そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

私はふよりんの言葉はわからない

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 その夜、夕食を終えたアシェルナオはいつもなら就寝の準備になるのだが、この日は幾人もの来客がテーブルを囲んで椅子やソファに座っていた。

 来客といってもヴァレリラルド、ベルンハルド、ローセボーム。それにオリヴェルとパウラ、シーグフリードというほぼ身内ばかりだったが。

 「兄様」

 ベアールでは実現できなかったが、今度こそアシェルナオはシーグフリードに抱きついた。

 「アシェルナオ、すまなかった。あそこの領主にはいろいろな疑惑があったのに、みすみすアシェルナオを巻き込んで、怖い思いをさせてしまったね」

 「ううん、兄様カッコよかったです。僕何もできなくて、何も言い返せなくて、でも兄様が僕の分もあの人たちに言ってくれました。ありがとう、兄様」

 シーグフリードの胸にぐりぐりと頭を押し付けて感謝を表すアシェルナオ。

 ヴァレリラルドはアシェルナオの脇に手を差し入れて持ち上げ、にやけているシーグフリードから離すと、自分の膝の上に乗せた。

 「ラル、今は兄弟の熱い抱擁という感動の場面だ。感動とアシェルナオを返せ」

 「すまない、シグ。婚約者として、たとえ兄でもジェラシーを感じてしまった」

 にこりともしない顔で火花を散らすシーグフリードとヴァレリラルドだが、アシェルナオは頭上で繰り広げられるバトルにもほんわりとした笑みを浮かべていた。

 「僕、怖かったけど、ヴァルと兄様が来てくれて嬉しかった。ヴァルは王子様で、兄様はヒーローだったよ。王子様とヒーローが側にいてくれるなんて、僕、幸せ者だよね」

 嬉しそうにアシェルナオに言われると、シーグフリードはヴァレリラルドに抗議するのをやめて笑顔で横に座った。

 「仲良し兄弟で、母様も嬉しいわ」

 その様子に、さらに母としての愛情が深くなったパウラが目を細める。

 「はい、兄様大好きです。ヴァルも大好きです。母様も大好き」

 お膝抱っこはあまり好きではないが、嫉妬してくれるヴァレリラルドが嬉しくて、けれど頼もしい兄とも離れがたい。

 だから、ヴァレリラルドの膝の上でシーグフリードの隣にいるという今の構図にアシェルナオは満足していた。

 「アシェルナオ、父様は?」

 「ナオ、将来の義父様は?」

 オリヴェルとベルンハルドも自分を指さしながら、アシェルナオの『大好き』を欲しがった。

 「無理に言わせるのは感心しませんよ、父上」

 すでにいただいているシーグフリードは余裕の笑みでオリヴェルを見る。

 「父上、今日来たことの趣旨をお忘れですか?」

 アシェルナオを膝の上に乗せて、その腹部に手を回しているヴァレリラルドも冷たい視線でベルンハルドを見る。

 ぐぬぬ、と悔しそうな顔をするオリヴェルとベルンハルドだが、

 『ぼくは?』

 『ぼくたちは?』

 『好き?』

 『大好き?』

 『好き好き?』

 「キュー?」
 
 アシェルナオの周りでは精霊たちとふよりんがわくわくしながら答えを待っていた。

 「みんな大好き」

 「キューイ!」

 期待していた答えをもらって、精霊たちもふよりんも、オリヴェルとベルンハルドも相好を崩した。

 「ベルっち、テュコのお父さん、忙しいのにお見舞いに来てくれてありがとう」

 場が和んだところで、アシェルナオは忙しくないわけがない国王と宰相に向き直った。

 「もとはと言えば、連日浄化に行かせていた私のせいだ。無理をさせてしまったな」

 「そうしたいって言ったのは僕だから。ベルっちでも、兄様のせいでもないよ? 僕がまだ子供で、いろんなことに強くなかったから……」

 たった1人からの言葉と態度ですら恐ろしいものだと、アシェルナオは知らなかったのだ。

 「ナオがまだ子供だと言うのなら、まだほんの子供に大役を任せた、いや、任せっぱなしだった周りの大人の責任だ。ナオはよくやってくれた。がんばってくれてありがとう」

 「各地の瘴気だまりの報告も、魔獣発生の報告も、ぴたりと止みました。本当にありがとうございます」

 ベルンハルドが頭を下げると、ローセボームもその横で深く頭を下げる。

 「うん、がんばったよ。終わってよかった」

 各地の浄化で精神的にも肉体的にも疲れていたのは事実で、熱から回復してやっとすべてが終わったと実感したアシェルナオは安堵の息を吐いた。

 「……ナオ」

 だが、ベルンハルドはどこか沈痛な面持ちでアシェルナオを見つめる。

 「ん? なに?」

 アシェルナオは首を傾げる。

 「実は、先日浄化に行ってもらったレンッケリ領の領主と、ベアール領の領主は、私の祖父である先々王の時代に富や地位を手に入れた者たちだ。先々王の堕落した国政を一掃した先王……私の父を恨み、私の代で王位簒奪を狙っていたらしい。シーグフリードが暴いてくれなければ、万が一の事態になていたかもしれない」

 重い口調のベルンハルドに、アシェルナオの肩にとまっていたふよりんがふよふよと近づく。

 ふよりんはベルンハルドの前に行くと、

 「キュイキュィ」

 穏やかにひと鳴きして、またアシェルナオのもとに戻ってきた。

 「……ナオ、私はふよりんの言葉はわからないんだが」

 ベルンハルドは困惑の顔で助けを求める。

 「そんなことで心配するな、って言ってるんじゃないかな? 僕も、万が一の事態はないって思ってるよ? だってベルっちにはテュコのお父さんが、ヴァルには兄様がついているんだから、悪が栄えるはずがないよ? 僕にはテュコとふよりん、精霊たちがついているし。ね?」

 アシェルナオが首をかしげると、ふよりんが「キュゥキュゥ」と体を上下させ、『ナオを泣かせるものはやっつけるー』『やっつけるー』精霊たちがその周りで軽やかに踊った。

 「そうだな。シルヴマルク王国は精霊に守られし国だ。だが……ナオ、聞いてくれるか? 先々王のことを」

 いつになく真摯なベルンハルドの願いに、アシェルナオは顎をあげてヴァレリラルドを見上げる。

 「先々王のことは、私も詳しく聞かされたことはなかった」

 ヴァレリラルドはそう言うと、まるで聖職者に告白しようとしているような父王を緊張気味に見た。

 「王家の闇のようなものだ。今は王城、奥城の人間でも知る者はほとんどいない。ヴァレリラルドもナオも、知らなくてもいい話かもしれないが、知った上でこれからのことに向き合ってほしい」

 「僕はいいよ。でも、ベルっち、大丈夫? ずっと言えなかったことなんでしょう?」

 「ナオは優しいな。聞くことで嫌な思いをするかもしれないんだ。私のことより自分の気持ちを優先していいんだぞ。……それに、話すことは私の自己満足でしかないのかもしれない」

 弱気なベルンハルドに、アシェルナオは微笑んだ。

 「ずっと抱えてきたんだよね? それを話すことでベルっちの気が楽になるなら、聞くよ。ベルっちはヴァルのお父さんだから。ね?」

 ヴァレリラルドを見上げて、ね?と言うアシェルナオが愛しくて、後ろから抱きしめながらヴァレリラルドは頷く。

 「ああ。私と結婚したらナオの義父でもあるからね。父上、聞かせてもらいます」

 「そうか」

 今さらだが、アシェルナオとヴァレリラルドが将来を誓い合ってくれてよかったと、ベルンハルドはローセボームに視線を向けた。

 「シルヴマルク王国の未来は安泰です。安心して肩の荷を分け合ってもいい頃でしょう」

 ローセボームも静かに頷く。

 「陛下、それは私たちにも聞かせてもよいお話でしょうか」

 覚悟を決めたベルンハルドとローセボームに、オリヴェルとパウラは困惑を隠せなかった。

 「いいと思っているから話すんだ。ナオとヴァレリラルドが結婚したら、お前たちは姻戚なのだからな」

 ベルンハルドに言われて、オリヴェルとパウラも覚悟を決めた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 5部の前の前置きみたいな感じです。
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