そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

キューイ!

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 「アイナ、ドリーン、ただいまー」

 アシェルナオはテュコが開けてくれたドアから自室に入ると、元気な声でアイナとドリーンに声をかけた。

 「お帰りなさいませ、ナオ様」

 「ナオ様、お疲れさまでした」

 すぐに出迎えるアイナとドリーンに、アシェルナオはふよりんを肩から手のひらに移して、2人に見せた。

 「これね、ふよりんだよ」

 「まあ、よろしくですわ、ふよりん」

 「よろしくお願いしますね、ふよりん」

 「キュッキュー」

 アイナとドリーンとふよりんの対面が終わると、

 「ナオ様、学園長先生とお友達の方々がお見えですよ」

 あらためてアイナはホールを指す。

 「学園長先生、スヴェンたちも、えーと、お待たせ?」

 なぜみんながここにいるのかはわからないアシェルナオが小首をかしげる。それはいつものアシェルナオで、

 「よかったぁ、いつものアシェルナオだ」

 思わず涙ぐむハルネス。

 「わぁ、ごめんね? ええと、ええと? 学園長先生、ごきげんよう。みんな、ごきげんよう」

 アシェルナオはみんなのいるソファセットに歩み寄り、カーテシーのようなしぐさで挨拶をして空いている席に座った。
 
 「精霊に愛された子、このたびは王太子殿下とのご婚約おめでとうございます。浄化のおつとめもありがとうございます。今日はお祝いとお見舞いに馳せ参じました」

 ドレイシュは未来の王太子妃に畏まった挨拶をした。

 「学園長先生に敬語を使われると困ります。ヴァルは王太子だから偉いのはわかるけど、僕は偉くないです。女神様にはよくしてもらってる?かもで、精霊たちとは仲良しだけど、精霊王はボフ美だし……」

 「うむ。重畳重畳。それは聖獣だね」

 ドレイシュの視線がふよりんを追いかける。

 「これはふよりんです。さっき精霊の泉でお友達になりました」

 アシェルナオはふよりんの乗る手のひらをドレイシュの前に差し出し、興味津々な学友たちの前にも差しだす。

 そのふよりんに、ひぃが近づき、同じくらいの背丈のふよりんを蹴った。

 「あ、ひぃ、ふよりんを蹴っちゃだめ」

 蹴られたふよりんがふよふよと漂う。すかさずぐりがふよりんの先回りをして、また蹴った。

 「ああ、ぐりまで。だめだよ、蹴っちゃ」

 人々の目にはふよりんがふよふよと直線的に移動しているだけにしか見えないが、ふよりんが苛められてるように見えるアシェルナオは気が気ではなかった。

 『蹴鞠だよー』

 『たのしいねー』

 『たのしいねー』

 『ナオもやるー?』

 「キュッキュー?」

 「やらないよ! いいの? それでいいの? ふよりん」

 「キューイ!」

 他の精霊たちも参加して蹴鞠と称して遊んでいる。

 当のふよりんは意外に楽しそうで、アシェルナオはなんとなく疲れてソファの背もたれに体を預けた。

 「今ので疲れたみたいだけど、でも元気そうで安心したよ。俺たちも王太子殿下の婚約者のお披露目に王城まで行ったけど、まさか婚約者がアシェルナオだとは思わなくてすっごく驚いた」

 「うん。アシェルナオが精霊の愛し子で、目の前で浄化して見せたのにもびっくりしたけど、アシェルナオは本当は黒髪で黒い瞳だったんだな」

 スヴェン、トシュテンが声をかける。

 「今までの髪と瞳の色に見慣れていたけど、黒目黒髪のアシェルナオはすごくしっくりくるね。前の色よりずっといい」

 ハルネスの言葉に、アシェルナオは曖昧な表情で微笑む。

 もともと黒い髪と黒い瞳なので、しっくりくると言われると嬉しいが、今までの髪の毛の色はオリヴェルとシーグフリードと同じ色で、瞳の色はパウラの母の色。アシェルナオにとっては思い入れのある色なのだ。

 「言ってなくてごめんね。僕、別の世界から17年前に精霊の泉に落ちてきて、そこでヴァルと出会ったんだ。17年前、僕は16歳で、ヴァルは8歳で。テュコは12歳だったね」

 自分と背比べをした12歳のテュコを思い出して、大人のテュコを見る。

 「ええ。ナオ様は12歳の私に身長を越されたとお怒りでした」

 くすっ、と笑いながらテュコが答える。

 「もう、そこはいいってば。ヴァルは僕より少し小さくて、すごく仲良しになって、大きくなったらプロポーズしたいって言うから、いいよって言ったんだ。僕、そのすぐあとに死んじゃって、女神様のはからいでこのうちの子に生れ直して。10歳で洗礼を受けて死ぬ前の記憶を思い出したけど、ヴァルに再会したのは僕が13歳の誕生日で、その日のうちにヴァルにプロポーズされたんだ」

 少し照れるアシェルナオは、正真正銘幸せそうだった。

 「アシェルナオが幸せなら、私たちも祝福しますよ。殿下との婚約、おめでとう」

 クラースが言うと、スヴェン、ハルネス、トシュテンも次々におめでとうを口にする。

 「ありがとう」

 「婚約のお披露目の時に、浄化をしたんだよね? その次の日は精霊の泉を浄化したって聞いたけど、精霊の泉が瘴気の原因だったのか?」

 「うん」

 スヴェンの問いに、アシェルナオは辛そうに目を伏せる。

 「どうしたんですか?」

 ブロームに柔らかい口調で尋ねられ、アシェルナオは精霊の泉からすさまじい瘴気が発生したのは、殺された少年たちの死骸が投げ込まれたからだということ、悲惨でむごたらしい殺され方をした少年たちの思念で精神的なダメージを負ったこと、その時に浄化はしたのだが、その結果を見ることなく倒れてしまったことを話した。

 「なんというむごいことを」

 ドレイシュも絶句し、ブロームは険しい表情になる。

 「それで、どうだったの? 今日は」

 陰鬱な空気が漂うのを嫌って、ハルネスは声を張った。

 「えっ……あのね……」

 アシェルナオは顔を赤くしてあたりをきょろきょろしたあと、ハルネスの身元で小さく「ヴァルとね、ちょっとイチャイチャした」と囁いた。

 ウンディーネに少年たちのことを聞いたり、精霊たちの感謝のオーブに包まれたり、晃成たちの音楽を聴いたりふよりんが仲間になったり、いろんなことがあったのであまり実感はないのだが、ヴァレリラルドとファーストキスをしたのだ。

 触れて、何度かついばむくらいの優しいキス。改めて考えると今さらながらに胸がドキドキしてくるアシェルナオだった。

 「アシェルナオ、可愛い!」

 ハルネスは感激してアシェルナオをぎゅっ、と抱きしめた。

 「ハルルも可愛いよ?」

 アシェルナオもハルネスをぎゅっ、と抱きしめる。

 可愛い子たちのじゃれあいに、その場にいる者は目を細めた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 いいね、エール、ありがとうございます。
 とても励まされています。

 今日も5時40分起き。明日は6時起きでいいかも!
 この幸せがあと数日続きますように(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾
 

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