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国のことは国王に任せておきましょう
結界 5
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「それで、もしかしたら国の結界が弱まっているのではないかと思っている」
強い魔獣を阻むために設けられている国の結界の力が弱まれば、次々に強い魔獣が押し寄せるだろう。その魔獣たちの討伐を冬まで待っていられないのかもしれない。
「それは……国王の魔力が弱まっているということですか?」
バルタザールは父親だ。それは紛れもない事実で、それなのに『国王』と、まるで他人の様に呼ぶしかない。正直、父親だなんて思いたくもなかった。
「魔力が弱まっていることはないと思う。もしそうであれば、エーリック皇太子に王位を譲っているはずだ」
バルタザールも満足するほどの魔法の使い手。魔力量も相当だろう。
「それでは? 一体どういうことですか?」
「魔力石が、問題なのではないだろうか」
結界を維持するために必要な魔力石。ベルンハルトの話では、ロイスナーの城にあるものも相当巨大なものだと聞いた。それでは、シュレンタット全体を覆うように結界を張り巡らせる魔力石というのは、一体どれほどのものなのか。
「魔力石が?」
「あぁ。日常的に見かける魔力石も、使い続ければ砕け散ってしまう。結界を張るための魔力石も違いはない。その大きさゆえに、替えるべきものだということを忘れてしまう。国境の外では既に魔獣の動きが活発になってきていて、レティシアはそれを伝えにきてくれたのだ」
レティシアが外から直接ベルンハルトの元を訪れたのは、そういう理由であった。それにもかかわらず嫉妬心にかられ、執務室まで押しかけてしまった自分の行動を恥じる。
「わ、わたくし、お邪魔でした」
「そんなことはない。ほら、レティシアも言っていただろう? そんなリーゼも可愛らしい」
うつむいたリーゼロッテを慰めるためか、それとも本気だろうか、ベルンハルトの言葉がリーゼロッテの耳をくすぐる。
「そ、それで、これからどうすれば?」
恥ずかしさから逃れるように、話の続きを促せば、ベルンハルトが息を呑む音が聞こえた。何を言われるかはわからない。だが、これまでのこと以上に言いづらいことなのかもしれない。
ベルンハルトが纏う緊張感が伝わってきた気がする。
「もし、魔力石に異常があるのならば、替えなければならない時なのだろうな」
「代わりがあるということですか?」
「思い当たる手段は、ただ一つ」
次の言葉に詰まったベルンハルトが、先ほどの様にそっとリーゼロッテの手を握った。リーゼロッテの小さな手は、ベルンハルトの手に包まれて、その姿を隠してしまう。
「リーゼの、土魔法だ」
ベルンハルトの言葉を耳にした瞬間、心臓が何かに握りしめられたように痛みが走る。
胸の痛みのせいなのか、呼吸が浅くなった。
浅くなった呼吸は、どれだけ繰り返しても肺に十分な空気を送り込むには足りなくて、徐々に息苦しさが増す。
息苦しさに耐えられなくなって、目元から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「リーゼっ」
こぼれ落ちた涙が、リーゼロッテの手を包み込んだままのベルンハルトの手を濡らしたその瞬間、包み込まれた両手は、体ごと一気にベルンハルトの胸元へと引き寄せられる。
「……っ。ベ、ベルンハルトさまっ」
引き寄せられた衝撃と、突然の行為に浅かった呼吸は動きを止め、その後大きく息を吐き出すことができた。
「泣くな。私はリーゼを悲しませたいわけじゃない」
「違っ」
「泣かせたくないのに、泣かせてばかりだ」
ベルンハルトの声が後悔で歪み、震えてリーゼロッテの耳に届く。
それを否定したくて、必死で首を振った。
「違います! 悲しんだのではなくて……驚いて、怖くて、苦しくなって……ベルンハルト様のせいではありません」
リーゼロッテがそう言うと、体を引き寄せたまま背中に回されていた腕に力がこもる。そしてそのまま、強く抱きしめられた。
「怖がらせてしまったとしても、それは私が責められるべき咎だ。申し訳ない。本当に魔力石に異常が発生しているのかは、国王に尋ねなければならないし、土魔法で対処しなければならないことなのか、これまではどうしていたのかはレティシアが調べてくれている。リーゼ一人が辛い思いをする必要はない」
「レティシア、が?」
シュレンタット国内のことを、王都よりはるか遠く、ロイスナーの先の国境の外に暮らすレティシアに調べる術があるというのは、どういうことだろうか。
「あぁ。龍族の長には、過去の知恵を得る方法があるそうだ。レティシアに任せておけば大丈夫。レティシアだって、リーゼを悲しませるようなことは、望んでないだろう」
リーゼロッテのことを愛称で呼び、友達になりたいと打ち明けてくれたレティシアの好意の深さに、思わず顔が綻ぶ。
ベルンハルトに抱きしめられながら、様々な思いが頭をよぎる。生まれ育った王城や、家族だったはずの人たちの顔を押し除けるようにレティシアの自信に満ち溢れた笑顔が思い出される。
いつでも穏やかな笑顔と共に、美味しいお茶を淹れてくれるヘルムートや、常にベルンハルトに付き従って、自分のこと以上にベルンハルトの事情を優先するアルベルト。
そして、仮面の下に隠されたベルンハルトの素顔がリーゼロッテの心の中を占める。
リーゼロッテのことをこれほどまでに考えてくれる人たちと一緒に、進んで行かなければ。
悩めば、立ち止まってしまえば、きっと彼らは手を差し伸べてくれる。振り返れば、横を見れば、こっちを見て微笑んでくれる。
レティシアもベルンハルトも、それぞれの仕事を全うするだろう。リーゼロッテだって、自分の役割を果たして、共に笑いたいと願う。
「わたくしは、何をすればよいのですか?」
「まずは、王城にあるはずの魔力石に変化がないかを、尋ねに行こうと思う」
ロイスナーへと移動してきてから二年。一度も帰ったことのない故郷。馬車に乗りながら、せいせいしたと、後ろ髪を引かれることもなく通過した王都。
リーゼロッテの顔が緊張で固くなる。上手く笑顔を作れずに、頬が引きつる。
「私が、常に側にいるから」
ベルンハルトの腕が、もう一度強くリーゼロッテを抱きしめた。
強い魔獣を阻むために設けられている国の結界の力が弱まれば、次々に強い魔獣が押し寄せるだろう。その魔獣たちの討伐を冬まで待っていられないのかもしれない。
「それは……国王の魔力が弱まっているということですか?」
バルタザールは父親だ。それは紛れもない事実で、それなのに『国王』と、まるで他人の様に呼ぶしかない。正直、父親だなんて思いたくもなかった。
「魔力が弱まっていることはないと思う。もしそうであれば、エーリック皇太子に王位を譲っているはずだ」
バルタザールも満足するほどの魔法の使い手。魔力量も相当だろう。
「それでは? 一体どういうことですか?」
「魔力石が、問題なのではないだろうか」
結界を維持するために必要な魔力石。ベルンハルトの話では、ロイスナーの城にあるものも相当巨大なものだと聞いた。それでは、シュレンタット全体を覆うように結界を張り巡らせる魔力石というのは、一体どれほどのものなのか。
「魔力石が?」
「あぁ。日常的に見かける魔力石も、使い続ければ砕け散ってしまう。結界を張るための魔力石も違いはない。その大きさゆえに、替えるべきものだということを忘れてしまう。国境の外では既に魔獣の動きが活発になってきていて、レティシアはそれを伝えにきてくれたのだ」
レティシアが外から直接ベルンハルトの元を訪れたのは、そういう理由であった。それにもかかわらず嫉妬心にかられ、執務室まで押しかけてしまった自分の行動を恥じる。
「わ、わたくし、お邪魔でした」
「そんなことはない。ほら、レティシアも言っていただろう? そんなリーゼも可愛らしい」
うつむいたリーゼロッテを慰めるためか、それとも本気だろうか、ベルンハルトの言葉がリーゼロッテの耳をくすぐる。
「そ、それで、これからどうすれば?」
恥ずかしさから逃れるように、話の続きを促せば、ベルンハルトが息を呑む音が聞こえた。何を言われるかはわからない。だが、これまでのこと以上に言いづらいことなのかもしれない。
ベルンハルトが纏う緊張感が伝わってきた気がする。
「もし、魔力石に異常があるのならば、替えなければならない時なのだろうな」
「代わりがあるということですか?」
「思い当たる手段は、ただ一つ」
次の言葉に詰まったベルンハルトが、先ほどの様にそっとリーゼロッテの手を握った。リーゼロッテの小さな手は、ベルンハルトの手に包まれて、その姿を隠してしまう。
「リーゼの、土魔法だ」
ベルンハルトの言葉を耳にした瞬間、心臓が何かに握りしめられたように痛みが走る。
胸の痛みのせいなのか、呼吸が浅くなった。
浅くなった呼吸は、どれだけ繰り返しても肺に十分な空気を送り込むには足りなくて、徐々に息苦しさが増す。
息苦しさに耐えられなくなって、目元から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「リーゼっ」
こぼれ落ちた涙が、リーゼロッテの手を包み込んだままのベルンハルトの手を濡らしたその瞬間、包み込まれた両手は、体ごと一気にベルンハルトの胸元へと引き寄せられる。
「……っ。ベ、ベルンハルトさまっ」
引き寄せられた衝撃と、突然の行為に浅かった呼吸は動きを止め、その後大きく息を吐き出すことができた。
「泣くな。私はリーゼを悲しませたいわけじゃない」
「違っ」
「泣かせたくないのに、泣かせてばかりだ」
ベルンハルトの声が後悔で歪み、震えてリーゼロッテの耳に届く。
それを否定したくて、必死で首を振った。
「違います! 悲しんだのではなくて……驚いて、怖くて、苦しくなって……ベルンハルト様のせいではありません」
リーゼロッテがそう言うと、体を引き寄せたまま背中に回されていた腕に力がこもる。そしてそのまま、強く抱きしめられた。
「怖がらせてしまったとしても、それは私が責められるべき咎だ。申し訳ない。本当に魔力石に異常が発生しているのかは、国王に尋ねなければならないし、土魔法で対処しなければならないことなのか、これまではどうしていたのかはレティシアが調べてくれている。リーゼ一人が辛い思いをする必要はない」
「レティシア、が?」
シュレンタット国内のことを、王都よりはるか遠く、ロイスナーの先の国境の外に暮らすレティシアに調べる術があるというのは、どういうことだろうか。
「あぁ。龍族の長には、過去の知恵を得る方法があるそうだ。レティシアに任せておけば大丈夫。レティシアだって、リーゼを悲しませるようなことは、望んでないだろう」
リーゼロッテのことを愛称で呼び、友達になりたいと打ち明けてくれたレティシアの好意の深さに、思わず顔が綻ぶ。
ベルンハルトに抱きしめられながら、様々な思いが頭をよぎる。生まれ育った王城や、家族だったはずの人たちの顔を押し除けるようにレティシアの自信に満ち溢れた笑顔が思い出される。
いつでも穏やかな笑顔と共に、美味しいお茶を淹れてくれるヘルムートや、常にベルンハルトに付き従って、自分のこと以上にベルンハルトの事情を優先するアルベルト。
そして、仮面の下に隠されたベルンハルトの素顔がリーゼロッテの心の中を占める。
リーゼロッテのことをこれほどまでに考えてくれる人たちと一緒に、進んで行かなければ。
悩めば、立ち止まってしまえば、きっと彼らは手を差し伸べてくれる。振り返れば、横を見れば、こっちを見て微笑んでくれる。
レティシアもベルンハルトも、それぞれの仕事を全うするだろう。リーゼロッテだって、自分の役割を果たして、共に笑いたいと願う。
「わたくしは、何をすればよいのですか?」
「まずは、王城にあるはずの魔力石に変化がないかを、尋ねに行こうと思う」
ロイスナーへと移動してきてから二年。一度も帰ったことのない故郷。馬車に乗りながら、せいせいしたと、後ろ髪を引かれることもなく通過した王都。
リーゼロッテの顔が緊張で固くなる。上手く笑顔を作れずに、頬が引きつる。
「私が、常に側にいるから」
ベルンハルトの腕が、もう一度強くリーゼロッテを抱きしめた。
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