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国のことは国王に任せておきましょう
結界 3
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「すいません」
「謝る必要はない。ただ、リーゼが聞いたことないということは、国立学院でも王族としても教えられていないということだ。もしかしたら秘匿にすべきものかもしれないということだけ、気にすればいい」
「はい」
「結界がなくなって降りそそぐ災厄は、黒龍だ」
「こく、りゅう?」
それは、レティシア達とは違うのだろうか? 龍と名がつくのならば、やはり龍族の一種なのか。
「あぁ。私もこの件についてはレティシアに聞かされたところだ。黒い龍の形をした魔獣が現れ、国中を破壊し尽くすと」
「そんな……」
「結界がなくならなければ、何も問題ない」
「そ、そうですよね」
ベルンハルトの話は、もしもの話で、国の結界がなくなるなんてこと、起こるわけがない。
ベルンハルトがわざわざこんな話を口にする理由はわからなくとも、起こりえない夢物語にいつまでも動揺してはいられない。
「リーゼは、領地の結界がどうやって維持されているのかを知ってるか?」
「ぞ、存じ上げません」
国の結界の次は、領地の結界の話。ベルンハルトの口から次々に紡ぎ出される話には、脈絡がない。それはまるで花びらを一枚ずつはぎ取っていくような、花の中心に向かって少しずつはがしていくようだと思う。
一番大切な部分まで一気に進んでいくのではなく、まどろっこしいぐらいゆっくりと口にしていく様子に、その内容の深刻さを感じる。
「これから話すことは、ロイスナーのことだ。ただ、もしかしたら他の領地でも、国全体でも同じことが行われているのかもしれない。しかし、それを確かめたことはないし、確かめることもできない」
「なぜですか?」
「私はこれを先代から受け継いだ。そして、次の当主に引き継ぐべきことであると」
ベルンハルトの勿体付けたような話し方に、本来はリーゼロッテが聞くべきことではないとわかる。当主になるのは、リーゼロッテではない。ベルンハルトが話をするべき相手はまだ見ぬ、次代の当主だ。
「だが、私はリーゼに打ち明けておくべきだと思う。討伐は年々過酷さを増していて、次は冬まで待てない可能性があると聞いた。私に何かあれば、次の当主にはリーゼから伝えて欲しい」
「そんなこと、仰らないでください」
「もちろん、そうならないよう努力する。私だって、リーゼを悲しませたいわけではない」
「聞きたく、ありません」
ベルンハルトの覚悟がどうであれ、聞いてしまったら、その時が近づいてしまうような気がした。
「そう言わないでくれ。もしこれが、王族の中でも行われているのならば、リーゼに無関係というわけにはいかないだろうから」
「王族? 領主が引き継いでいるようなことが、国王にも?」
「国王に関しては、推測でしかない。聞いて、くれるね?」
領主の妻としても、王女としても、聞いておかなければならないことだろう。いつまでも、嫌だと言っているわけにはいかない。リーゼロッテは目を伏せ、静かに頷いた。唯一、沈黙に自分の気持ちをのせた。
「領地の結界は、領主の魔力で保たれているんだ」
深く息を吸ったベルンハルトが、これまでよりも静かな声で、話始めた。それはまるで独り言のようでもあったし、リーゼロッテに伝わるように、言葉を選んでいたようでもある。
「私がリーゼに送ったものよりも少し大きな魔力石を、私は先代から引き継いだ。その魔力石を通して、領地の結界に魔力を送っている」
信じられない話であった。広大な領地の結界を、ベルンハルト独りで維持しているなど。
「この城の一室に、結界の為の魔力石が置かれている。領主の魔力をその魔力石が増幅させ、結界の維持ができている」
「それが、受け継いだお話ですか?」
「あぁ。他領地がどうしているのかはわからない。だが、魔力が強い故に領内での結婚を強いられている伯爵令嬢を見る限り、他領もそれほど違わぬのではないかと思う」
ベルンハルトの言う伯爵令嬢は、アマーリエのことだろう。魔力が領地の結界の維持に必要なのであれば、領内から出したくないというディースブルク伯爵の考えは当然のこと。
魔力の多い跡継ぎを誇りたいとか、そんなくだらない理由ではなかった。領地を守るため、抗えない事情だ。
「私が持ってる魔力石も、結界の為の魔力石もどこにあるのかは教えられない。だが、何かあれば必ずリーゼの手元に届くようにする。だから……」
「話はわたくしから、お伝えします」
「この魔力石だけは、他領地の手に渡るわけにはいかない。結界の為とはいえ、巨大な魔力石だ。悪用されれば、ロイスナーだけではなく国全体を揺るがしかねない」
「ベルンハルト様は、同じようなことが国全体で行われていると、お考えなんですね?」
領地の結界を維持する魔力石の様な存在が、国全体の結界にもあるということだ。
「あぁ。だがそれは国王にしかわからないだろう」
ベルンハルトの話を聞いて、思い出したのは父親であるバルタザール国王。魔力のないリーゼロッテを見下し、駄目だと役に立たないと言い続けてきた大嫌いな相手。
ロイスナーでは、思い出したくもない顔。
「それならば、国のことは国王が何とかするでしょう。わたくしたちが気にするべきことではありません」
バルタザールのことを考えたくなくて、ベルンハルトとの会話の中に必要ないと切り捨てたくて、リーゼロッテにしては珍しいぐらい強い口調で話す。
「リーゼが、国王を苦手にしていることは知ってる。だけど、もう少し話を進めてもいいだろうか?」
「わたくしが聞かなければならないお話だということですか?」
ここまでのベルンハルトの話に、リーゼロッテは無関係なはずだ。ロイスナーの結界と同じように、国王の魔力で国の結界が維持されているからといって、なんだというのだろうか。
バルタザールにだって、皇太子であるエーリックにだって十分な魔力があるはずだ。
魔力がないと思われていたリーゼロッテを見下せるぐらいの魔力が。
確かに王子はエーリック一人ではあるが、それならばエーリックの結婚を急げばいいだけのこと。
アマーリエに次々に婚約者をあてがうディースブルク伯爵の様に、魔力の強い相手を選び、結婚を命じればいい。
リーゼロッテにベルンハルトとの結婚を命じたときのように、一方的に決めてしまえばいいのだ。
(お兄様なら、逆らいなどしないでしょうし)
バルタザール以外のものを映していないようなエーリックのガラス玉のような瞳を思い出した。
「謝る必要はない。ただ、リーゼが聞いたことないということは、国立学院でも王族としても教えられていないということだ。もしかしたら秘匿にすべきものかもしれないということだけ、気にすればいい」
「はい」
「結界がなくなって降りそそぐ災厄は、黒龍だ」
「こく、りゅう?」
それは、レティシア達とは違うのだろうか? 龍と名がつくのならば、やはり龍族の一種なのか。
「あぁ。私もこの件についてはレティシアに聞かされたところだ。黒い龍の形をした魔獣が現れ、国中を破壊し尽くすと」
「そんな……」
「結界がなくならなければ、何も問題ない」
「そ、そうですよね」
ベルンハルトの話は、もしもの話で、国の結界がなくなるなんてこと、起こるわけがない。
ベルンハルトがわざわざこんな話を口にする理由はわからなくとも、起こりえない夢物語にいつまでも動揺してはいられない。
「リーゼは、領地の結界がどうやって維持されているのかを知ってるか?」
「ぞ、存じ上げません」
国の結界の次は、領地の結界の話。ベルンハルトの口から次々に紡ぎ出される話には、脈絡がない。それはまるで花びらを一枚ずつはぎ取っていくような、花の中心に向かって少しずつはがしていくようだと思う。
一番大切な部分まで一気に進んでいくのではなく、まどろっこしいぐらいゆっくりと口にしていく様子に、その内容の深刻さを感じる。
「これから話すことは、ロイスナーのことだ。ただ、もしかしたら他の領地でも、国全体でも同じことが行われているのかもしれない。しかし、それを確かめたことはないし、確かめることもできない」
「なぜですか?」
「私はこれを先代から受け継いだ。そして、次の当主に引き継ぐべきことであると」
ベルンハルトの勿体付けたような話し方に、本来はリーゼロッテが聞くべきことではないとわかる。当主になるのは、リーゼロッテではない。ベルンハルトが話をするべき相手はまだ見ぬ、次代の当主だ。
「だが、私はリーゼに打ち明けておくべきだと思う。討伐は年々過酷さを増していて、次は冬まで待てない可能性があると聞いた。私に何かあれば、次の当主にはリーゼから伝えて欲しい」
「そんなこと、仰らないでください」
「もちろん、そうならないよう努力する。私だって、リーゼを悲しませたいわけではない」
「聞きたく、ありません」
ベルンハルトの覚悟がどうであれ、聞いてしまったら、その時が近づいてしまうような気がした。
「そう言わないでくれ。もしこれが、王族の中でも行われているのならば、リーゼに無関係というわけにはいかないだろうから」
「王族? 領主が引き継いでいるようなことが、国王にも?」
「国王に関しては、推測でしかない。聞いて、くれるね?」
領主の妻としても、王女としても、聞いておかなければならないことだろう。いつまでも、嫌だと言っているわけにはいかない。リーゼロッテは目を伏せ、静かに頷いた。唯一、沈黙に自分の気持ちをのせた。
「領地の結界は、領主の魔力で保たれているんだ」
深く息を吸ったベルンハルトが、これまでよりも静かな声で、話始めた。それはまるで独り言のようでもあったし、リーゼロッテに伝わるように、言葉を選んでいたようでもある。
「私がリーゼに送ったものよりも少し大きな魔力石を、私は先代から引き継いだ。その魔力石を通して、領地の結界に魔力を送っている」
信じられない話であった。広大な領地の結界を、ベルンハルト独りで維持しているなど。
「この城の一室に、結界の為の魔力石が置かれている。領主の魔力をその魔力石が増幅させ、結界の維持ができている」
「それが、受け継いだお話ですか?」
「あぁ。他領地がどうしているのかはわからない。だが、魔力が強い故に領内での結婚を強いられている伯爵令嬢を見る限り、他領もそれほど違わぬのではないかと思う」
ベルンハルトの言う伯爵令嬢は、アマーリエのことだろう。魔力が領地の結界の維持に必要なのであれば、領内から出したくないというディースブルク伯爵の考えは当然のこと。
魔力の多い跡継ぎを誇りたいとか、そんなくだらない理由ではなかった。領地を守るため、抗えない事情だ。
「私が持ってる魔力石も、結界の為の魔力石もどこにあるのかは教えられない。だが、何かあれば必ずリーゼの手元に届くようにする。だから……」
「話はわたくしから、お伝えします」
「この魔力石だけは、他領地の手に渡るわけにはいかない。結界の為とはいえ、巨大な魔力石だ。悪用されれば、ロイスナーだけではなく国全体を揺るがしかねない」
「ベルンハルト様は、同じようなことが国全体で行われていると、お考えなんですね?」
領地の結界を維持する魔力石の様な存在が、国全体の結界にもあるということだ。
「あぁ。だがそれは国王にしかわからないだろう」
ベルンハルトの話を聞いて、思い出したのは父親であるバルタザール国王。魔力のないリーゼロッテを見下し、駄目だと役に立たないと言い続けてきた大嫌いな相手。
ロイスナーでは、思い出したくもない顔。
「それならば、国のことは国王が何とかするでしょう。わたくしたちが気にするべきことではありません」
バルタザールのことを考えたくなくて、ベルンハルトとの会話の中に必要ないと切り捨てたくて、リーゼロッテにしては珍しいぐらい強い口調で話す。
「リーゼが、国王を苦手にしていることは知ってる。だけど、もう少し話を進めてもいいだろうか?」
「わたくしが聞かなければならないお話だということですか?」
ここまでのベルンハルトの話に、リーゼロッテは無関係なはずだ。ロイスナーの結界と同じように、国王の魔力で国の結界が維持されているからといって、なんだというのだろうか。
バルタザールにだって、皇太子であるエーリックにだって十分な魔力があるはずだ。
魔力がないと思われていたリーゼロッテを見下せるぐらいの魔力が。
確かに王子はエーリック一人ではあるが、それならばエーリックの結婚を急げばいいだけのこと。
アマーリエに次々に婚約者をあてがうディースブルク伯爵の様に、魔力の強い相手を選び、結婚を命じればいい。
リーゼロッテにベルンハルトとの結婚を命じたときのように、一方的に決めてしまえばいいのだ。
(お兄様なら、逆らいなどしないでしょうし)
バルタザール以外のものを映していないようなエーリックのガラス玉のような瞳を思い出した。
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