そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第5部

甘くはないですか?(もうちょっとツンツンしたかった)

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 「そう言えば、ラルはアシェルナオが軟禁されていた場所……安らぎの家を、メーヴィスの家の中にあると言ったな? だがマロシュたちの捜索ではメーヴィスの家にそのような離れも部屋もなかったそうだ」

 あしがぁぁ、とのたうち回るボフスラヴァを見ないようにして、シーグフリードが首をかしげる。

 「エーリクの家のどこかの壁を3回叩けば入れるんだけど、どこを叩けばいいのかはメーヴィスとビビアナしか知らないと思う」

 ボフスラヴァの足をツンツンする手を止めてアシェルナオは兄に秘密を教える。

 「ならば、わからないのも当然だな」

 「ナオ、それでも一応精霊王だから」

 ヴァレリラルドはアシェルナオの腰を両手でつかむと、ひょいと抱えて自分の横に座らせる。

 「なにこのお仕置き……恐ろしい……じゃあまたねぇ」

 まだ痺れる足を持て余したボフスラヴァは、引き攣った笑いを浮かべたまま消えた。

 「もうちょっとツンツンしたかった。テュコはボフ美に優しくし過ぎ」

 「はい、申し訳ありません」 

 可愛く拗ねているアシェルナオと、隣に座るヴァレリラルドの憎々しげな顔を見て、テュコは機嫌のよい笑顔で綺麗なお辞儀をした。

 「兄様、メーヴィスとビビアナに会いたいです」

 まだ少し不機嫌そうな顔で、アシェルナオはシーグフリードに願った。

 「それはアシェルナオが元気になったらと言ったはずだよ?」

 「今ならベルっちもドーさんもいます。きっとメーヴィスたちはみつさんのことで国王や精霊神殿の偉い人に思うところがあったと思うから、だから会って話すのは今がいいと思います」

 反対されても譲りません、という雰囲気を醸し出しているアシェルナオに、シーグフリードだけではなくベルンハルドもオルドジフも苦笑していた。

 「わかった。場所はここでいいかい? 決して無理をしてはいけないよ?」

 「はーい。ありがとう、兄様」





 マフダルの後ろから登場したメーヴィスとビビアナは、拘束されていた場所から突然古城の上階にある貴人の居住する区画に、その中でも最上の部屋に案内されて、心配するほど顔色を悪くしていた。

 「ビビアナ、ひどいことされなかった?」

 自分の希望で来てもらったとはいえ、末席に用意された椅子にガチガチに固まって座っているビビアナを見てアシェルナオは申し訳なさそうな声になった。

 「はっ、はい。部屋に鍵はかけられましたが、美味しい食事も綺麗なベッドも与えられました。ナオ様の顔色がよくなっておいでで、安心しました」

 緊張しているビビアナだが、最後の方はアシェルナオの顔を見て安心した様子になっていた。

 「そこにいらっしゃいますのは国王陛下とお見受けします。このたびは愛し子であるナオ様を拉致した大罪を犯しました。どうか私は極刑に。ですが妹にはどうか温情をお与えください」

 メーヴィスは膝の上に置いた手に額がつくほど頭を下げる。

 「畏まらなくてもよい。ナオからすべてを聞いた。エーリクの代から過酷な運命を背負わせてきたことをすまなく思う。今後は当時の王の二の舞いはしないと誓おう。ナオは……無理をするなと言っても言い出したら聞かないところがある。だが王としてできる限りナオを止める、止められない時は全力で支援する。ナオはヴァレリラルドと婚約しているがそれは純粋に2人が思いあっているからだ。決して王家の都合のいいようにナオを扱わない。どうか、信じてほしい」

 ベルンハルドはメーヴィスとビビアナに願った。

 「王が……」

 ただの平民の自分たちに、頭を下げるに等しい懇願をしている。

 メーヴィスは愕然とした表情で固まっていた。

 「言ったでしょう? ベルっちも、みつさんのときのことを知っていて、当時の国王の過ちを二度と繰り返さないように僕の意志を尊重してくれてる、って。ヴァルもベルっちも、僕を大事にしてくれてるよ?」

 ね? と、アシェルナオはヴァレリラルドに微笑みかける。

 「ああ。一生ナオを大事にするよ」

 ヴァレリラルドもとろけるような笑みを浮かべる。

 「私としては大事な弟を拉致して、直接ではないにしろ心労を負わせたお前たちを極刑にしたい気持ちは重々あるのだが、それをして愛する弟から嫌われるのは嫌だ」

 アシェルナオから2人にひどい罪を科さないように言われているシーグフリードはメーヴィスとビビアナの処分を丸投げした。

 「では、こういうのはどうでしょうかな」

 ローセボームが静かに口を開く。「メーヴィスはキュビエの精霊神殿から暇を出されたらしいが、神官の仕事を嫌になったわけではあるまい?」

 「それは勿論です」

 神官になるきっかけは愛し子の殉死の御触れだったが、信仰心には一片の迷いはなかった。

 「ではオルドジフ殿。メーヴィスの身柄を中央精霊神殿で預かることは可能だろうか」

 「キュビエの神殿でメーヴィスの真意を聞かなかったことには多少の申し訳なさは感じます。けれどまたナオ様にあのような申し出があれば、同じような対処をするでしょう。……その意味がわかるか?」

 オルドジフの視線がメーヴィスを射抜く。

 その視線は、事情はわかるがメーヴィスの取った手段は決して許されるものではないということを強く訴えていた。

 「精霊神殿は精霊の加護を遍く広めるための場所。精霊の愛し子が現れた時には何を敵に回してでもお護りするのが務め。ナオ様と話をさせていただいて、自分の取った行動は適切ではなかったと思い知りました。二度とナオ様にエーリクの思いを押し付けることはいたしません」

 もとよりアシェルナオを怖がらせることも、ビビアナに極刑を受ける覚悟をさせることも、メーヴィスは望んでいなかったのだ。

 「精霊神殿の神官たるもの、精霊への信仰を同じくする者との融和を図らねばならない。決して個として動いてはならない。それがわかれば中央統括精霊神殿は受け入れよう」

 「謹んでお受けいたします」

 固い表情で頭を下げるメーヴィスに、ビビアナは両手で顔を覆った。

 「寛容な処置、ありがとうございます。よかったね、兄さん」

 死をもって罪をつぐなう覚悟をしていたビビアナは、兄が重い罪にならず、なおかつ精霊神殿の神官に戻れることに喜びを堪えきれなかった。

 「ありがとう、ドーさん」

 アシェルナオもメーヴィスが罪に問われずに精霊神殿に戻れることを喜んだ。

 「ナオがそれを望んでいることは宰相も私もわかっていたからね。……メーヴィス、当面の間は私のもとで働くといい。私の側にいれば、ナオ様の動向がわかるだろう。だがもし不穏な空気を感じればすぐに神殿から追放するぞ。いいな」

 「はい」

 見かけが厳ついオルドジフの重い言葉を受けて、メーヴィスは背筋を伸ばした。

 「甘くはないですか?」

 妥当な処置だとわかっていても、シーグフリードは口にせずにはいられなかった。

 「もちろん、厳しい修業もさせますよ」

 オルドジフがちょっとだけ悪い顔をする。

 「メーヴィス。それにビビアナ」

 メーヴィスの処分が決まったところで、ベルンハルドは静かに語りかけた。

 穏やかな口調だったが身に纏った威厳に、兄妹は居住まいを正した。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 なんか最近、キリが悪くてすみません。





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