そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第5部

僕はみんなに甘えていいの……?

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 「アイナ、ドリーン。ナオ様を寝台に寝かせる」

 部屋の扉が開くなりショトラは声を張って指示を飛ばす。その後ろにはアシェルナオを横抱きに抱えたテュコとフォルシウス、オルドジフがいた。

 「はい、整っています」

 「清拭の準備と、お着替えの準備もできています」

 さっきまで涙をこらえてアシェルナオの帰還を待っていた2人は、いざ主が帰還しても喜びに気を緩ませることなくきびきびと動いた。

 ショトラの声に柔らかさはなく、それは決して楽観できる状況ではないということを伝えていたからだった。

 それにこの顔ぶれが17年前のことを思い出させた。場所も同じこの部屋だ。

 テュコが寝台にアシェルナオを横たえる。

 艶やかな髪も真珠の肌も見る影がなく輝きをなくし、もともと小柄ではあるのだが一目で痩せたことが見て取れた。

 「ナオ様……あんなにツヤがあった髪が……」

 こらえるはずの涙がポロリと落ちて、ドリーンは慌てて頬を指で拭う。

 「着替えさせながら診察をする。テュコたちは呼ぶまで待機してくれ」

 ショトラが指示すると、すぐにアイナが天蓋カーテンで寝台の周りを囲んだ。

 「エンロートという場所に、ずっと胸騒ぎがしていたんだ」

 閉ざされた天蓋カーテンを見ながら小さく呟いたのはオルドジフだった。

 ショトラが自分を呼んだのは、17年前のようにアシェルナオの心が壊れている時を想定しているからだとわかっていた。

 「兄上のせいではありません。最初から同行していればと、私も悔いるものがあります」

 フォルシウスは慰めるようにオルドジフの腕を取ってソファに座らせる。

 「私がついていながら、むざむざナオ様を攫われてしまった。私の後悔も大きいです。ですが、過ぎたことよりも、ナオ様がどのような状況でも誠心誠意お仕えする。それだけです。オルドジフ殿も、ナオ様の心の支えになれるように後悔はお捨てください」

 テュコに言われて、オルドジフも覚悟を決めて頷いた。


 
 やがて天蓋カーテンが開き、ショトラが待機組のもとに歩み寄る。

 「先生、ナオ様は……」

 「体をあらためたが、額の傷以外に外傷はないようだ。だが衰弱がひどい。フォルシウス殿、申し訳ないが夜通しナオ様に癒しをかけてくれないか?」

 「わかりました。先に額の傷を癒します」

 すぐにフォルシウスはアシェルナオの眠る寝台に向かった。

 「先生の見立ては?」

 弟の背中を見ながらオルドジフが尋ねる。

 「ナオ様の衰弱がひどいのは精神的な苦痛を受けたからでしょう。それに、殿下を見て一瞬拒絶されていた。あれは以前の心の傷を思い出してのことなのか、今回の件で新たな心の傷を受けたのかの見極めがまだつかない。もし今回も、であれば殿下にすぐに知らせるのはナオ様にも殿下にもお辛いかもしれない」

 「だから殿下ではなく私にナオ様を運ばせたのですね」

 テュコはアシェルナオを奪われたヴァレリラルドの、不満を越した怒りの瞳を思い出した。

 「ああ。すまないがテュコもオルドジフ殿も、夜中にナオ様が目を覚まして興奮状態になった時のために今晩はここで待機してくれないか? 私も今晩はソファで寝させてもらう。アイナとドリーンは今日はもう休め。明日の朝から頼む」

 「わかりました」

 「ナオ様のこと、よろしくお願いします」

 アシェルナオをよりよい状況でお世話するためには、休むべきときに休む。そう心得ているアイナとドリーンは後ろ髪を引かれる思いで一礼して部屋を辞した。




 どうして……かわいそう……どうしてみつさんは……どうして僕は……

 『ナオは悪くないよ。ナオはみんなに愛されていいんだよ』

 アシェルナオの自問自答に応えるように、柔らかな声がした。傷ついた心を癒す、優しい声だった。

 いいの……? 僕はみんなに甘えていいの……?

 『いいよ。みんなナオがだいすきだもの。ナオもみんなが大すき?』

 うん、大好きだよ。みんな大好き。

 『それでいいんだよ。みつもナオがしあわせでいるほうがいいって思ってるはずだよ』

 そうかな。そうだといいな……。

 悲しみが和らいだアシェルナオがゆっくり瞳を開けると、

 「キュイキュイ」

 枕元にいたふよりんが心配そうな鳴き声をあげる。

 視界にふよりんを捕らえたアシェルナオは、その横にいるくーを見つけた。

 「くー、夢の中で僕に話しかけてくれてた?」

 アシェルナオの問いかけに、くーはもじもじしながら頷く。

 『ナオがみつのことで悲しんでるのがつらかったから』

 「ありがとう、くー」

 久しぶりに悪い夢をみずに目が覚めたアシェルナオが儚く微笑む。

 『どうして夜がいるの?』

 『夜はだめ』

 『おすすめできない』

 ふよりんとくーから離れたところにいるひぃたちが首を振ってアシェルナオに訴える。

 「ナオ様、目が覚めましたか? 気分はどうです?」

 アシェルナオの手を握って夜通し癒しをかけていたフォルシウスが穏やかな声で呼びかける。

 だがアシェルナオはやつれても綺麗な顔を悲し気に曇らせる。

 「ひぃもちゃーも、ぐりもみっちーもぴかも、いつも僕を助けてくれる。くーも、僕を助けてくれたよ? 今も、悪い夢を見ないようにしてくれてたよ? 僕はみんな大好き。みんなはそうじゃないの?」

 ナオの問いかけに、精霊たちはお互いの顔を見合わせた。

 「くーは何もしてないよ? 今まで1人で寂しかったんだよ? くーはみんなに意地悪した? 悪くないのに、辛い思いさせられたら、僕は悲しい」
 
 みつのことと重なって、アシェルナオの瞳から涙が零れ落ちる。

 ナオの涙を見て、精霊たちはわたわたと挙動不審な動きをした。

 『ナオ、ぼくたちなかよし』

 その中でぴかが宣言し、くーのそばにきて手をつなぐ。

 他の精霊たちも次々と手をつなぎ、みんなで1つの輪を作った。

 『ナオ、泣かないで』

 『ぼくたちなかよしだから、泣かないで』

 『みんな、なかよし。ナオ、うれしい?』

 「うん、うれしい」

 「キュィキュィ」

 輪の中心でふよふよしながら、ふよりんがなごやかな鳴き声を発した。

 「ナオ、精霊と話をしていたのかい?」

 精霊たちと話しているアシェルナオは少なくとも以前のトラウマを思い出して興奮しているわけではない。

 オルドジフは胸を撫でおろした。

 フォルシウスとアシェルナオの声を聞いて、待機していたオルドジフとテュコ、ショトラが寝台を囲んでいた。

 「今まで隠れていたくーが帰ってきたんだ」

 「くー?」

 「夜の精霊。おっきいひとはみつさんと一緒に消えたままで……」

 アシェルナオはオルドジフに手を伸ばす。

 「そうか」

 夜の精霊とは。おっきいひととは。みつさんとは。

 聞きたいことはあるが、自分を求めるアシェルナオの手を取り、抱き起して胸の中におさめた。

 「ドーさん、悲しい話を聞いたんだ」

 「そうか。辛かったね」

 哀哭する小さな背中を撫でながら、オルドジフはアシェルナオの嘆きを受け止めていた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 感想、エール、いいね、ありがとうございます。

 眼精疲労になってしまいました。目の奥がものすごく痛くて頭痛と吐き気がします。
 文字の入力が辛い……。もしかして症状が治まるまで更新の間隔があくかもしれません。すみません。
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