そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第5部

ヴァル……ごめんなさい……

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※モブレあり。グロテスクな表現あり。痛い表現あり。イタイ表現あり。要注意です。




 「亡きタルマン卿の甥名義のタウンハウスか。いい隠れ蓑だな」

 転移陣の間でシーグフリードは顎に手をやって考え込む。

 エンゲルブレクトの潜伏先と目される情報を得たシーグフリードは、急いで手配を済ませると、ヴァレリラルドたちを出迎えるべく待ち構えていた。

 転移陣の間には王太子の執務室からはイヴァンとマロシュと護衛騎士が、統括騎士団からはケイレブと数人の騎士が待機している。

 「誰だ? 亡きタルマン卿って?」

 ケイレブが眉をひそめて訊ねる。

 平民の出のケイレブは、叙爵しても貴族事情がよくわからなかった。貴族のあれこれは舅とサリアンに任せきりだった。

 「当時も、名前を聞いても思い出されないような、影の薄い下級貴族だったでしょう。もう亡くなって相当の年月が経っていますよ。おそらく妻子がなかったために相続手続きがあやふやのまま、名義だけは甥になっている。その甥は王都に住んでおらず、登記も不完全。けれど名義は確か。つまり、身を隠すには理想的な場所として以前から所持していたのでしょう」

 シーグフリードの言葉に、ケイレブは目を見張る。

 「……そんなとこまでわかるのか。すごいな」

 「アシュトル区の西端にある三の塔裏通りなら、俺も知っています。アシュトル区の西部は貴族街ですけど、端に行くほど王城から離れる分、高位貴族の屋敷は少ないです。屋敷が密集しているわけではないので人通りが少なく、隣家との距離もあり、馬車や人の出入りが目立ちにくいところです」

 マロシュが手を挙げて説明を補う。王都の地理は、シーグフリードの依頼ですでに頭にはいっていた。

 「よく勉強してるな。あそこらは通常は静かなところだから、第二騎士団の巡回も疎らになりやすい場所だ。俺も三の塔の裏通りならわかるから、俺も行くぞ」

 ケイレブが言ったところで転移陣が青白く浮かび上がる。強く光ったかと思うと、その光が消えた時にはそこにヴァレリラルドたちの姿があった。

 「シグ、手配は」

 現れるなりヴァレリラルドの声が飛ぶ。

 「裏門から出発する。裏馬車寄せに馬と馬車を用意している。向かいながら話すぞ」

 「ああ、頼む」

 シーグフリードを先頭に、一行は足早に裏馬車寄せに向かった。

 「少数精鋭で行く。行くのはヘルクヴィストに向かった者たちとケイレブ、それに私だ」

 「キュッ!」

 クランツの肩に乗っているふよりんが、みんな行くぞ、と言いたげに鳴く。

 「シグも行くのか?」

 「当然。アシェルナオは私のたった一人の弟だ。……第二騎士団に周辺の警備を指示した。オルドジフ殿とフォルシウスには王城で待機するように伝えている。ショトラ医師も来てくれるそうだ」

 「助かる。……無事でいてくれ、ナオ」

 ヴァレリラルドは祈るような気持ちで裏馬車寄せに急いだ。


 


 夜の帳が王都を静かに覆いはじめていた。

 ヴァレリラルドを先頭に、一行は王城の裏門をすべるように抜け出す。

 アシュトル区の中心部は広場があり人通りが多いが、貴族街に入り西の端に近づくと宵闇に浮かぶ建物の灯もまばらになっていた。

 暗がりに三の塔の建物が不気味に現れる。旧監視塔としての役目を終えた石塔が、夜の空に沈んだ尖塔のようにそびえている。

 「ここだな」

 ケイレブはヴァレリラルドを追い抜いて先頭に立ち、低い石垣と高木の影に覆われた一軒のタウンハウスの前で馬を止める。

 そこは三階建ての石造りで、黒ずんだ灰色の外壁は月の光を反射せず、まるで周囲の闇に溶け込むようだった。

 門扉はなく、建物の敷地も小さな石畳の前庭があるだけで、停められている馬車も荷車もない。まるで誰も住んでいないかのような佇まいだったが、三階の一室だけ、カーテンの隙間から弱い光が漏れていた。

 「三階だ。行くぞ」

 「他にも誰かいるかもしれない。慎重に」




 

 痛みと失血で意識をとばしていたアシェルナオは、焼けるような肩の痛みと、体にかかる重み、素肌を這う感触で目を覚ました。

 悪夢であってほしかった。だが、目を開けてすぐに視界に入るシーツと、褪せた壁紙。それに何より脈打つような肩の痛みは、これが夢ではなく現実だと伝えていた。

 そして。

 「いやぁっ……」

 体にかかる重みはエンゲルブレクトが覆いかぶさっているからで、自分が何も身に着けておらず、素肌を撫でまわされているのに気付いたアシェルナオは悲鳴をあげる。

 このおぞましい状況から逃げようとしても、刺された両肩のせいで思うように手が動かない。それはまるで寝台に縫いとめられた蝶のようだった。

 「ああ、17年前と同じだ……。ナオ様は血がよく似合う。綺麗ですよ、ナオ様」

 エンゲルブレクトはアシェルナオの頬を愛し気に撫でる。その息が耳にかかる。

 多量に失血したせいで手足が冷たくなっているアシェルナオだが、エンゲルブレクトの湿った熱い息はより寒気を感じさせた。

 エンゲルブレクトの唇が自分の唇に近づくのを感じて、アシェルナオはなんとか動く頭を動かして顔を背ける。エンゲルブレクトはにやりと笑うと、アシェルナオの鼻を自分の口で覆った。

 息ができなくて思わず開いた唇の間からエンゲルブレクトの舌が滑り込む。生理的に受け付けない生温かい舌に口腔内を思う存分蹂躙され、奥で縮こまっていた舌を引きずり出されて搦め取られる。

 「んんんっ……」

 気持ち悪いのに、しつこく、長く続く口づけ。いつか悪い夢の中で見たのと同じようにエンゲルブレクトの唾液が口の中に注ぎ込まれる。顎をそらせて唾液を飲み込まされるのを拒絶するアシェルナオの胸の尖りが指の腹で押しつぶされ、捏ねられる。

 ビクついたはずみで口の中に溜まった唾液を嚥下し、アシェルナオは顔を歪めた。

 泣くのはエンゲルブレクトを喜ばせるだけだと知っていても、痛みと絶望で心が折れてしまったアシェルナオの瞳から涙が溢れる。

 「顔をゆがませて泣いている。恐怖と苦痛。そのはざまで絶望するその顔をずっと、ずっと見たかった……。女神様、私に再びナオ様をお与えくださってありがとうございます」

 歓喜に震えながらエンゲルブレクトは下衣の前立てを緩め、すでに興奮して立ち上がっていた陰茎を取り出した。

 自分のものとはまったく違う、筋を立てて怒張した赤黒くて大きな陰茎に、アシェルナオはぎゅっと目を瞑る。

 「いい顔です……興奮しますよ……今まで犯してきたどの少年よりもいいです」

 エンゲルブレクトはアシェルナオの髪を鷲掴みにしてシーツに押し付ける。小さく、痛い、と呟いたアシェルナオだが、次の瞬間には絶叫していた。

 エンゲルブレクトの膝がアシェルナオの傷ついた肩をぐりぐりと抉るように押し付けていた。

 悲鳴をあげるアシェルナオの口にエンゲルブレクトは己の陰茎を突っ込んだ。生理的に受け付けない事実。えずくこともできずに苦しい。目を瞠ってもがくが手を動かすこともできない。

 「美しいナオ様を私のモノで穢す。愛し子を地に落とす。いい眺めです。ああ、いい。もっと奥まで咥えて」

 声を上ずらせてエンゲルブレクトは愉悦を浮かべて律動を起こす。口の中に突っ込まれた異物の匂いとえぐい味が広がる。苦しくて生理的に流れる涙が眦から伝い落ちる。

 痛みと苦しみから心が離れていくのをアシェルナオは感じた。たくさんの大事なものが音を立てて崩れていくのを感じた。

 「私ばかり楽しんで申し訳ありません。ナオ様も一緒に楽しみましょう」

 小さな口に無理やり突き立てていた陰茎をずるりと抜くと、唾液か先走りかわからない雫がアシェルナオの白い肌に落ちる。エンゲルブレクトはそれを恍惚と眺めながらアシェルナオの足の間に場所をとる。両方の膝の裏に手をかけて押し開く。

 さっきまで小さな口に押し込まれていた禍々しい陰茎が固い蕾に力任せに押し付けられる。

 「い……や……ぁ……ひ……い……やぁぁぁっ」

 
 ヴァレリラルド以外にそこを許すのは嫌。思わずアシェルナオはエンゲルブレクトの手から足を振りほどく。その足がエンゲルブレクトの頬をかすめた。

 「怯える姿は愛おしいですが、抵抗は許しませんよ」

 怒りを湛えたエンゲルブレクトの左手がアシェルナオの右の足首を掴み、右手は手元に置いていた短剣を掴む。

 「やめて、いや、足」

 懇願する矢先に血に染まった剣先が振り下ろされる。

 アシェルナオの足の裏を剣が貫く。血が飛び散る。

 刺された足の激痛より、もう踊れなくなる、という絶望がアシェルナオを襲った。

 アシェルナオに生まれ変わってからもダンスは好きだった。みんなの前で好きな人と踊るのも、レッスンも。楽しい時に体を動かすのも。だが、熱中するほど積極的かというと、そうではなかった。

 ダンスが好きだ、という自分の思いを主張したばかりに家族と別れてしまった。反対されたのを、反対する立場の人間を非難して、家族に辛い思いをさせてしまった。

 自分の思い上がりに気づくと後悔することばかりで、それがダンスへの思いに一線を引いていた。

 だけど、父親と喧嘩する原因になるくらい好きだった。

 足から流れる夥しい血を見て、生きる執着がストンと落ちた気がした。

 ドクン。

 アシェルナオの心臓が大きく脈打った。

 胸が締め付けられるように痛んだ。呼吸ができなかった。

 目の前が暗くなり、もう痛みも感じなかった。

 ヴァル……ごめんなさい……。

 それがアシェルナオの最期の思いになった。



  
 
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