そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

解せぬ

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 新しい学年が始まってまだ間もないこの時期、新しい環境に慣れるために生徒たちは午前中のみの授業だった。

 自主的に専攻科で研鑽に励む生徒もいるが、スヴェンたちはアシェルナオのお見舞いのためにエルランデル公爵家に向かうべく、馬車寄せに向かっていた。

 「学園長先生、ブローム先生、ごきげんよう」

 途中で職員用の馬車寄せの方向に歩いていた2人の姿に気づいて、ハルネスが声をかける。

 続いてスヴェン、クラース、トシュテンもごきげんよう、と挨拶をした。

 「ああ、ごきげんよう。気を付けてお帰り」

 ドレイシュは、穏やかに生徒たちに向けて挨拶を返す。

 「私たちはこれから、アシェルナオのお見舞いに行くんです。約束はしていませんが、アシェルナオが心配で。学園に来るのを待ってるだけじゃ落ち着かなくて」

 クラースの言葉に、ドレイシュとブロームは顔を見合わせる。

 「そうか。うむ。その気持ちもわかる。友達とはそういうものだ。では私たちと一緒に来るといい」

 「学園長先生もこれからナオ様を見舞うところなんですよ」

 約束もない訪問から、確実にアシェルナオに面会できる訪問になって、スヴェンたちは喜んでブロームの迎えに来ていたエルランデル公爵家の馬車に乗り込んだ。





 「ナオ様、まじ可愛いなぁ」

 アシェルナオたちが帰ったあとの執務室で、ウルリクは目尻をさげていた。

 少しだらしない表情をしているのはウルリクだけではなく、ごついガタイの騎士たちも同じで、精霊に愛されるアシェルナオは騎士たちからも愛されていた。

 「アシェルナオがどれほど可愛いか、1時間は語れる」

 シーグフリードはドヤ顔で宣言する。

 「ナオの可愛い話なら、1時間なんて余裕で聞ける」

 ヴァレリラルドも真顔で受けて立つ。

 「それはこの件が落ち着いてから一晩中でも語り合ってください、殿下。シーグフリードも」

 シーグフリードとヴァレリラルドの思いが合致したところに、ケイレブが水をさす。

 「では今度ゆっくりと語るとして。今のところ水源に瘴気が発生しているという報告はデメトリア、ラウフラージア、バシュレ、ベアール、キュビエの5ヶ所。そのうち領主から最も強い要望が来ているのはラウフラージアだ」

 「高地の温泉郷か」

 風光明媚な山岳地帯にある温泉郷を思い浮かべるヴァレリラルド。
 
 「ああ。温泉の源泉から瘴気が発生しており、湯治客が困っているらしい。長引けば遠方からの客足に影響が出ることを領主のレンッケリ殿が強く懸念しているという」

 「心配だな……ナオは温泉が大好きなんだ。温泉に入りたいと言うだろうし、困ったことに自分の流儀で入りたがる」

 ヴァレリラルドは深刻な顔でアシェルナオの温泉好きを心配した。

 「エッチ事件ですね」

 17年前の出来事を思い出してケイレブの頬が緩む。

 「確かにアシェルナオは湯浴みが大好きだ。温泉なら浄化のあとに入りたがるだろうが……エッチ事件? 流儀? まあ、アシェルナオはやんちゃだから何かやりそうな気はするけど、テュコがついているから大丈夫だろう」

 一抹の不安を覚えるものの、口うるさいテュコがいることで自分を納得させるシーグフリード。

 「ナオと温泉に行きたかったな」

 ボソリと呟くヴァレリラルドの脳裏には、17年前に見た梛央の裸体が鮮やかによみがえっていた。

 「ラルがエッチなことを考えているぞ」

 意外に鋭いウルリクがベルトルドに囁く。

 「そっとしておいてやれ。数少ないオカズ案件なんだろう」

 ベルトルドが余計なお世話的なことを囁き返す。

 「水源の浄化は早急に行いたい。だがアシェルナオに無理な日程を押し付けたくない。行けるのは1日に1ヶ所が限度だ。様子を見て、次の浄化までに日を空けることも必要だと思う。ことがことだが、アシェルナオに倒れられるのは本末転倒だからな」

 「ああ。陛下にも瘴気による水源の汚染の報告をしているが、もしナオ様が浄化に行った場合、決して無理はさせないようにと言われている」

 ケイレブはベルンハルドからのお達しを伝えた。

 「ラウフラージアでの警護はラウフラージア領の騎士と領兵にまかせて、同行する護衛騎士はテュコも含めてフォルシウス、サリアンに頼もうと思う。それとうちの護衛騎士のキナク。あとは近衛騎士団からイクセルが2人ほど推薦してほしい」

 「わかりました」

 頷きながらイクセルは同行させる騎士を頭の中で選別していた。

 「あー、実はサリアンはここんとこ体調不良で、今回はパスさせてくれ」

 ケイレブの口調はもごもごとしていて、歯切れが悪かった。




 「アシェルナオが精霊の泉を浄化したんですか?」

 エルランデル公爵家のアシェルナオの部屋に通された学友たちは、アシェルナオを待ちながらその事実を聞かされて驚きの声をあげていた。

 スヴェンたちにとって、精霊の泉というのは国の要所であり、一般の者が立ち入りを禁じられている聖域の森の奥にあるという伝説のような場所なのだ。

 その精霊の泉を浄化した。

 それはアシェルナオが目の前で女神の奇跡のような浄化を果たしたのを見たあとでも、精霊の愛し子と聞かされたあとでも、やはり仰天するような事実だった。

 「正確に言うと、婚約式の翌日には精霊の泉を浄化されました」

 言いながらドレイシュ、ブローム、それにアシェルナオの学友たちの前にティーカップを置くアイナ。

 「でも、アシェルナオは婚約式のお披露目の際の浄化で倒れたと聞きました。なのに、その翌日には精霊の泉を浄化したんですか?」

 「ナオ様が愛し子様だと公表された今だから言えますが、ナオ様は17年前に別の世界から精霊の泉に落ちてこられたのです。それを王太子殿下が見つけられて。ですから精霊の泉はナオ様と殿下にとって思い出の場所。そこが穢れていると知って一刻も早く浄化したいと、ナオ様は張り切っておられました」

 お菓子や軽食の皿を並べながら、ドリーンは暗い顔をする。

 「続けて大きな浄化をして、アシェルナオは大丈夫なんですか?」

 ハルネスは心配そうな表情でクッキーに手を伸ばす。

 「それが……浄化に向かった精霊の泉でナオ様は瘴気に触れてしまい、なんとか浄化は成されたのですが、またお倒れに……」

 トレイを胸に抱いて言葉を詰まらせるアイナ。

 「えっ、そ、それでアシェルナオは?」

 スヴェンも顔色を変えて尋ねる。

 「それが……」

 アイナとドリーンが俯いた時、

 「アイナ、ドリーン、ただいまー」

 テュコの開けたドアから姿を見せたアシェルナオは元気にただいまの挨拶をした。

 「お帰りなさいませ、ナオ様」

 「ナオ様、お疲れさまでした」

 行儀悪くならない程度に急ぎ足でアシェルナオの出迎えに行くアイナとドリーン。

 「え?」

 今までの話の流れはなんだったのか、と、ポカンとした顔になるスヴェンたちに、

 「王太子殿下と、精霊の泉の視察兼お散歩デートに行かれていたんですよ。あの様子だと楽しいデートだったようですね」

 「婚約者とのデート。羨ましいものだ」

 ブロームとドレイシュはティーカップを片手にほのぼのとした笑みを浮かべているが、なんとなく解せない学友たちだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 お声がけ、いいね、エール、ありがとうございます。
 大変励みになっています(。uωu))ペコリ

 月末の締め切りに向けてのデータ作成が終わったので、ほんの少しだけ余裕ができました。今日は久しぶりに5時40分に起きました。

 7月末の締め切りを過ぎれば、8月から9月半ばまでは仕事量が落ち着いてくる予定です\( 'ω')/


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