そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第5部

『ちゅうする?』  『ちゅうするよ?』

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 「はい」

 「はいっ」

 畏まるメーヴィスの横で、ビビアナも恐れ多いと身を縮めながらベルンハルドに目を向ける。

 「私は、前の愛し子であるみつ様のことはこれまで通り伏せておきたいと思っている。お前たちはどう思う?」

 今はラフな服を着たワイルドな紳士という風情のベルンハルドには、威厳もだが信頼するに値する包容力が感じられた。

 「……私がエーリクから受け継いだのは、みつ様が国王や国民から虐げられた事実と、みつ様をお護りできなかったという無念。そして、愛し子の尊厳を王家に委ねてはいけないという思いです。ナオ様はエーリクの手記やみつ様の日記ですべてを知り、我が身に起きたことのように苦しんでくださいました。それだけで、私の家に伝わっていた宿命は果たされたと思います。今さら、みつ様の悲劇を国民に知らせる必要はありません」

 メーヴィスが思いを告げると、

 「私は……」

 ビビアナは目を伏せて、自分の思いを口にしていいのか迷っていた。

 「よい。思っていることを言ってみるがいい」

 「……愛し子様とは、瘴気が満ちたときにこの国に現れ、国に幸せをもたらす存在です。もし、もし叶うのなら、前の愛し子はみつという名前だったということだけでも国民に知らせていただけないでしょうか。みつ様という心も姿も美しい愛し子がいたのだと、たくさんの人が知ってくれれば、みつ様への供養になるのでは……勝手なことを言って申し訳ありません」

 震えながらも胸の内を語るビビアナに、アシェルナオは首を振る。

 「ううん、僕もそう思う。ベルっち、ドーさん、みつさんの名前だけ公表するのは、だめ?」

 「そうだな……」

 「私が当時の記録を探していたことはグルンドライスト様と一部の神殿関係者は知っています。その中に愛し子様の名前が残っていたということにしましょう。公表の時期は陛下にお任せします」

 「オルドジフよ、それはすべて私に丸投げしているようなものだぞ」

 ベルンハルドの恨めしそうな声を、オルドジフは口元に笑みを浮かべて聞き流す。

 「ありがとうございます。ナオ様を苦しませてしまって、申し訳ありませんでした」

 「みつさんのことがわかって、よかったと思う。でも怖い思いをしたのも事実だから、ビビアナにもそれなりのことをしてもらいたいと思ってるんだ」

 「はい、何なりと。覚悟はできております」

 「ナオ?」

 素直に受け入れるビビアナだが、アシェルナオの発言にヴァレリラルドは怪訝そうな顔を向ける。

 アシェルナオは可愛い含み笑いを浮かべて首を振った。

 「そんなに気負うことじゃないよ。あのね、夕凪亭の横の空家の庭で遊んでる子供たちがいるんだ。今まで世話をしてきた老夫婦がいなくなって、勝手に集まって勝手に遊んでるんだけど、大人が見ていると安心でしょ? 毎日とは言わないけど、たまに覗いてくれないかな? ちゃんとお手当も出るようにするよ? ビビアナは子供の扱いが上手でしょう?」

 「ナオ様、それはご自分が子供だとおっしゃってるようなものですよ?」

 アシェルナオを看護した時のことを思い出してビビアナは笑みをこぼす。

 「僕は子供じゃないよ? ビビアナがお世話上手なだけだよ?」

 「ふふっ。お手当もでるなら、私には罰ではなくご褒美のようなものですけど、それでいいんですか?」

 「罰を与えようとは思ってないもの。ビビアナ、ナタリオと結婚するときはお祝いに行くね?」

 思わず目を丸くするビビアナだが、すぐに満面の笑顔でうなずいた。その隣でメーヴィスが深く、深く頭を下げた。





 「ヴァルは、ずっと僕に呼ばれるのを待ってたんでしょう? あまり眠れてなかったよね? 大丈夫?」

 明るさを落としたアシェルナオの部屋の、あえて天蓋カーテンを開けた寝台の中で、アシェルナオは隣に横たわるヴァレリラルドに語り掛ける。

 夕食のあと、ヴァレリラルドに添い寝をねだったアシェルナオだったが、嬉しいことにその願いが叶っていた。

 「ああ。昨晩はゆっくり休んだから大丈夫だ。ナオこそ、まだ安静にしないといけないよ?」

 ヴァレリラルドはアシェルナオが無事に帰ってきたことを実感するように、手のひらで頬を撫でる。

 「うん、明日王都の家に帰って、もう少し回復するまで学園をお休みすることになってるんだ。ショトラ先生も一緒に来てくれるって。……ふふっ。ヴァルに添い寝してもらえて嬉しい」

 「頑張ったナオと私へのご褒美」

 という名目で、執務がたまっているシーグフリードとウルリク、ベルトルドを先に帰らせたヴァレリラルドは、指先でアシェルナオの唇に触れる。

 思い合う眼差しが交差する恋人たちのすぐ近くで、

 『ちゅうする?』

 くーがぴかに囁く。

 『ちゅうするよ?』

 ぴかも囁き返す。

 「ちゅうって……」

 途端に意識してしまって、アシェルナオはドキドキしながらヴァレリラルドを見る。

 「してほしい?」

 「違う、ぴかとくーが変なことを言うから……」

 「違う?」

 「……違わないけど」

 頬を染めるアシェルナオにヴァレリラルドは嬉しそうに笑うと、触れるだけの口づけを艶やかな唇に落とした。

 「好き」

 ヴァレリラルドの胸に顔を押し付ける。

 「可愛い、ナオ。愛してる」

 「僕も……」

 愛する人とこうして触れ合える幸せを感じながらも、アシェルナオはみつのことを思わずにいられなかった。

 「……あのね、僕が以前いた国は、伝統とかしきたりを大事にする国で、悪く言えば頭が固い国だったんだ」

 「そうなのか?」

 「それでも、僕が住んでいた時代には、グローバル……国際的な考えが正しいという認識で意識改革が進んでいて、身分の差はなく、人の命は平等、職業選択の自由が法律で定められていた」

 「だから貴族もいないし、平民だからといって身分が低いわけではないのか。理想のような国だな」

 「うん。法律が許す範囲なら誰と結婚してもいいし、しなくてもいい。個人の意志が尊重されていたんだ。でもみつさんの生きていた時代はそうじゃなかった。親の職業を継ぐのが当然で、選ぶ自由は少なかった。結婚も親が決めた相手とすることが多かった。家族の中では家長の言うことが絶対で、家長に言われたことは従うのが当然。嫌と言おうものなら暴力でものを言わせたり、勘当されたりした」

 「そこは今の貴族社会に通じるものがある。もちろんだめな貴族連中に限るが」

 話を聞きながら、ヴァレリラルドは自分の胸に顔を埋めるアシェルナオの髪をもてあそぶ。

 「みつさんは、好きでもない人に力ずくで体を自由にされそうになって、結婚をせまられて、家に逃げたら父親から殴られて、母親からは好きじゃない人と結婚するのは当たり前のことだと言われた。受け入れられないことなのに、どこにも逃げ場がなかったんだ。どうしようもなくて、死を選んでしまった。自死を選ぶのは、自分で自分の命を奪う行為だから許されないことだし、罪なことだと思う。それでも、そうするしかなかったみつさんに、資格がないっていうのはつらい……」

 アシェルナオはヴァレリラルドの胸に顔を押し付ける。

 「やりきれないな……。だからみつ様の魂は一際美しかったのだろう。スーザーの目に留まるくらいに」

 「うん」

 「みつ様には愛し子としての資格はなかったかもしれない。けれど、スーザーと出会ったことでたくさんのことが救われたのだと思う。だから、他の者にも優しくできたんじゃないかな」

 「うん……ヴァル、好き」

 自分の気持ちの中のモヤモヤを察して、受け止めてくれるヴァレリラルドが大好き。その思いでアシェルナオはヴァレリラルドに抱き着く。

 アシェルナオを抱きしめ返そうとしたヴァレリラルドの耳に小さな笛の音が聞こえた。

 大きな笛の音が聞こえると添い寝タイムが強制終了になる。

 ヴァレリラルドはいろいろなことを我慢して、アシェルナオの髪に口づけを落とした。


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 エール、いいね、ありがとうございます。
 米がありません。でも備蓄米をゲットする根性もありません……。

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