を新たに築いたのである。
ナイトストーンと呼ばれる濃紺の鉱石で造られた天井は、気が遠くなるほど高くそびえ、結界の光を受けて無数の結晶が星々のように瞬いていた。
淡い輝きが天井全体に散り、夜空を逆さに映したかのような深い群青の世界を作り出している。
幾十もの円柱が森の木々のように静かに立ち並び、その頂から枝分かれした肋骨状アーチが天井へと伸びていく。
それは、まるで巨木が枝葉を広げて星降る空そのものを支えているかのような、荘厳で息を呑む光景だった。
頭上の“聖なる夜空”を埋める微細な光は、見る者の胸にそっと触れ、張りつめた心を静かにほどいていく。
恐れを鎮め、祈りを包み込むために造られた空間は、まさに光に抱かれた聖域そのものだった。
中央の身廊は広大で、避難民が集まってもなお余裕があるほどだった。左右には翼廊が伸び、礼拝用の小さな祭壇や聖具室が並ぶ。
奥には大祭壇があり、そこには清浄なる泉を模した魔力の水盤が静かに浮かんでいた。
そして、大聖堂最大の象徴が、壁一面を覆う巨大なステンドグラスだった。
四方を囲む硝子片は、中央統括神殿の結界の発する光で夜でも鮮やかな色彩を見せていた。
赤は大地が宿すあたたかな息遣い、
青は祈りが静かに満ちる光の流れ、
緑は精霊が育む生命のざわめき、
金は女神の祝福そのものが降り注ぐ輝き。
これらが混ざり合い、まるで大聖堂そのものが一つの森であるかのような美しさを放っている。
床に落ちる光は、円を描くように揺らぎ、心の穢れを払うようだった。
魔獣の気配に怯えて、命からがら避難してきた人々は、一瞬外の喧騒を忘れてステンドグラスを見上げていた。
中央統括神殿は、その名の通り王国中の精霊神殿を統括する最高峰の神殿。その大聖堂は王族の冠婚葬祭を取り仕切る格式の高い聖域。
王都の住民であっても、住まいの近くの精霊神殿には何度も足を運んでも、中央統括神殿の大聖堂に足を踏み入れたことのない住民がほとんどだった。
だからなおさら、中央統括神殿の大聖堂に受け入れられたということは、『王国の本当の危機』だということを人々に実感させていた。
泣き腫らした目をこすりながら、ひとりの少女が母親の胸から顔を上げた。
「……きれい……」
純粋な、心からの呟きだった。
「ほっほっほっ。みな、ご苦労じゃったのう。まだまだ人が押し寄せるからゆっくりくつろげはしないだろうが、安心して過ごすがよい」
長い白髪に、長いまっすぐな髭を持つ優しげな風貌のグルンドライストが目を細める。
「おじいちゃん、だぁれ?」
「統括神殿長様だよ」
小さな女の子がグルンドライストの前で首を傾げ、母親が慌てて引き寄せる。
「よいよい、みな夕食時に大変だったのう。今神官たちが総出で炊き出しをしておる。それまでおじいちゃんの話を聞くかの?」
「聞くー」
「どんなお話?」
「むずかしいのはやだー」
今まで怯えていた子どもたちの瞳に輝きが戻っていた。
「みな、愛し子様のことは知っておるかの?」
子どもたちが、涙を拭いながらこくりとうなずいた。
「今世の愛し子様は、名をアシェルナオ様と言ってのう、十数年前に王太子殿下をご自分の命と引き換えに救ったのじゃよ。その尊き行いに女神様は新しい命をくださった。そうしてお生まれになったアシェルナオ様の幼い頃といえば、それはそれは可愛らしくてのう、わしを見るたび『たかいたかい』をせがまれたものよ」
「たかいたかい……?」
「うむ。十四、五年前のわしはすでにジジイじゃったが、腕がぷるぷるするほど全力で持ち上げたものじゃ。するとアシェルナオ様はそれはそれは満面の笑みで言うのじゃよ、『グルグル、もっともっと!』となぁ」
「えへへ……」
泣いていた子どもの口元が、かすかに笑みに変わる。
グルンドライストは笑みを浮かべて大きく頷く。
「恐れは心を暗くする。笑顔は心の闇を払いのける。笑ってこの難局を乗り切れば、きっともとの平穏な暮らしが戻って来る。子どもらは心配せずににこやかに笑っておるがいい。大人は、陛下に託されて戦っている者たちのために祈ってやろうではないか」
穏やかなグルンドライストの言葉に、子どもたちは元気に「はぁい」と返事をし、大人は魔獣制圧のために戦っている人々のために頭を垂れて祈った。
その大聖堂の左側廊は、円柱と円柱の間を白い布で区切った、臨時の救護施設になっていた。
手前には比較的軽傷な者が集められ、医師の手当てを受けていた。避難途中で転倒して怪我を負った住民や、逃げる途中で倒れ、持病を悪化させた老人らがいた。
魔獣との闘いで重傷を負った騎士や従卒、冒険者たちは重傷者が多く、負傷者の呻きや、慌ただしく動き回る神官たちで場は騒然としていた。
「重傷者は奥に! 治癒班、癒し手が必要な患者とそうでない患者に印を。癒し手は魔力の使いすぎに注意するんだ」
場の指揮をとるのは神殿長補佐のオルドジフだった。
「兄上」
キリキリと動き回るオルドジフに駆け寄ったのは、自宅から避難民に混じって中央統括神殿にたどり着いた、ロザーリエの手を引いたフォルシウスだった。
「無事だったか、フォル。怖かっただろう、ロザーリエ」
弟と姪の無事を目にして、オルドジフの表情が和らぐ。
「突然のクリムベルで街中が混乱していましたが、勇敢に走ってくれました」
第一騎士団や神殿騎士団にいた経験はあっても小さい我が子を連れて避難するのは緊張するもので、兄の姿を見てようやくフォルシウスの肩の力が抜けた。
「わたし、もう5歳だもの。それに、大きくなったら、お父さま、お母さまみたいに騎士になるの。まじゅうはこわいけど、泣かないわ」
「えらいぞ、ロザーリエ」
胸をはるロザーリエの頭を、オルドジフが優しく撫でる。
「早速ですが、負傷者を癒します。そのあいだ、ロザーリエをお願いします」
貴重な癒し手は一人でも欲しい。オルドジフはロザーリエを受け取った。
「おじさま、リィもお手伝いする」
小さい頃はオルドジフの厳めしい、怒っているような顔つきを見ては大泣きをしていたロザーリエだったが、その心根が優しいものだとわかってくると、尊敬できる伯父として慕うようになっていた。
「そうか。では伯父さんのそばにいるんだよ」
「はい」
小さいながらに今の状況を理解しているロザーリエに、フォルシウスは誇らしげに頷いた。
「この者は奥へ! 至急癒し手の治療を! この者はクリーンで傷口を清浄して医師の手当てを。この者には毛布と体を温めるものを。誰か、包帯と清潔な布を補充してくれ。神官、寝台が足りない。簡易寝台の準備を」
オルドジフは次々に運ばれてくる負傷者を、傷病の緊急度や重症度に応じた優先度を決めて指示を出した。
眉間に深い皺を寄せたその顔は怒っているように見えるが、動きは的確で、声には迷いがない。オルドジフの的確な指示で大きな混乱はなかった。
だが。
いくら指示が的確でも運び込まれる担架は途切れず、神官たちは避難してきた住民たちの世話もあり、圧倒的に人手が足りなかった。
その中でロザーリエは神官に混じって保管庫から清潔な布を運んでいた。
幼いながらに懸命に手伝いをしている姿に、住民たちの目が向けられている。
「あの、私にも手伝いをさせてもらえないでしょうか」
避難してきた若い男が手をあげた。
「昔、医師の助手をしていました……患者さんのお世話なら慣れています」
「私は包帯を巻くのが得意です」
女性が手をあげる。
「俺は負傷者を運ぶ手伝いをする」
「よければ炊き出しの手伝いをしてもいいかしら。怪我人のお世話はできないけれど、煮炊きなら得意よ」
次々に住民たちから声がかかり、オルドジフは目を見開く。
厳つい顔のまま、しかしわずかに表情が和らぐ。
「……ありがたい。治療や傷の処置は無理でも、やってもらいたいことはたくさんあります。ツジネ、炊き出しの手伝いをしてくれる方を厨房に案内してくれ。デジレ、手伝いを募って清潔な布で包帯を作ってほしい。力のある者は水を運んできてくれ」
オルドジフの言葉に、多くの住民たちが動き出した。
包帯や水桶を運ぶ者、担架を支える者、裏で炊き出しをする者。
不安と恐怖で満ちていた大聖堂は、今、住民たちが避難するだけではなく自分たちにできることを見つけて動き出し、小さくても確かな希望を灯し始めていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
ここを乗り越えれば、ここを乗り越えればと思いながらも、全然乗り越えられません。納得できない文章を何度も何度も書き直していくうちに何が書きたかったのかがブレてきて、パラドックスに陥っていました。
それは、文章上のパラドックスで、ブレで、アシェルナオが登場しないあいだのお話を書くべきかどうかブレたのではないです。つまらない場面が続くと思われるでしょうが、私にとって全部必要な場面なんです。
私にとっては必要なのですが、落ち込んで逃げ出したくなって、運営さんにどうやったら一括非公開設定にできますかと問い合わせてしまいました。ああ、そうなんですね。推敲を何度重ねても納得できなくて非公開になっている話があるので一括非公開にできないんですね。だって推敲重ねても重ねても納得できないのですもん。
そんな悩み抜いたお話。やっと、公開できる形になりました。
完結させようと、ずっと頑張っています。でも乗り越えられずに逃げ癖がついてしまっているので、首根っこを摑まえるためにも応援いただけると嬉しいです。
112
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
クラスメイトのイケメンと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた
時
BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。
けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。
もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。
ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。
「俺と二人組にならない?」
その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。
執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。
※色々設定変えてたら間違って消してしまいました。本当にすみません…!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。
ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。
高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。
そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。
文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる