【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
53 / 105
魔法が使えたって

リーゼロッテの魔法 2

しおりを挟む
「ねぇ。貴女はまだ、魔法は使えないのかしら?」

「え? えぇ」

「一度、試してみてくれない? そうね。こんな場所だし、水の魔法がいいかしら」

 魔法を使おうとするところを誰かに見せるなんて、王城の魔法練習室で行っていたとき以来だ。
 ロイスナーに来てからは、魔法を使おうとすらしていない。

「できるわけ、ありませんよ」

 投げやりにそう言えば、リーゼロッテは手元へと意識を集中させる。
 イメージは先程目にしたヘルムートの水の魔法。空に放物線を描いて、小さな虹をきらめかせた水のシャワー。それを目指して、体内にあるはずの魔力を集めて、指先から放出させた。

「も、申し訳ありません」

 リーゼロッテの指先からは、水のシャワーが現れることはなく、わかりきっていたはずのその結果であっても、リーゼロッテの心を恐怖が襲う。
 王城で魔法に失敗する度に、バルタザールから受けた叱責。あの呆れ声が、怒鳴り声が、耳元で聞こえる気がする。
 その思い出したくもない記憶が、リーゼロッテの顔を青くさせた。
 
「奥様! 大丈夫ですか?」

 リーゼロッテの顔色を見るなり、ヘルムートがその体を支え、もう一度椅子へと座らせる。

「ご、こめんなさい。大丈夫」

 心配するヘルムートへ、何とか返事を返すが、心にまとわりつく苦い思いが拭えない。

「ねぇ。ちょっと、散歩しない?」

 レティシアの声に顔を上げれば、目の前には若草色の龍の姿が現れた。

「これ……は?」

「早く、背中に乗って。ベルンハルトにバレちゃう」

 レティシアの言葉に、城へと目を向ければ、ちょうどベルンハルトが玄関から出てくるのが見えた。
 髪を振り乱し、慌てて走るその姿は、普段のベルンハルトからは想像もつかない。
 このまま、レティシアの背中に乗ってしまえば、後々ベルンハルトに怒られてしまうだろうか。それでも、綺麗な若草色の背中は、リーゼロッテの好奇心をくすぐり、レティシアに誘われるまま飛び乗った。

「リーゼロッテ!」

 後少しでたどり着くところだったベルンハルトの口から、叫び声とも怒鳴り声とも取れる声が発せられる。
 その声はレティシアを止めることはなく、意味を為さずに空へと消えた。


「レティシア様。ベルンハルト様、怒ってらっしゃるでしょうか」

 リーゼロッテを背中に乗せたまま、レティシアは一直線にどこかへ向かっている。どこへ向かうのかはリーゼロッテにもわかってはいないが、リーゼロッテの知る中で最も強い龍族の長。他の者に襲われる心配はないだろう。
 このまま、レティシアによって命が危険にさらされようとも、それは自分のせいだと自覚もある。
 全てを、レティシアに任せることにした。
 
「まさかぁ。心配してるのよ」

 龍の姿をしたレティシアの言葉は、直接頭の中で響くように聞こえる。
 龍の口から発せられているわけではないのだろう。

「心配?」

「私が貴女をどこに連れて行くのかわからないし、何を吹き込まれるかもわからないしね」

「わたくしも、わかっておりませんが」

「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと帰りも送り届けてあげるから」

「それでしたら……」

「そんなに簡単に、私を信頼してもいいの?」

 レティシアの言葉に、息が止まる。
 やはり、リーゼロッテに仕返しを考えていたのかもしれない。

「か、構いません。何が起きても……」

「ふふ。やっぱり変わってるわ。それでも、そういう人って好きなのよねー」

 
 レティシアと話をしながらたどり着いたのは、森の中。それも上から見れば半月状に木々のない広場。その真ん中に降り立つ。
 リーゼロッテを背中から降ろすと、レティシアもその姿を人間に変え、リーゼロッテの横へと並び立った。

「ここは?」

「前回の討伐でね、銀大狼が大量に魔力石になった場所なの」

「そ、そうなのですね」

「ここで、もう一度魔法を使ってみない?」

「魔法は……先ほどもお見せしましたが」

「あれは、水の魔法でしょ? 私が言ってるのは土よ」

「土?」

 土の魔法とは何のことだろうか。
 これまで聞いたこともない属性に、リーゼロッテの顔が歪む。

「その髪の色で魔法が使えないなんて、やっぱりおかしいのよ。だからね、お祖母様に聞いてきたの」

 レティシアのお祖母様。レティシアですら既に百年以上生きているはず。果たして何歳なのだろうか。

「土属性の魔法は特殊でね。他のどの属性とも相性が悪いわ。だから、その魔法を使う者はたった一種類しか魔法が使えないの」

「それが、わたくし?」

「もしかしたらね。だから、ここで使ってみて欲しいのよ」

「どのような魔法なのでしょうか?」

「魔力石を、取り出す魔法」

「魔力石を?」

 リーゼロッテには、レティシアの言葉の意味がわかっていなかった。
 魔力石を取り出すとは、一体どういうことだろうか。

「魔力石は、魔獣の中から生まれるわ。それがすぐに土の中に埋まってしまうの。ロイスナーの城の中にあるものは、埋まる前に拾えたものよ。それを土の中から取り出すことができる魔法」

「土の中から……」

「そう。ベルンハルトの役に立ちたいって言っていたじゃない? これができれば、少しは役に立てるんじゃないかしら」

「お役に、立てますでしょうか」

 ベルンハルトからの思いにも、アルベルトやヘルムートの親切にも何も返すことのできない自分が不甲斐なかった。
 与えてもらうばかりで、何もできない自分が情けなくて、罪悪感ばかりが溜まる。
 自分の無価値を思い知らされる日々はもう、限界だった。

「まぁ、ベルンハルトがこんなことを望んでるとは思わないけど」

 魔力石を必要としていないベルンハルトの役には立たないだろう。
 既に高価な魔力石を日々消費しているのだから、ロイスナーにとっても必要のない魔法かもしれない。
 それでも、何もできないよりは良いはずだ。
 ほんの少しだけでも、自分に自信がもてるのであれば。
 リーゼロッテはその手に、力を入れた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...