【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
94 / 105
貴重なものをみすみす渡すわけ、ありませんよ

それぞれの思惑 1

しおりを挟む
(改めて見ても、大きな魔力石だ)

 膨大な魔力を放出したせいで足元がおぼつかないリーゼロッテを部屋へと送り届け、ベルンハルトはその足で中庭に運ばれてきていたはずの魔力石を確認していた。
 国のために自分の魔力を全て注ぎ込んでリーゼロッテが作り上げた魔力石。それが太陽の光を浴びて輝く。
 それは目を細めたくなるぐらい美しく、そして何よりも憎らしい。

 念願だったはずの魔力が、もう一度奪い取られる。それはベルンハルトが想像してもしきれないぐらいの苦しさだろうし、それを決断したリーゼロッテには、心底尊敬してしまう。
 そして、それと同時に無力な自分を呪いたくもなる。
 最強と呼び声高い銀色の髪。それを持つベルンハルトでさえ、土魔法なんて使うこともできず、魔力を込めすぎてふらつくリーゼロッテを、支えることしかできなかった。
 それが悔しくて歯を食いしばれば、奥歯が鈍く軋む。

「そんな真似をしては、歯が折れてしまいますよ」

「歯など、好きなだけ折れればいいだろう」

「おや、そんなことを仰っては奥様が悲しみます」

 いつの間にか側にいたヘルムートの言葉に、痛むぐらいに噛み締めていた奥歯から力を抜き、ついその場にしゃがみこんだ。

「リーゼを引き合いに出すとは、ずるくないか?」

「私は事実を申し上げただけです」

「ヘルムート。私は其方が嫌いだ」

「存じ上げておりますよ。私はベルンハルト様を甘やかしたりしませんから」

「だが、其方を頼りにしてるのも事実だ」

「はい。それも存じております」

 図々しく言ってのけるその姿を見ながら、ベルンハルトは大きくため息をついた。

「ヘルムート。私は上手くやれるだろうか」

「国王との交渉をベルンハルト様が上手くやろうなどと、考えるだけ無駄ですよ。相手は何人もの貴族たちと、それこそ他国ともごまんとやり合ってきたはずです。それを相手に上手くやれるはずがないでしょう」

「そ、それでは私はどうすれば」

 リーゼロッテが大きな覚悟をもって作り出した魔力石。それをみすみす渡してしまうのはもったいない。せめてリーゼロッテの地位を、社交場でのあの扱われ方を、何とかできやしないだろうか。

「下手なことを考えずに、思うようにやるのが一番ですよ」

「そういうものか?」

「そういうものです」

 しゃがみこんだベルンハルトが、ヘルムートの顔を下から覗き込めば、ヘルムートが自信有りげに頷いた。

「ほら、いつまで幼子のようにしゃがみこんでいるのですか。やるべきことはたくさんあるでしょう」

「お、幼子……」

「一人前の当主が、そのような場に座り込んで。執務室だけではなく奥様のお部屋からでも、中庭はご覧になれますよ」

「やはり……気づいておったか」

 しゃがみこんだままのベルンハルトは、恥ずかしさに下を向いてしまう。

「あれほど熱烈な視線を感じれば、誰だって気がつくでしょう」

「誰だって?」

「はい。奥様も気がついていらっしゃるかもしれませんね」

「まさか。そんなこと、一度だって」

「奥様は王族ですから。感情を隠すのはお上手でいらっしゃいます」

「そう……だよな」

「ベルンハルト様が気がついていないだけで、きっと多くのことに気づいて、気を配っておられるはずです」

 ベルンハルトが何に気がついていないか、それすらも見通したような顔を向けられれば、それはそれで苛立ちがこみ上げる。

「私はそこまで気がついてないというのか?」

 苛立ちを紛らわすように、勢いよく立ち上がれば、それを見たヘルムートは更に何かを見据えた顔を見せる。

「もちろん私ではわかりかねます。奥様に伺うのが一番かと」

 誤魔化したような言葉に、何かを隠しているのはわかるが、それが何かはわからない。

「もうよい」

 ヘルムートとのくだらないやり合いに時間をかけているわけにはいかない。魔力石を作り出した今、進むべき道はすでに明確で、戦うべき相手は目の前の男ではない。

「それでいいのです。正しく、前を向いてください」

 ベルンハルトがヘルムートから距離を取り、執務室へと戻ろうと一歩踏み出した。

「ベルンハルト様。次に王城にいく際は、私を御者としてお連れください」

「何だと?」

「ですから、御者にと申したのです」

「其方、そういうことは先に言ってくれ」

 背を向けた身体をもう一度ヘルムートの方に向け、ベルンハルトは呆れ混じりにそう告げる。

「心身ともにしゃがみ込んだままのベルンハルト様に何を申し上げても無意味かと思いまして。今が一番早いんですよ」

「もうよい。それで、御者というのはなぜだ? またアルベルトを連れて行くつもりだったのだが」

「アルベルトももちろん同行させて下さい。私は王都の門までたどり着いたら、そこで降ります。その後は魔力石を無事に王城へと届けます」

「王都までは龍達に運ばせる気か」

「はい。ここまで大きな魔力石、街道を運んでいくには時間がかかりすぎるでしょう。龍達が運んできたときは植物で編んだ縄のようなもので四方から吊り上げておりました。同じような形で、領地の結界の隙間を飛んで行くのが早いかと。そうすれば魔獣達のちょっかいも避けられます」

 そして門の前で龍から魔力石を受け取ったヘルムートが、王城まで運ぶ計画のようだ。

「王都の門に王家の荷馬車を用意してもらおう。さすれば王都の中は安全に運んでいける」

 王家の馬車に手を出す人間はいない。
 ヘルムートの計画は多分最善だろう。

(まだまだ、ヘルムートには敵わないな)

 自分の前に立ちはだかるあまりにも大きな壁に、打ちひしがれる。

「いかがされました?」

「いや。其方を超えられる日は来るのだろうかと、目の前が暗くなる思いだ」

「もちろん、超えられます。私なんぞ、超えていただかなければなりません。今はまだ、私の発言がお役に立つのかもしれませんが、そのような時間もすぐに過ぎ去ります。そのためにはぜひ、奥様と同じ行き先を見て、お二人の思うままに歩んでいってください」

「リーゼと?」

「はい。実に素直でお優しくて、誰にでも心を持って接することのできる方です。お二人ならば、領地をよりよくしていけるはずですよ」

「よりよくなど、私にできるのだろうか」

「大丈夫。奥様のことを悲しませないように、ご自身のことも労ってください。そうすれば、おのずと領地もよくなりますよ」

 リーゼロッテを悲しませないようにするには、あのぎりぎりの生活は止めねばならない。避けられない出来事ならばともかく、毎年のことであるならばさすがに対処を考えなければ。

「少々話すぎました。お忙しいところをお引止めしまして、申し訳ありません」

 ヘルムートが改めて姿勢を正した。長話はそろそろ終わりのようだ。

「其方を頼りにしてばかりではいられないな」

 いつの日か壁を越えていくためにも、自分で考え動かなければ。
 ヘルムートに言われずとも、しゃがみこんではいられない。
 立ち止まるときは、今ではない。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...