そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

てってけてってってぇーてーてー

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 「アシェルナオ、2人に渡すものがあるだろう?」

 シーグフリードに言われて、アシェルナオは顔を覆っていた手をはずす。

 「そうでした。エルるん、ケルるん、これ兄様と僕から結婚祝いだよ。結婚するならいずれ新居にお引越しするでしょう? これはうちが使っている家具工房への注文書なんだ。新居に合わせて好きなものを注文して」

 一通の封筒をエルとルルの前に置いた。

 「ここ、超高級家具工房じゃないか。小さい調度品でもすっごく高いんだぞ」

 「さすがエルランデル公爵家、太っ腹だな。……ありがたくいただきます」

 エルとルルも顔から手を下ろして封筒を受け取ると、シーグフリードに頭を下げる。

 「じゃあ、これは俺たちからナオ様に」

 エルはテーブルの上に数枚の緻密な魔法陣の描かれた紙を置いた。

 「魔法陣?」

 「マジックバッグを作るための魔法陣だ。好きなバッグに賦与できる」

 「わぁ。アイナ、ドリーン、何につけたらいいと思う?」

 アシェルナオは後ろに控えていたアイナとドリーンを振り向く。

 「ナオ様はダンジョンに行くときに持っていきたいのですよね?」

 そう言って奥に引っ込んで、再び戻ってきたアイナが手にしていたのは革製のウエストポーチだった。

 「ナオ様、こちらはどうでしょう?」

 「冒険者っぽい! これにするね。ケルるん、どうやるの?」

 アシェルナオは瞳をキラキラさせてルルを見た。

 「マジックバッグを作るには、内蔵される空間に応じた大きい魔石が必要だ。大きな魔石は流通数が少ないから高価だし、使っても失敗する可能性もある。マジックバッグが希少なのはそういう側面があるからだ」

 気難しい顔をするルルに、

 「えぇ?」

 じゃあどうするの?と、アシェルナオは困惑した表情でウエストポーチを握りしめる。

 「ポシェットに転移陣の魔法を組み込んだみたいに、ナオ様のトンデモ魔法で作れるんじゃないか?」

 「僕の魔法はトンデモ魔法?」

 テュコに確認するアシェルナオ。

 「常識を覆す魔法なのは間違いないですね」

 「常識、あるよ? ねぇ、エル、ルル? 魔法陣の紙、何枚もあるよ?」

 テーブルに置かれた魔法陣の紙は複数あって、アシェルナオは無垢の瞳で尋ねる。

 「ナオ様が言ったんだよ。一緒にダンジョンに行くお友達と、テュコ先輩とアイナとドリーン、それに兄様とヴァルにも作ってあげるんだ、って」

 「こんなに精密な魔法陣を作るの、一枚だって大変なんだぞ?」 

 少し苛立った様子のエルとルル。

 「うわぁ。聞いた? ヴァルも兄様もテュコも、アイナもドリーンも、つけたいバッグを準備して!」

  途端にはしゃいだ顔になるアシェルナオに、ヴァレリラルド、シーグフリード、テュコは目を細める。清らかで美しいアシェルナオは、だがエルとルルにとっては邪心のない疫病神のようなものだった。

 「ありがとう。どのバッグにするか考えておくから、とりあえず自分のバッグに魔法陣を賦与してみたらどうだ?」

 「私も、今度来るときに持ってくるよ。今日はナオがマジックバッグを作るところを見たいな」

 「はい、兄様。ヴァルも見ててね。では、バッグのお口を開けます」

 アシェルナオは転移陣の魔法をうっかりリングダール型ポシェットにつけてしまった時のことを思い出しながら左手でウエストポーチのバッグ部分の口を開ける。

 「次に魔法陣を持ち上げます」

 言いながら右手を魔法陣の上にかざす。

 エルとルルがテーブルに身を乗り出して食い入るように凝視するその目の前で、魔法陣の図形がキラキラと輝きながら宙に浮く。

 初めて目にするヴァレリラルドとシーグフリードは驚愕して目を見開いた。

 「最後に、バッグにいれます!」

 アシェルナオは輝く魔法陣をウエストポーチの中に、ていっ、と放り込む。

 「四次元バッグー」

 てってけてってってぇーてーてー

 不思議な音階を口ずさみながらウエストポーチを掲げるアシェルナオに、

 「あいかわらずトンデモないな! なんだその賦与は!」

 「お前、魔法の定理で苦しんでる魔法学者に謝れ!」

 エルとルルは頭を掻きむしりながら大声で喚く。

 「テュコ、エルるんとケルるんが怒ってる……」

 2人の怒声を浴びて涙目でテュコに助けを求めるアシェルナオを見て、エルとルルは我に返るとテーブルに額がつくほど頭を下げた。

 「王太子殿下の前で申し訳ございません」

 「以後気を付けます」

 「三度めはないぞ、エル、ルル」

 テュコが腕を組んで冷ややかな目線を向ける。

 「アシェルナオ、向こうでアイナとドリーンにマジックバッグを作ってあげるといい」

 「はーい」

 シーグフリードに言われて、アシェルナオはマジックバッグの魔法陣を持ってアイナとドリーンのいる奥のスペースに行った。

 「とてつもないことをやってしまうな、ナオは……。それで、ナオに聞かせられない話なのか?」

 声を潜めるヴァレリラルドに、シーグフリードは頷く。

 「アシェルナオを無暗に怖がらせたくないからな。で、アレもできたんだろう?」

 「はい」

 エルはテーブルの上に四角い金属の箱のようなものを2つ置いた。

 「これは?」

 ヴァレリラルドは1つの箱を持ち上げると、角度を変えながら観察する。

 「空間を切り裂いて突然現れる敵に対処できる魔道具をエルとルルに依頼したんだ。あれを使われると、いつ、どのタイミングで現れるかわからない。以前アシェルナオが襲われたのは安心できる場所のはずのここで、だった。テュコやサリアン、精霊たちが護ってくれなければアシェルナオは今頃……」

 恐ろしい想像にシーグフリードの声は消え入る。

 「空間を切り裂いて敵が現れるのを検知できるなら、対処するためのわずかな時間が生じるな」

 そのわずかな時間は、アシェルナオを護るためにかなり重要な時間になるはずだった。

 「はい。頭の中の理論を魔法陣に起こすことに試行錯誤を繰り返しましたが、ようやく完成の運びとなりました」

 「空間の歪みを検知する魔法陣、検知した歪みを振動に還る魔法陣、振動に共鳴して警報を発生する魔法陣、これを組み合わせて魔道具を作りました。空間を切り裂くということ自体が本来なら起こりえない事象なので実験はできませんが、理論は間違っていません」

 素行はアレだが、魔法陣と魔道具の天才との誉れ高いエルとルルが苦難の末に完成させた魔道具は、ヴァレリラルドとシーグフリードに自信をもって報告できる仕上がりだった。

 「どうやって使うんだ?」

 「1つはナオ様のお部屋に。あとはナオ様のお側にいるテュコ先輩が持っていればいいかと」

 「わかった。他にもいくつか作れるか? テュコだけではなく側にいる者も持っていたら安心だ」

 「量産は厳しいですが、元となる魔法陣が完成しているので可能です」

 「助かる。これで禁忌の魔道具は対処できる目途がついたな」

 ほっとするシーグフリードに、ヴァレリラルドは安堵とは遠い表情を浮かべた。

 「この魔道具では不安ですか?」

 それを見咎めたエルが尋ねる。

 「禁忌の魔道具は、空間を行き来するものだけではない。精霊の力を封じるような魔道具もあるんだ。以前ナオはそれを使われて恐ろしいめに遭った。2人の尽力には感謝する。だが、これだけでナオを守り切れるとは思えない」

 ヴァレリラルドの発言に、場に重い空気が流れた。

 「殿下、まずは1つの危惧に対して光明が見えたことを喜びましょう。ナオ様は必ず護ります」

 決意と覚悟に満ちた声のテュコに、ヴァレリラルドとシーグフリード、それにエルとルルは顔をあげて大きく頷いた。

 てってけてってってぇーてーてーよじげんばっぐー

 少し離れたところでアシェルナオの可愛いおしゃべりが聞こえた。

 ヴァレリラルドたちが視線を向けると、アシェルナオとアイナ、ドリーンがきゃぁきゃぁと可愛く戯れていて、その無邪気で尊い笑顔を必ず護らなければと決意させた。
 
 ヴァレリラルドたちが自分を見ていることに気が付いたアシェルナオは、

 「お話終わった? ねぇねぇ、テュコ。明日は夜の日でしょう? スヴェンたちに、ダンジョンに行くときに身に着ける小さなバッグを持って明日来て、ってお手紙を出していい?」

 大人の話が終わったらしいことを察して戻ってくる。

 「ええ。お手紙が出来たらお持ちください」

 「はーい」

 久しぶりに友達に会える喜びに、アシェルナオはぴょんぴょん跳ねた。

 「まだ体が本調子じゃないんだから、はしゃがないように」

 「はーい、兄様」

 すでに明日が楽しみなアシェルナオは笑顔を崩さないまま、さっきまで座っていたヴァレリラルドの横に腰を下ろした。

 「ああ、ナオ様。そういえば、頼まれていた別件のもできてる」

 「今渡してもいいけど、おもしろそうだから、説明がてら見学したい」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※
 エール、いいね、ありがとうございます。
 前回のお話の最後でアシェルナオが「エル、ルル」と言っていますが、「エルるん、ケルるん」の間違いです。
 謹んで訂正してきました(>_<)
 

 
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