446 / 494
第5部
ビビアナたちにひどくしないで
しおりを挟む
「ナオ様!」
「アシェルナオ!」
テュコやシーグフリード、オリヴェル、パウラたちがアシェルナオの無事な姿を見ようと詰め寄る。
ヴァレリラルドは大切なものを扱うようにアシェルナオの後頭部を左手で包み込みながら、ゆっくりと体からアシェルナオを離した。
質素な寝間着を着せられ、額から血を滲ませて力なく瞳を閉じたアシェルナオは心配していたよりずっとやつれていて、一目見て安心したいと思っていた人々は安堵よりも不安と怒りの感情を募らせた。
「ナオ、私だ。わかるかい?」
重く瞼を降ろしたアシェルナオに問いかけるヴァレリラルドの声は震えていた。
また失うかと思っていた、失ったらどうしようかと不安でたまらなかった愛しい存在を取り戻したものの、アシェルナオの声を聞くまでは心から安心できなかった。
ヴァレリラルドの呼びかけに、アシェルナオの長い睫毛が二、三度羽ばたき、薄く目を開ける。狭い視界で目にする金色の髪に、アシェルナオの体は大きく跳ねた。
「もう大丈夫だ。帰ってきたんだよ。ナオ、遅くなってすまない……」
今度こそ取り戻した安堵感でヴァレリラルドはアシェルナオを抱きしめる。
「ヴァル……ううぅっ」
ようやく自分を抱きしめているのがヴァレリラルドだとわかると、アシェルナオの瞳が潤んだ。
同じ愛し子であるみつの、神殿以外には認められず、受け入れられず、辛い仕打ちを受けた日記に心を引きずられているアシェルナオは、ヴァレリラルドにしがみついて嗚咽をあげる。
理不尽な出来事は、みつには受け止められてもアシェルナオには受け止められなかった。我が身に起きたことのように悲しかった。辛かった。
「ヴァル、ごめ……さい……ごめんなさ……」
「ナオは悪くない。謝るのは私のほうだ。助け出すのが遅くなって、怖い思いをさせてすまない」
「ナオ様、よくお戻りになられました」
テュコが万感の思いをこめて声をかける。
「アシェルナオ、母様よ。よくがんばったわね」
「父様もいるよ」
「兄様もいるからな」
「ナオ、心配したぞ」
「ナオ様、よく耐えられました」
拉致されたこの数日で痩せ衰えたアシェルナオが泣いている様子に、周囲の者は声をかけながらも拉致した者たちへの怒りを新たにした。
「ごめ……なさい……」
だが、アシェルナオは我が身に降り注ぐ愛情に、何もかもに恵まれている身が申し訳なかった。
甘やかされて生きて来た自分が悪の根源のような気がした。
「ああ、アシェルナオ、可哀そうに」
やつれた姿で泣いているアシェルナオを抱きしめようとパウラが手をのばすが、それをショトラはやんわりと制した。
「先に診察をします。奥方様、だんな様、他の皆様もご心配でしょうが、ナオ様には安静が必要です。面会は明日までお待ちください。テュコ、ナオ様を部屋まで運んでくれ。フォルシウス殿、癒しをお願いします。オルドジフ殿はご同行を」
「ナオは私が」
アシェルナオを奪おうとするテュコをヴァレリラルドは睨みつける。もう、少しの間でもアシェルナオを離したくなかった。
「殿下の思いは重々存じております。ですが、殿下はこの数日まともに眠っておられません。殿下ご自身もすでに限界なのです。明日の朝ナオ様のご様子について説明いたしますから今日はもうおやすみください。奥方様もです。公爵も陛下方も、今夜はゆっくりお休み下さい」
ショトラにそこまで言われればヴァレリラルドは何も言えなかった。
「殿下、拉致犯の捕縛は我々に任せてお休みください」
マフダルが申し出ると、
「だめ……。マフダル、兄様、ビビアナたちにひどくしないで。捕縛、だめ。話を聞いて……」
アシェルナオは泣きながら訴えた。
「わかった。捕縛はしないし、丁寧に扱うと約束する。アシェルナオは何も心配せず先生の診察を受けてゆっくり休むんだ」
シーグフリードの約束に安心したのか、アシェルナオの意識が落ちる。
「テュコ、早く部屋に」
ショトラに促されるまま、テュコはようやく手元に戻ってきた愛しい主人をしっかりと抱き上げてアシェルナオの滞在している部屋に急ぐ。ふよりんは何かと話をするようにキュィキュィと鳴きながらそのあとをついていった。
「先生、頼みますよ」
パウラの声に、ショトラはしっかり頷いてテュコのあとを追った。
「それで、ラル。アシェルナオを救出したときの様子を話してくれ」
「犯人はどんな奴らでしたか?」
心配げに、テュコに抱えられて運ばれるアシェルナオを見送っているヴァレリラルドを、シーグフリードたちが取り囲む。
「私が指輪の効力で転移したとき、ナオは部屋の中の石の床に倒れていた。ナオは拘束されておらず、近くには栗毛の若い女がいた。おそらくナオが言っていたビビアナという者だと思う。女は出口に案内しろと言う私に従順だった。ナオがいたのは不思議な造りの部屋だったが、女が案内した続き部屋は民家の一室のようだった。そこにはモスグレイの髪の男が1人でいて、私が女を盾にして家を出ようとしても無言で見ているだけだった。家を出るとすぐにふよりんの口の中に収容されたから、私がわかるのは以上だ」
「ふむ……。マロシュの情報の若い男女の特徴と合致している。その2人がアシェルナオを攫った者たちで間違いないようだが、抵抗する様子はなかったんだな?」
ヴァレリラルドの報告で奪還時のアシェルナオの様子を知り、シーグフリードは顎に手を当てた。
「ナオ様に執着していないのはなぜだ? ナオ様を攫った理由はなんだ?」
「その2人を捕らえて話を聞くしかないな」
考え込むシーグフリードの横でウルリクとベルトルドが頷きあう。
「殿下、お疲れさまでした。ナオ様のことがご心配でしょうが、フォルと義兄上が側にいれば安心です。あとは私たちに任せてお休みください」
クランツがヴァレリラルドを労う。
「ヴァレリラルド、お前もよく耐えたな。医師の言うとおりナオのことは任せて、今夜はゆっくり休むがいい。すべては明日だ」
ベルンハルドにも言われると、ヴァレリラルドは承服しないわけにはいかなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
感想、エール、いいね、ありがとうございます。
「アシェルナオ!」
テュコやシーグフリード、オリヴェル、パウラたちがアシェルナオの無事な姿を見ようと詰め寄る。
ヴァレリラルドは大切なものを扱うようにアシェルナオの後頭部を左手で包み込みながら、ゆっくりと体からアシェルナオを離した。
質素な寝間着を着せられ、額から血を滲ませて力なく瞳を閉じたアシェルナオは心配していたよりずっとやつれていて、一目見て安心したいと思っていた人々は安堵よりも不安と怒りの感情を募らせた。
「ナオ、私だ。わかるかい?」
重く瞼を降ろしたアシェルナオに問いかけるヴァレリラルドの声は震えていた。
また失うかと思っていた、失ったらどうしようかと不安でたまらなかった愛しい存在を取り戻したものの、アシェルナオの声を聞くまでは心から安心できなかった。
ヴァレリラルドの呼びかけに、アシェルナオの長い睫毛が二、三度羽ばたき、薄く目を開ける。狭い視界で目にする金色の髪に、アシェルナオの体は大きく跳ねた。
「もう大丈夫だ。帰ってきたんだよ。ナオ、遅くなってすまない……」
今度こそ取り戻した安堵感でヴァレリラルドはアシェルナオを抱きしめる。
「ヴァル……ううぅっ」
ようやく自分を抱きしめているのがヴァレリラルドだとわかると、アシェルナオの瞳が潤んだ。
同じ愛し子であるみつの、神殿以外には認められず、受け入れられず、辛い仕打ちを受けた日記に心を引きずられているアシェルナオは、ヴァレリラルドにしがみついて嗚咽をあげる。
理不尽な出来事は、みつには受け止められてもアシェルナオには受け止められなかった。我が身に起きたことのように悲しかった。辛かった。
「ヴァル、ごめ……さい……ごめんなさ……」
「ナオは悪くない。謝るのは私のほうだ。助け出すのが遅くなって、怖い思いをさせてすまない」
「ナオ様、よくお戻りになられました」
テュコが万感の思いをこめて声をかける。
「アシェルナオ、母様よ。よくがんばったわね」
「父様もいるよ」
「兄様もいるからな」
「ナオ、心配したぞ」
「ナオ様、よく耐えられました」
拉致されたこの数日で痩せ衰えたアシェルナオが泣いている様子に、周囲の者は声をかけながらも拉致した者たちへの怒りを新たにした。
「ごめ……なさい……」
だが、アシェルナオは我が身に降り注ぐ愛情に、何もかもに恵まれている身が申し訳なかった。
甘やかされて生きて来た自分が悪の根源のような気がした。
「ああ、アシェルナオ、可哀そうに」
やつれた姿で泣いているアシェルナオを抱きしめようとパウラが手をのばすが、それをショトラはやんわりと制した。
「先に診察をします。奥方様、だんな様、他の皆様もご心配でしょうが、ナオ様には安静が必要です。面会は明日までお待ちください。テュコ、ナオ様を部屋まで運んでくれ。フォルシウス殿、癒しをお願いします。オルドジフ殿はご同行を」
「ナオは私が」
アシェルナオを奪おうとするテュコをヴァレリラルドは睨みつける。もう、少しの間でもアシェルナオを離したくなかった。
「殿下の思いは重々存じております。ですが、殿下はこの数日まともに眠っておられません。殿下ご自身もすでに限界なのです。明日の朝ナオ様のご様子について説明いたしますから今日はもうおやすみください。奥方様もです。公爵も陛下方も、今夜はゆっくりお休み下さい」
ショトラにそこまで言われればヴァレリラルドは何も言えなかった。
「殿下、拉致犯の捕縛は我々に任せてお休みください」
マフダルが申し出ると、
「だめ……。マフダル、兄様、ビビアナたちにひどくしないで。捕縛、だめ。話を聞いて……」
アシェルナオは泣きながら訴えた。
「わかった。捕縛はしないし、丁寧に扱うと約束する。アシェルナオは何も心配せず先生の診察を受けてゆっくり休むんだ」
シーグフリードの約束に安心したのか、アシェルナオの意識が落ちる。
「テュコ、早く部屋に」
ショトラに促されるまま、テュコはようやく手元に戻ってきた愛しい主人をしっかりと抱き上げてアシェルナオの滞在している部屋に急ぐ。ふよりんは何かと話をするようにキュィキュィと鳴きながらそのあとをついていった。
「先生、頼みますよ」
パウラの声に、ショトラはしっかり頷いてテュコのあとを追った。
「それで、ラル。アシェルナオを救出したときの様子を話してくれ」
「犯人はどんな奴らでしたか?」
心配げに、テュコに抱えられて運ばれるアシェルナオを見送っているヴァレリラルドを、シーグフリードたちが取り囲む。
「私が指輪の効力で転移したとき、ナオは部屋の中の石の床に倒れていた。ナオは拘束されておらず、近くには栗毛の若い女がいた。おそらくナオが言っていたビビアナという者だと思う。女は出口に案内しろと言う私に従順だった。ナオがいたのは不思議な造りの部屋だったが、女が案内した続き部屋は民家の一室のようだった。そこにはモスグレイの髪の男が1人でいて、私が女を盾にして家を出ようとしても無言で見ているだけだった。家を出るとすぐにふよりんの口の中に収容されたから、私がわかるのは以上だ」
「ふむ……。マロシュの情報の若い男女の特徴と合致している。その2人がアシェルナオを攫った者たちで間違いないようだが、抵抗する様子はなかったんだな?」
ヴァレリラルドの報告で奪還時のアシェルナオの様子を知り、シーグフリードは顎に手を当てた。
「ナオ様に執着していないのはなぜだ? ナオ様を攫った理由はなんだ?」
「その2人を捕らえて話を聞くしかないな」
考え込むシーグフリードの横でウルリクとベルトルドが頷きあう。
「殿下、お疲れさまでした。ナオ様のことがご心配でしょうが、フォルと義兄上が側にいれば安心です。あとは私たちに任せてお休みください」
クランツがヴァレリラルドを労う。
「ヴァレリラルド、お前もよく耐えたな。医師の言うとおりナオのことは任せて、今夜はゆっくり休むがいい。すべては明日だ」
ベルンハルドにも言われると、ヴァレリラルドは承服しないわけにはいかなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
感想、エール、いいね、ありがとうございます。
147
あなたにおすすめの小説
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる