そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第3部

16年目の真実(2回目)

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 やがて、アシェルナオとテュコを乗せた馬車が立ち去ると、場は一転して厳しい雰囲気になる。

 「護衛していたアレクサンデション兄弟がアシェルナオ様を悲しませていたとは……」

 騎士たちはやりきれない思いで呟く。だが、

 「ジンメル、こいつらを第二騎士団駐屯地へ連れて行け。それと、エルとルルを捕縛して同じく第二騎士団駐屯地に連れて来い」

 次期当主の命令に、おおおおっ、と鬨の声をあげた。



 
 
 馬車が第二騎士団の駐屯地に到着し、テュコが先に馬車を降りると、シーグフリードからの連絡を受けて待機していたブレンドレルが駆け寄る。

 「シーグフリード様から指示を受けています。こちらへどうぞ」

 「ありがとう。さあ、ナオ様」

 馬車の内部に手を差し出し、それにつかまって降りて来たアシェルナオを横抱きにすると、テュコはブレンドレルのあとに続いて第二駐屯地の内部に足を踏み入れた。

 「シーグフリード様の弟君でいらっしゃいますね。エクルンド公国からの者に襲われたと聞きましたが、大丈夫でしょうか」

 ブレンドレルは緊張しながら、テュコの腕に抱かれるアシェルナオをちらちらと振り返る。

 「強いショックを受けています。本当なら公爵邸に戻りたいのですが、こちらで待機するようにとシーグフリード様に言われましたので。そのかわり、うちのナオ様がおやすみになるにふさわしいお部屋をお願いしましたが」

 「テュコ、僕はどんな部屋でも大丈夫だよ」

 自分のためならどんな要望でも押し通しそうなテュコに、申し訳なくなるアシェルナオだった。

 「いえ、ご用意しております」

 シーグフリードが念を押すように特上の部屋を用意しろと言っていたのだが、ブレンドレルはその意味をアシェルナオを見て理解していた。

 「ごめんねぇ?」

 アシェルナオはブレンドレルに首を動かして謝辞をしめす。

 やがて案内された一室のドアを開けると、そこは絨毯も寝台もカーテンも白で統一された部屋で、

 「アイナ! ドリーン!」

 部屋で待ち受けていたアイナとドリーンを見てアシェルナオが叫ぶ。

 テュコに床に降ろしてもらうと、

 「2人とも、心配かけてごめんなさい」

 アシェルナオは2に深く頭をさげる。

 「これからはなんでも言ってくださいね」

 「とても心配しました」

 アシェルナオを見るなり涙ぐむ2人は、1日しか経っていないとは思えないほど憔悴していた。

 「僕、エルとルルに、テュコを解放するように言われたんだ。テュコのことを思うとそうしないといけないって思ったけど、でもテュコがいなくなるのは嫌で、逃げちゃった……。何も言わずにいなくなって、ごめんなさい」

 また瞳が潤んでくるアシェルナオに、アイナとドリーンは互いを見つめる。

 「まあ、エル様と、いえ、エルとルルが……」

 「恩を仇で返すとはこのこと……。仇には倍の仇でお返しせねば……。テュコ様、いつお返ししましょう」

 決意の眼差しでテュコを見つめるドリーン。

 「すぐにでも私が返すから、安心して待っててくれ」

 テュコも決意の眼差しでドリーンを、アイナを見る。

 3人が意志を通じさせる姿に、内容は考えないことにして、アシェルナオは嬉しくなった。

 「アイナ、ドリーン。ナオ様はさっき過呼吸の発作を起こされた。楽な服に着かえさせて、シーグフリード様が呼ばれるまで休んでもらおう」

 テュコが言うと、

 「まあ、大変でしたね」

 「さぁ、お着替えをしましょう」

 アイナとドリーンに着替えさせられながら、アシェルナオは不安げに2人を見る。

 「あのね、アイナ、ドリーン」

 「はい」

 「なんでしょう?」

 アイナとドリーンは着替えの手をとめずに顔と意識をアシェルナオに向けた。

 「3人はずっと僕と一緒にいてくれて、僕の帰る場所になってくれてる。それは嬉しいし助かるし、僕の心の支えだよ。テュコはさっき、ずっと僕の侍従でいてくれるって言ってくれたんだ。でも、2人はきっと、好きな人ができて結婚したりするでしょう? その時は、つらいけど、僕ちゃんと祝福して送り出すからね?」

 泣きそうな顔で自分たちを見つめてくるアシェルナオに、アイナとドリーンは互いを見つめあって、ふふっ、と笑った。

 「あー、ナオ様が無事にご結婚されてから言おうと決めていたんですが……」

 歯切れが悪くなるテュコ。

 「なに?」

 首をかしげるアシェルナオ。

 「ナオ様……秋葉梛央様がお隠れになった時、あまりの空虚さに私たち……」

 「私たち……」

 アイナとドリーンが神妙な顔で呟く。

 「私たち……?」

 ごくり、と息を飲むアシェルナオ。

 「心の空虚を埋めるために結婚しましたの」

 「しましたの」

 アイナとドリーンは一転して明るい表情で体を寄せあい、満面の笑みを浮かべる。

 「ええぇぇぇ、結婚してたの? 誰と?」

 初めて聞かされる16年目の真実に、アシェルナオは口に手をあてて驚いた。

 「私たち2人が結婚しているんです」

 「ん?」

 「ですから、私とドリーンが」

 「私とアイナが」

 「ん? ん? んぅぅぅ? えぇぇ、2人が結婚してるの?」

 「はい。その後アシェルナオ様が御生れになり、私たちはまたメイドとして、2人で仕えるようになりました」

 「赤ちゃんのナオ様はお可愛らしくて、新婚家庭に来た赤ちゃんみたいだと、妄想をさせていただいておりました」

 「知らなかった……。もう、それならそうと言ってくれたらいいのに。僕、以前もアイナとドリーンが結婚したらメイド辞めるのかな、でもちゃんと祝福しないと、って悩んでいたんだよ」

 「すみません、ナオ様」

 「ですから私とアイナも、ずっとナオ様とご一緒です。ナオ様がご結婚されてもついていきます」

 「そうなんだ……よかったぁ。今さらだけど、おめでとう。アイナとドリーンも幸せにね」

 「私たちはいつも一緒ですし、ナオ様のお世話を2人でしていくことが何よりの幸せです」

 「幸せです」

 言葉通りに幸せそうな2人の顔を見て、昨日から悩んでいたことが一気に解決して気が緩んだアシェルナオの体が倒れこむ。

 「着替えも済みましたから、少しお眠りください」

 テュコに寝台まで運ばれて横になると、アシェルナオは自然に瞼がおりていった。


 
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