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第5部
ナオ奪還
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「っ、殿下が呼ばれた。側防塔、櫓担当は煙玉が上がっていないか周囲を見渡せ」
ヴァレリラルドとふよりんが消えた一拍の間のあと、マフダルは通信機で古城の側防塔にいる者、エンロートの各地に建つ櫓にいる者に指示を飛ばす。
テュコはシーグフリードや他の護衛騎士たちとともにアシェルナオとヴァレリラルドを迎えるべく広間を飛び出した。
そのあとにベルンハルドたちも続き、
「あなた」
パウラは震える瞳でオリヴェルを見上げる。
待ち望んだ我が子の奪還の知らせは、希っていた気持ちが強すぎて、パウラはアシェルナオがどのような姿で帰ってくるのだろう、辛い思いをしたのではないかと怖気づいていた。
「殿下の名を呼べたんだ、きっと無事だ。アシェルナオを迎えに行こう」
オリヴェルは妻を支えて歩き出した。
ビビアナの抱えている洗濯あがりのパーカーの上に、ヴァレリラルドからもらったチェーンに通された指輪を見つけたアシェルナオは、立ち上がると同時に駆け出していた。
『今後ベアールの領城で起きたようなことがあれば、これを私だと思って握りしめて私の名前を呼ぶんだよ』
今まで頭に浮かびもしなかった約束を、指輪に輝くヴァレリラルドの瞳の色を見た途端思い出したのだ。
ビビアナが驚いた瞳で制止する。
その言葉が耳に入らないアシェルナオは着せられていた寝間着の裾を踏んでバランスを崩した。
上がり框から土間までは高さがあり、咄嗟にビビアナが受け止めようと手を伸ばすが、受け止めきれずにアシェルナオごと土間に転がる。
冷たい土間でしたたかに額を打ち付けたアシェルナオだったが、すぐに手をついて体を持ち上げ、震える指先でヴァレリラルドの瞳の色の石の嵌まる指輪を掴んだ。
「ヴァル……」
朦朧とする意識の中でアシェルナオは愛する者の名前を呼ぶ。
「ナオ様、お怪我はありませんか」
体勢を整えたビビアナがアシェルナオを抱き起そうとした時、突然目の前いっぱいに高級な黒い生地が広がった。
「え……」
ビビアナが理解できないでいるうちに、
「ナオ!」
身を裂かれるような悲痛な男の声が響いた。
それが黒い騎士服に身を包んだ王太子だということに、片手で大事そうにアシェルナオを抱き上げ、もう片方の手で剣を握って自分の首元に突きつける鋭い眼差しで、ビビアナは理解した。
何度か新聞で見たことのある凛々しくも美々しい王太子だが、その面持ちは悲愴感と憎悪の入り混じったもので、ビビアナは今さらながらに愛する者たちを引き裂いていたことを痛感した。
「キュイキュイ……」
「出口に案内しろ。ふよりん、ナオを連れ帰るまでは気を抜くな」
「キュッ」
ヴァレリラルドの静かな恫喝を受けて、ビビアナは従順に立ち上がる。
「こちらです」
案内をするために先頭を歩くビビアナが出入り口のドアを開ける。
ドアを開けると、そこは田舎の質素な家という佇まいの部屋だった。
簡素なテーブルに本を積み、読書をしていたエーリクは、ビビアナの後ろにアシェルナオを抱きかかえたヴァレリラルドを見て驚いた顔で座っていた椅子から立ち上がる。
だが動揺したのも一瞬で、ビビアナの諦観した表情と、ヴァレリラルドの必死の形相に、エーリクは無言で動向を見守った。
ヴァレリラルドはビビアナの背中に剣を突きつけたまま家を出る。
外は宵闇の迫る日暮れで、ヴァレリラルドはビビアナを突き放すと携帯していた煙玉を地面に向かって投げつけた。
煙玉は地面に投げられた衝撃で起動し、シュルシュルと煙をあげて空に打ちあがったかと思うと鮮やかな光を放って四方に広がった。
「ナオ奪還」
通信機に短くそう告げると、ふよりんとつながっていたリボンをほどく。
「ふよりん、頼むぞ!」
「キュッ!」
ヴァレリラルドと繋がれていた長すぎる待機期間がようやく終わり、ふよりんは待ちに待った出番に張り切って巨大な成体の聖獣の姿に変身すると、アシェルナオを抱き上げるヴァレリラルドごと大きな口に入れて地面を蹴った。
ヴァレリラルドが絆の指輪の効力で消えた。
待ちに待った絆の指輪の効力に、一同は古城のエントランスの扉を開け放ち、アシェルナオとヴァレリラルドの帰還を息をひそめて待っている。
「殿下からナオ様奪還の報告がありました」
遅れてやってきたマフダルの言葉に、エントランスに集まっていた者たちから歓声があがる。
「煙玉は、やはりニレモセ川の上流であがりました。近くにマロシュたちがいて、古城方面に向かって疾走する巨大な白い生物を目撃したそうです」
「ふよりんが成体になった姿です。ナオ様を保護してこちらに向かっていると思われます」
テュコの説明に安堵の息がそこここで漏れ、今まで気を張り詰めていたパウラの体がふらりと揺れる。
「パウラ、あと一息だ。アシェルナオを出迎えてやろう」
「ええ、ええ、あなた」
「すまんが道を開けてくれ」
人だかりが出来ているエントランスにショトラの声が響く。
「ショトラ先生」
「アイナとドリーンはナオ様の部屋で待機しています。奥方様もよく頑張りましたね」
ショトラの言葉に、パウラはただ涙を流しながら頷く。
やがて門を破壊しそうな勢いで巨大聖獣ふよりんが潜り抜けて来た。
そのままの勢いで広い前庭を駆け抜け、エントランスの前でとまる。
息を飲んでふよりんを見守る人々の中で、テュコが進み出る。
「ふよりん、ご苦労。早くナオ様を出してくれ」
テュコの呼びかけに、ふよりんは口を大きく開けた。同時に転がるようにエントランスに飛び出してきたヴァレリラルドはその身にアシェルナオを大事に抱きかかえていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
ヴァレリラルドとふよりんが消えた一拍の間のあと、マフダルは通信機で古城の側防塔にいる者、エンロートの各地に建つ櫓にいる者に指示を飛ばす。
テュコはシーグフリードや他の護衛騎士たちとともにアシェルナオとヴァレリラルドを迎えるべく広間を飛び出した。
そのあとにベルンハルドたちも続き、
「あなた」
パウラは震える瞳でオリヴェルを見上げる。
待ち望んだ我が子の奪還の知らせは、希っていた気持ちが強すぎて、パウラはアシェルナオがどのような姿で帰ってくるのだろう、辛い思いをしたのではないかと怖気づいていた。
「殿下の名を呼べたんだ、きっと無事だ。アシェルナオを迎えに行こう」
オリヴェルは妻を支えて歩き出した。
ビビアナの抱えている洗濯あがりのパーカーの上に、ヴァレリラルドからもらったチェーンに通された指輪を見つけたアシェルナオは、立ち上がると同時に駆け出していた。
『今後ベアールの領城で起きたようなことがあれば、これを私だと思って握りしめて私の名前を呼ぶんだよ』
今まで頭に浮かびもしなかった約束を、指輪に輝くヴァレリラルドの瞳の色を見た途端思い出したのだ。
ビビアナが驚いた瞳で制止する。
その言葉が耳に入らないアシェルナオは着せられていた寝間着の裾を踏んでバランスを崩した。
上がり框から土間までは高さがあり、咄嗟にビビアナが受け止めようと手を伸ばすが、受け止めきれずにアシェルナオごと土間に転がる。
冷たい土間でしたたかに額を打ち付けたアシェルナオだったが、すぐに手をついて体を持ち上げ、震える指先でヴァレリラルドの瞳の色の石の嵌まる指輪を掴んだ。
「ヴァル……」
朦朧とする意識の中でアシェルナオは愛する者の名前を呼ぶ。
「ナオ様、お怪我はありませんか」
体勢を整えたビビアナがアシェルナオを抱き起そうとした時、突然目の前いっぱいに高級な黒い生地が広がった。
「え……」
ビビアナが理解できないでいるうちに、
「ナオ!」
身を裂かれるような悲痛な男の声が響いた。
それが黒い騎士服に身を包んだ王太子だということに、片手で大事そうにアシェルナオを抱き上げ、もう片方の手で剣を握って自分の首元に突きつける鋭い眼差しで、ビビアナは理解した。
何度か新聞で見たことのある凛々しくも美々しい王太子だが、その面持ちは悲愴感と憎悪の入り混じったもので、ビビアナは今さらながらに愛する者たちを引き裂いていたことを痛感した。
「キュイキュイ……」
「出口に案内しろ。ふよりん、ナオを連れ帰るまでは気を抜くな」
「キュッ」
ヴァレリラルドの静かな恫喝を受けて、ビビアナは従順に立ち上がる。
「こちらです」
案内をするために先頭を歩くビビアナが出入り口のドアを開ける。
ドアを開けると、そこは田舎の質素な家という佇まいの部屋だった。
簡素なテーブルに本を積み、読書をしていたエーリクは、ビビアナの後ろにアシェルナオを抱きかかえたヴァレリラルドを見て驚いた顔で座っていた椅子から立ち上がる。
だが動揺したのも一瞬で、ビビアナの諦観した表情と、ヴァレリラルドの必死の形相に、エーリクは無言で動向を見守った。
ヴァレリラルドはビビアナの背中に剣を突きつけたまま家を出る。
外は宵闇の迫る日暮れで、ヴァレリラルドはビビアナを突き放すと携帯していた煙玉を地面に向かって投げつけた。
煙玉は地面に投げられた衝撃で起動し、シュルシュルと煙をあげて空に打ちあがったかと思うと鮮やかな光を放って四方に広がった。
「ナオ奪還」
通信機に短くそう告げると、ふよりんとつながっていたリボンをほどく。
「ふよりん、頼むぞ!」
「キュッ!」
ヴァレリラルドと繋がれていた長すぎる待機期間がようやく終わり、ふよりんは待ちに待った出番に張り切って巨大な成体の聖獣の姿に変身すると、アシェルナオを抱き上げるヴァレリラルドごと大きな口に入れて地面を蹴った。
ヴァレリラルドが絆の指輪の効力で消えた。
待ちに待った絆の指輪の効力に、一同は古城のエントランスの扉を開け放ち、アシェルナオとヴァレリラルドの帰還を息をひそめて待っている。
「殿下からナオ様奪還の報告がありました」
遅れてやってきたマフダルの言葉に、エントランスに集まっていた者たちから歓声があがる。
「煙玉は、やはりニレモセ川の上流であがりました。近くにマロシュたちがいて、古城方面に向かって疾走する巨大な白い生物を目撃したそうです」
「ふよりんが成体になった姿です。ナオ様を保護してこちらに向かっていると思われます」
テュコの説明に安堵の息がそこここで漏れ、今まで気を張り詰めていたパウラの体がふらりと揺れる。
「パウラ、あと一息だ。アシェルナオを出迎えてやろう」
「ええ、ええ、あなた」
「すまんが道を開けてくれ」
人だかりが出来ているエントランスにショトラの声が響く。
「ショトラ先生」
「アイナとドリーンはナオ様の部屋で待機しています。奥方様もよく頑張りましたね」
ショトラの言葉に、パウラはただ涙を流しながら頷く。
やがて門を破壊しそうな勢いで巨大聖獣ふよりんが潜り抜けて来た。
そのままの勢いで広い前庭を駆け抜け、エントランスの前でとまる。
息を飲んでふよりんを見守る人々の中で、テュコが進み出る。
「ふよりん、ご苦労。早くナオ様を出してくれ」
テュコの呼びかけに、ふよりんは口を大きく開けた。同時に転がるようにエントランスに飛び出してきたヴァレリラルドはその身にアシェルナオを大事に抱きかかえていた。
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