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第5部
それ、ふよりんの体長より長くない?
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エンゲルブレクトの悪夢の凶行から数日が経っていた。
ケイレブはベルンハルドに命じられてすぐに、統括騎士団を率いてヘルクヴィスト領城へと踏み込んだが、エンゲルブレクトを見つけることはできなかった。
王立の騎士団や、各領城の領騎士たちにエンゲルブレクトの手配をかけているが、まだその行方はつかめていない。
「おはよう、ショトラ先生、ブローム先生」
テュコに抱きかかえられて階段を下りて来たアシェルナオは、ダイニングテーブルに座るショトラとブロームに声をかける。
「おはようございます、ナオ様。顔色はだいぶいいようですね」
アシェルナオのためにしばらくエルランデル公爵家に滞在することになったショトラは、顔色をチェックする。
「うん。くーがね、悪い夢を見ないようにしてくれてるから、ちゃんと眠れてるよ」
「それはいいことです。睡眠はとてもいい薬です」
「夜の精霊の加護のおかげで、魘されて目を覚ますことはないようです」
アシェルナオを椅子に座らせながらテュコが答える。
褒められたくーは、ぴかと手を繋ぎながら他の精霊たちと、ついでにふよりんともハイタッチした。
「ブローム先生は今日はお休み?」
「ええ、あとでピアノを弾きましょうか」
「気分転換に、テンポのいい心が軽くなるようなものが聴きたいです。エリーゼのために、とか。サティのジュ・トゥ・ヴもいいなぁ」
クラシックのピアノ曲を、アシェルナオは何曲か譜面に起こしてブロームに提供していた。
「エリーゼのために、は、私も好きな曲です。旋律が美しい。ジュ・トゥ・ヴは存じません。ナオ様のいい時に聴かせてもらえますか?」
「えーと、うーん、いいよ? ブローム先生も気に入ると思うんだ」
「アイナ、ナオ様の体重が少し減ってる。料理長と相談して献立を考えてもらえないか?」
「わかりました。最近は果物をよくお召し上がりですから、料理に取り込めないか相談します。ナオ様を抱っこしただけで体重がわかるなんて、さすがですね」
テュコたちは何気ない日常の会話を意識して繰り広げていた。
それはアシェルナオに、今は平穏な日常にいるんだということを感じさせるためだった。
本館とをつなぐ扉の呼び鈴が鳴り、ドリーンが取り継ぐ。
「ナオ様、オリヴェル様とパウラ様がお越しです」
言いながらドリーンが扉を開けると、椅子を押しながらオリヴェルが、その後ろからパウラが現れた。
「アシェルナオ、椅子を持ってきたよ」
「椅子ですか?」
アシェルナオは視線を椅子に向ける。
その椅子は、1人掛けのスタイリッシュなものだった。背もたれと、足先まで伸びた座面は柔らかくて耐久性のあるシルバーの高級生地で、肘掛けは艶やかな飴色の木製。そこにはエルランデル公爵家の紋章が刻まれていた。
そのフォルムは、いつか見た懐かしのアニメ、南アルプスの少女アイジに出て来る病弱な少女クラリスが乗っている車椅子にそっくりだった。
「もしかして、車椅子ですか?」
アシェルナオが『もしかして』と言ったのは、どこにも車輪がないからだ。
「そうだよ。病人や老人のために車椅子はもともとあるものだからね。少し『急ぎで』と依頼したら、もう出来たんだ」
『急ぎ』に応じてもらえるように代金にだいぶ上積みしたからなのだが、アシェルナオのためならそれくらいは安いものだった。
「でも、車輪がないですよ?」
「自動調整式の浮遊補助魔法付きだからね、椅子の足に車輪はついているが、ひっくり返さないとわからないくらい小さいものなんだ。車輪がなくても魔石で移動できるんだ」
「魔石で動くんですか? クラリスのそれが?」
「クラリス?」
学友に似た名前の子はいるが、クラリスは知らないオリヴェルは問い返す。
「クラリスは、前の世界のお話に出てくる人物です。よく寝込んでしまう、いいところのお嬢様で、車椅子に乗ってるんです。僕とは違います」
立てるのだからクラリスとは違うと主張するアシェルナオだが、よく寝込んでしまう、いいところの子息のアシェルナオとよく似た境遇のお嬢様だとオリヴェルたちは思った。
「歩けないからこれに乗らないといけない、じゃないんだよ。疲れたなぁ、座ろうか。あれ、座ったまま移動できる。こんな感じで使ってくれたらいいんだよ?」
我が子に喜んでほしくて発注したオリヴェルは、わくわくしながらアシェルナオの反応を見ている。
「あらあら、だんな様ったら。うふふ。アシェルナオにおもちゃを買ってあげた気分なのね」
パウラに言われてアシェルナオはオリヴェルを見る。ここは、ほしいほしくないではなく、子供として喜んでみせる場面だと察した。
「ありがとう、父様。乗り物として楽しそうなので、あとで遊んでみます」
「ひじ掛けのところに丸い玉が埋め込まれているんだ。それを行きたい方向に回せばいいんだよ。スピードをあげたいときは強く押すといい」
「はーい」
「次に来るときに、上手に乗っているアシェルナオを見せておくれ」
アシェルナオの頬にキスをして、オリヴェルは本館に戻って行った。
庭に続くテラスを臨む大窓の前の絨毯に座るアシェルナオの前には、ソファに座ってレースを編んでいるパウラがいた。
歩けないアシェルナオが退屈しないように、できるかぎり傍にいたいというパウラの思いがそこにあった。
「嫁ぐ我が子のためにレースを編むのが、母様の夢だったのよ。母様の母様も編んでくれたの。それは母様のウエディングヴェールを飾ったのよ」
「母様、早いですよ? 僕、まだ学園を卒業してないです」
「誰もがそう思うのよ。でも、実際はあっという間なの。早めに準備して悪いことはないわ」
「でも、歩けないうちは結婚式は挙げられないです。情けないです」
歩けない自分が情けなくて、アシェルナオは泣きそうな顔で俯く。
「情けなくてもいいんですよ。もっと心を甘やかしていいんです。歩けなくても楽しい。楽しいなら歩けなくてもいいんじゃないか、くらいの気持ちでいいんですよ」
近くのソファで本を読んでいるショトラが独り言のように呟く。
「でも、車椅子でヴァージンロードを歩くのは嫌です……」
アシェルナオの呟きに、精霊たちとふよりんが輪になってコソコソと話し合う。
やがて、
『ナオー』
精霊同士の話が決まったらしく、精霊たちが一斉にアシェルナオを見た。
「ん?」
アシェルナオは小首を傾げる。
『ふよりんー』
「キュー」
返事するふよりんを、精霊たちが寄ってたかってその毛をもじゃもじゃにする。
「なにしてるの?」
何事かと見つめるアシェルナオの目の前で、毛をもじゃもじゃにしていたみっちーが、ふよりんの中から一本の羽を引っ張り出した。
「え? 羽?」
鳥の羽のような、見事な一本の……
それ、ふよりんの体長より長くない? どこにおさまっていたの?
アシェルナオは疑問を口にせずに、モニョモニョした気持ちで眺めている。
精霊たちは羽を囲んで輪になって踊った。
わーわー。
きゃーきゃー。
キューッ。
「楽しそう……」
羨ましそうにアシェルナオが呟いた時、
ポン
羽が長い杖に変わった。ふよりんの体と同じホワイトシルバーを基調に、角度によって淡く虹色の光彩が浮かぶ、きらめく杖だった
『ナオー、杖だよー』
『かるいよー』
『聖獣の加護つきだよー』
『ぼくたちがつくったよー』
『つかってみてー』
「き、綺麗だね……。テュコ、立たせて」
アシェルナオも驚いたが、羽が突然杖になったのを目の当たりにしたパウラたちも目を瞠っていた。
傍にいたテュコがすぐに歩み寄ってアシェルナオを立たせる。
『これー』
ぐりがアシェルナオに杖を持ってふわふわと近づく。
「長いねぇ。キラキラしてる」
アシェルナオの身長ほどもある長い杖は、螺旋を描くようなねじりが入っていて、持ちやすかった。
いざ持ってみると、その軽さにアシェルナオは驚く。
「かるっ」
『ふよりんの羽いっぽんの重さだよー』
『でもかたいよー』
『つよいよー』
『加護つきだもんねー』
『歩いてみてー』
精霊たちに促されるままに、右手に杖、左手にテュコの手を取る。
床に杖の先が、軽く触れる。カッ、という乾いた音がした。もう一方の手は、しっかりテュコの手を握って、息を吸い、体を引き寄せるようにして左足を踏み出す。右足は動かない。床に触れただけで、胸の奥からざわりとした痛みが湧きあがる。だから、右足は地を擦らないように、浮かせるようにして左足だけで、進む。
コン、ケン……コン、ケン……
杖の先が床を叩く音と、左足での跳ねるような動き。
杖が体の負荷を吸収してくれているように、思ったよりも楽に歩くことができた。
「体重をかけているのに、杖を持つ手が痛くない。杖が引っ張ってくれてるみたい。すごく楽だよ。ありがとう、みんな」
『ナオが喜んでくれたら』
『ぼくたちはそれだけでいいよー』
アシェルナオを元気付けようと、精霊たちは『どういたしましての舞』を踊り続けた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
お仕事の話をいただいて、受けると言ったあとに今の職場の詳細が送られてきました。今度も団体職員なので、どこかの庁舎なんだろうなと思ったら前の職場と同じフロアでした。まったく関係のない職場なのですが、どんな腐れ縁……。
早速廊下で同僚と会いまして。以前私が1人でやっていた仕事を、今は3人でやっていて、それでも手が足りないので上司も加わってやっているそうです。今になってどれだけ大変なことをさせていたのかを身をもって知ったらしいです。それでも間に合わずに、納付日を2ケ月遅らせてしまってクレームが相次いでるらしいです。同僚が「クレームは全部上司に回しています。ことりさんが大変な思いをした分、もっと上司を責めてやりますよ(ニヤリ)」と言ってました。
世の中、システムを導入して人件費を削減する風潮もありますが。それでも必要書類が足りているかとか、書類に不備がないかとか、表に出ない数字を計算することとか、書類のやりとりとか、言葉でのやりとりとか。システムにもAIにもできないことはいくらでもあります。仕事量が多くても、効率よく仕事をすると、かなりの時短ができます。それが経験。経験なんて不要、誰でもできる仕事でしょ?とか言っていた元上司は、もっと責められればいいと思います(笑)
ケイレブはベルンハルドに命じられてすぐに、統括騎士団を率いてヘルクヴィスト領城へと踏み込んだが、エンゲルブレクトを見つけることはできなかった。
王立の騎士団や、各領城の領騎士たちにエンゲルブレクトの手配をかけているが、まだその行方はつかめていない。
「おはよう、ショトラ先生、ブローム先生」
テュコに抱きかかえられて階段を下りて来たアシェルナオは、ダイニングテーブルに座るショトラとブロームに声をかける。
「おはようございます、ナオ様。顔色はだいぶいいようですね」
アシェルナオのためにしばらくエルランデル公爵家に滞在することになったショトラは、顔色をチェックする。
「うん。くーがね、悪い夢を見ないようにしてくれてるから、ちゃんと眠れてるよ」
「それはいいことです。睡眠はとてもいい薬です」
「夜の精霊の加護のおかげで、魘されて目を覚ますことはないようです」
アシェルナオを椅子に座らせながらテュコが答える。
褒められたくーは、ぴかと手を繋ぎながら他の精霊たちと、ついでにふよりんともハイタッチした。
「ブローム先生は今日はお休み?」
「ええ、あとでピアノを弾きましょうか」
「気分転換に、テンポのいい心が軽くなるようなものが聴きたいです。エリーゼのために、とか。サティのジュ・トゥ・ヴもいいなぁ」
クラシックのピアノ曲を、アシェルナオは何曲か譜面に起こしてブロームに提供していた。
「エリーゼのために、は、私も好きな曲です。旋律が美しい。ジュ・トゥ・ヴは存じません。ナオ様のいい時に聴かせてもらえますか?」
「えーと、うーん、いいよ? ブローム先生も気に入ると思うんだ」
「アイナ、ナオ様の体重が少し減ってる。料理長と相談して献立を考えてもらえないか?」
「わかりました。最近は果物をよくお召し上がりですから、料理に取り込めないか相談します。ナオ様を抱っこしただけで体重がわかるなんて、さすがですね」
テュコたちは何気ない日常の会話を意識して繰り広げていた。
それはアシェルナオに、今は平穏な日常にいるんだということを感じさせるためだった。
本館とをつなぐ扉の呼び鈴が鳴り、ドリーンが取り継ぐ。
「ナオ様、オリヴェル様とパウラ様がお越しです」
言いながらドリーンが扉を開けると、椅子を押しながらオリヴェルが、その後ろからパウラが現れた。
「アシェルナオ、椅子を持ってきたよ」
「椅子ですか?」
アシェルナオは視線を椅子に向ける。
その椅子は、1人掛けのスタイリッシュなものだった。背もたれと、足先まで伸びた座面は柔らかくて耐久性のあるシルバーの高級生地で、肘掛けは艶やかな飴色の木製。そこにはエルランデル公爵家の紋章が刻まれていた。
そのフォルムは、いつか見た懐かしのアニメ、南アルプスの少女アイジに出て来る病弱な少女クラリスが乗っている車椅子にそっくりだった。
「もしかして、車椅子ですか?」
アシェルナオが『もしかして』と言ったのは、どこにも車輪がないからだ。
「そうだよ。病人や老人のために車椅子はもともとあるものだからね。少し『急ぎで』と依頼したら、もう出来たんだ」
『急ぎ』に応じてもらえるように代金にだいぶ上積みしたからなのだが、アシェルナオのためならそれくらいは安いものだった。
「でも、車輪がないですよ?」
「自動調整式の浮遊補助魔法付きだからね、椅子の足に車輪はついているが、ひっくり返さないとわからないくらい小さいものなんだ。車輪がなくても魔石で移動できるんだ」
「魔石で動くんですか? クラリスのそれが?」
「クラリス?」
学友に似た名前の子はいるが、クラリスは知らないオリヴェルは問い返す。
「クラリスは、前の世界のお話に出てくる人物です。よく寝込んでしまう、いいところのお嬢様で、車椅子に乗ってるんです。僕とは違います」
立てるのだからクラリスとは違うと主張するアシェルナオだが、よく寝込んでしまう、いいところの子息のアシェルナオとよく似た境遇のお嬢様だとオリヴェルたちは思った。
「歩けないからこれに乗らないといけない、じゃないんだよ。疲れたなぁ、座ろうか。あれ、座ったまま移動できる。こんな感じで使ってくれたらいいんだよ?」
我が子に喜んでほしくて発注したオリヴェルは、わくわくしながらアシェルナオの反応を見ている。
「あらあら、だんな様ったら。うふふ。アシェルナオにおもちゃを買ってあげた気分なのね」
パウラに言われてアシェルナオはオリヴェルを見る。ここは、ほしいほしくないではなく、子供として喜んでみせる場面だと察した。
「ありがとう、父様。乗り物として楽しそうなので、あとで遊んでみます」
「ひじ掛けのところに丸い玉が埋め込まれているんだ。それを行きたい方向に回せばいいんだよ。スピードをあげたいときは強く押すといい」
「はーい」
「次に来るときに、上手に乗っているアシェルナオを見せておくれ」
アシェルナオの頬にキスをして、オリヴェルは本館に戻って行った。
庭に続くテラスを臨む大窓の前の絨毯に座るアシェルナオの前には、ソファに座ってレースを編んでいるパウラがいた。
歩けないアシェルナオが退屈しないように、できるかぎり傍にいたいというパウラの思いがそこにあった。
「嫁ぐ我が子のためにレースを編むのが、母様の夢だったのよ。母様の母様も編んでくれたの。それは母様のウエディングヴェールを飾ったのよ」
「母様、早いですよ? 僕、まだ学園を卒業してないです」
「誰もがそう思うのよ。でも、実際はあっという間なの。早めに準備して悪いことはないわ」
「でも、歩けないうちは結婚式は挙げられないです。情けないです」
歩けない自分が情けなくて、アシェルナオは泣きそうな顔で俯く。
「情けなくてもいいんですよ。もっと心を甘やかしていいんです。歩けなくても楽しい。楽しいなら歩けなくてもいいんじゃないか、くらいの気持ちでいいんですよ」
近くのソファで本を読んでいるショトラが独り言のように呟く。
「でも、車椅子でヴァージンロードを歩くのは嫌です……」
アシェルナオの呟きに、精霊たちとふよりんが輪になってコソコソと話し合う。
やがて、
『ナオー』
精霊同士の話が決まったらしく、精霊たちが一斉にアシェルナオを見た。
「ん?」
アシェルナオは小首を傾げる。
『ふよりんー』
「キュー」
返事するふよりんを、精霊たちが寄ってたかってその毛をもじゃもじゃにする。
「なにしてるの?」
何事かと見つめるアシェルナオの目の前で、毛をもじゃもじゃにしていたみっちーが、ふよりんの中から一本の羽を引っ張り出した。
「え? 羽?」
鳥の羽のような、見事な一本の……
それ、ふよりんの体長より長くない? どこにおさまっていたの?
アシェルナオは疑問を口にせずに、モニョモニョした気持ちで眺めている。
精霊たちは羽を囲んで輪になって踊った。
わーわー。
きゃーきゃー。
キューッ。
「楽しそう……」
羨ましそうにアシェルナオが呟いた時、
ポン
羽が長い杖に変わった。ふよりんの体と同じホワイトシルバーを基調に、角度によって淡く虹色の光彩が浮かぶ、きらめく杖だった
『ナオー、杖だよー』
『かるいよー』
『聖獣の加護つきだよー』
『ぼくたちがつくったよー』
『つかってみてー』
「き、綺麗だね……。テュコ、立たせて」
アシェルナオも驚いたが、羽が突然杖になったのを目の当たりにしたパウラたちも目を瞠っていた。
傍にいたテュコがすぐに歩み寄ってアシェルナオを立たせる。
『これー』
ぐりがアシェルナオに杖を持ってふわふわと近づく。
「長いねぇ。キラキラしてる」
アシェルナオの身長ほどもある長い杖は、螺旋を描くようなねじりが入っていて、持ちやすかった。
いざ持ってみると、その軽さにアシェルナオは驚く。
「かるっ」
『ふよりんの羽いっぽんの重さだよー』
『でもかたいよー』
『つよいよー』
『加護つきだもんねー』
『歩いてみてー』
精霊たちに促されるままに、右手に杖、左手にテュコの手を取る。
床に杖の先が、軽く触れる。カッ、という乾いた音がした。もう一方の手は、しっかりテュコの手を握って、息を吸い、体を引き寄せるようにして左足を踏み出す。右足は動かない。床に触れただけで、胸の奥からざわりとした痛みが湧きあがる。だから、右足は地を擦らないように、浮かせるようにして左足だけで、進む。
コン、ケン……コン、ケン……
杖の先が床を叩く音と、左足での跳ねるような動き。
杖が体の負荷を吸収してくれているように、思ったよりも楽に歩くことができた。
「体重をかけているのに、杖を持つ手が痛くない。杖が引っ張ってくれてるみたい。すごく楽だよ。ありがとう、みんな」
『ナオが喜んでくれたら』
『ぼくたちはそれだけでいいよー』
アシェルナオを元気付けようと、精霊たちは『どういたしましての舞』を踊り続けた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
お仕事の話をいただいて、受けると言ったあとに今の職場の詳細が送られてきました。今度も団体職員なので、どこかの庁舎なんだろうなと思ったら前の職場と同じフロアでした。まったく関係のない職場なのですが、どんな腐れ縁……。
早速廊下で同僚と会いまして。以前私が1人でやっていた仕事を、今は3人でやっていて、それでも手が足りないので上司も加わってやっているそうです。今になってどれだけ大変なことをさせていたのかを身をもって知ったらしいです。それでも間に合わずに、納付日を2ケ月遅らせてしまってクレームが相次いでるらしいです。同僚が「クレームは全部上司に回しています。ことりさんが大変な思いをした分、もっと上司を責めてやりますよ(ニヤリ)」と言ってました。
世の中、システムを導入して人件費を削減する風潮もありますが。それでも必要書類が足りているかとか、書類に不備がないかとか、表に出ない数字を計算することとか、書類のやりとりとか、言葉でのやりとりとか。システムにもAIにもできないことはいくらでもあります。仕事量が多くても、効率よく仕事をすると、かなりの時短ができます。それが経験。経験なんて不要、誰でもできる仕事でしょ?とか言っていた元上司は、もっと責められればいいと思います(笑)
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