【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
81 / 105
国のことは国王に任せておきましょう

結界 3

しおりを挟む
「すいません」

「謝る必要はない。ただ、リーゼが聞いたことないということは、国立学院でも王族としても教えられていないということだ。もしかしたら秘匿にすべきものかもしれないということだけ、気にすればいい」

「はい」

「結界がなくなって降りそそぐ災厄は、黒龍だ」

「こく、りゅう?」

 それは、レティシア達とは違うのだろうか? 龍と名がつくのならば、やはり龍族の一種なのか。

「あぁ。私もこの件についてはレティシアに聞かされたところだ。黒い龍の形をした魔獣が現れ、国中を破壊し尽くすと」

「そんな……」

「結界がなくならなければ、何も問題ない」

「そ、そうですよね」

 ベルンハルトの話は、もしもの話で、国の結界がなくなるなんてこと、起こるわけがない。
 ベルンハルトがわざわざこんな話を口にする理由はわからなくとも、起こりえない夢物語にいつまでも動揺してはいられない。

「リーゼは、領地の結界がどうやって維持されているのかを知ってるか?」

「ぞ、存じ上げません」

 国の結界の次は、領地の結界の話。ベルンハルトの口から次々に紡ぎ出される話には、脈絡がない。それはまるで花びらを一枚ずつはぎ取っていくような、花の中心に向かって少しずつはがしていくようだと思う。
 一番大切な部分まで一気に進んでいくのではなく、まどろっこしいぐらいゆっくりと口にしていく様子に、その内容の深刻さを感じる。

「これから話すことは、ロイスナーのことだ。ただ、もしかしたら他の領地でも、国全体でも同じことが行われているのかもしれない。しかし、それを確かめたことはないし、確かめることもできない」

「なぜですか?」

「私はこれを先代から受け継いだ。そして、次の当主に引き継ぐべきことであると」

 ベルンハルトの勿体付けたような話し方に、本来はリーゼロッテが聞くべきことではないとわかる。当主になるのは、リーゼロッテではない。ベルンハルトが話をするべき相手はまだ見ぬ、次代の当主だ。

「だが、私はリーゼに打ち明けておくべきだと思う。討伐は年々過酷さを増していて、次は冬まで待てない可能性があると聞いた。私に何かあれば、次の当主にはリーゼから伝えて欲しい」

「そんなこと、仰らないでください」

「もちろん、そうならないよう努力する。私だって、リーゼを悲しませたいわけではない」

「聞きたく、ありません」

 ベルンハルトの覚悟がどうであれ、聞いてしまったら、その時が近づいてしまうような気がした。

「そう言わないでくれ。もしこれが、王族の中でも行われているのならば、リーゼに無関係というわけにはいかないだろうから」

「王族? 領主が引き継いでいるようなことが、国王にも?」

「国王に関しては、推測でしかない。聞いて、くれるね?」

 領主の妻としても、王女としても、聞いておかなければならないことだろう。いつまでも、嫌だと言っているわけにはいかない。リーゼロッテは目を伏せ、静かに頷いた。唯一、沈黙に自分の気持ちをのせた。

「領地の結界は、領主の魔力で保たれているんだ」

 深く息を吸ったベルンハルトが、これまでよりも静かな声で、話始めた。それはまるで独り言のようでもあったし、リーゼロッテに伝わるように、言葉を選んでいたようでもある。

「私がリーゼに送ったものよりも少し大きな魔力石を、私は先代から引き継いだ。その魔力石を通して、領地の結界に魔力を送っている」

 信じられない話であった。広大な領地の結界を、ベルンハルト独りで維持しているなど。

「この城の一室に、結界の為の魔力石が置かれている。領主の魔力をその魔力石が増幅させ、結界の維持ができている」

「それが、受け継いだお話ですか?」

「あぁ。他領地がどうしているのかはわからない。だが、魔力が強い故に領内での結婚を強いられている伯爵令嬢を見る限り、他領もそれほど違わぬのではないかと思う」

 ベルンハルトの言う伯爵令嬢は、アマーリエのことだろう。魔力が領地の結界の維持に必要なのであれば、領内から出したくないというディースブルク伯爵の考えは当然のこと。
 魔力の多い跡継ぎを誇りたいとか、そんなくだらない理由ではなかった。領地を守るため、抗えない事情だ。

「私が持ってる魔力石も、結界の為の魔力石もどこにあるのかは教えられない。だが、何かあれば必ずリーゼの手元に届くようにする。だから……」

「話はわたくしから、お伝えします」

「この魔力石だけは、他領地の手に渡るわけにはいかない。結界の為とはいえ、巨大な魔力石だ。悪用されれば、ロイスナーだけではなく国全体を揺るがしかねない」

「ベルンハルト様は、同じようなことが国全体で行われていると、お考えなんですね?」

 領地の結界を維持する魔力石の様な存在が、国全体の結界にもあるということだ。

「あぁ。だがそれは国王にしかわからないだろう」

 ベルンハルトの話を聞いて、思い出したのは父親であるバルタザール国王。魔力のないリーゼロッテを見下し、駄目だと役に立たないと言い続けてきた大嫌いな相手。
 ロイスナーでは、思い出したくもない顔。

「それならば、国のことは国王が何とかするでしょう。わたくしたちが気にするべきことではありません」

 バルタザールのことを考えたくなくて、ベルンハルトとの会話の中に必要ないと切り捨てたくて、リーゼロッテにしては珍しいぐらい強い口調で話す。

「リーゼが、国王を苦手にしていることは知ってる。だけど、もう少し話を進めてもいいだろうか?」
 
「わたくしが聞かなければならないお話だということですか?」

 ここまでのベルンハルトの話に、リーゼロッテは無関係なはずだ。ロイスナーの結界と同じように、国王の魔力で国の結界が維持されているからといって、なんだというのだろうか。
 バルタザールにだって、皇太子であるエーリックにだって十分な魔力があるはずだ。
 魔力がないと思われていたリーゼロッテを見下せるぐらいの魔力が。
 
 確かに王子はエーリック一人ではあるが、それならばエーリックの結婚を急げばいいだけのこと。
 アマーリエに次々に婚約者をあてがうディースブルク伯爵の様に、魔力の強い相手を選び、結婚を命じればいい。
 リーゼロッテにベルンハルトとの結婚を命じたときのように、一方的に決めてしまえばいいのだ。

(お兄様なら、逆らいなどしないでしょうし)

 バルタザール以外のものを映していないようなエーリックのガラス玉のような瞳を思い出した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

断罪された大聖女は死に戻り地味に生きていきたい

花音月雫
ファンタジー
お幼頃に大聖女に憧れたアイラ。でも大聖女どころか聖女にもなれずその後の人生も全て上手くいかず気がつくと婚約者の王太子と幼馴染に断罪されていた!天使と交渉し時が戻ったアイラは家族と自分が幸せになる為地味に生きていこうと決心するが......。何故か周りがアイラをほっといてくれない⁉︎そして次から次へと事件に巻き込まれて......。地味に目立たなく生きて行きたいのにどんどん遠ざかる⁉︎執着系溺愛ストーリー。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...