【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

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貴重なものをみすみす渡すわけ、ありませんよ

それぞれの思惑 3

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「失礼いたします!」

 沈黙が部屋中を覆ったままどれぐらい経っただろうか。それは数分のようでもあるし、数十分にも思える。
 人のことを待つ時間というのは、人間の時間感覚を狂わせるし、それが沈黙のなかであればなおさらだ。
 それを打ち破ったのはエーリックだ。

「エーリック! 来客中だ」

「わかっております。失礼を承知でうかがいました」

「エーリック様。何か、ありましたか?」

 家族としては幾らかの問題を抱えていたとしても、王族としては模範的とも言えるエーリックの珍しい行動に、ベルンハルトは何か特別な事情を感じ取った。
 リーゼロッテもその目を丸くしてエーリックを見つめている辺り、今回のことはエーリックの独断ということだろう。

「ロイエンタール伯爵。このような大切な場への非礼をお詫びします。ですが、私にも少々お時間をもらえないでしょうか?」

「私は構いませんが……」

 エーリックとの関係性はどうであれ、この場で非礼を詫びる相手はバルタザールだろう。その本人は息子の行動に面食らってしまったのか、エーリックを見つめたまま固まっていた。

「寛大な対応、ありがとうございます」

 エーリックがベルンハルトの言葉に、頭を下げれば、すぐに視線をバルタザールに向けた。

「父様。いえ、国王陛下。ここは、リーゼロッテにきちんと礼を尽くすべきです」

「なに? 其方、聞いていたのか」

「扉の外で聞いてしまっていたことは謝ります。後ほど、罰も受けましょう。ですが、その前に私の意見も聞いていただきたく思います」

 エーリックの言葉に、ベルンハルトの考える形を邪魔しに来たわけではないと、その意図を推し量る。

「まだ、話すことがあるというのか?」

「父様は常々、私に『国王は国のため、民のために動く者』と仰っておられます。私自身もそうあるべきだと思いますし、その言葉通りに行動なさる父様のことを尊敬しております。私たち家族への対応が厳しすぎると感じて、それを不満に思ったこともあります。それでも、その姿勢に誤りはないと思うからこそ、堪えてきたのです」

 自分の気持ちを語るにはあまりにも淡々とした様子に、これが本物だと、ベルンハルトは自らの様を猛省する。

「それが、今の態度は何でしょうか。国のため、民のためと仰るのならば、国王がするべきことはたった一つ」

 エーリックはバルタザールに向けていた体をリーゼロッテに向けると、深く頭を下げた。

「リーゼロッテ。其方が私たちに良い感情を持っていないのはわかっている。今更それを取り繕うことができるとは思っていない。それでも、今回は力を貸してほしい」

「お兄様。どうなさったのですか?」

「どう? 特に変なことはしていないと思うが」

「公爵の件といい、少し変わられました?」

「其方がここを出て二年だからな。私も成長しなければならない」

 頭を上げたエーリックの顔が憂いを帯びていたようにも見えるが、この二年に何があったのかを知る必要はないだろう。
 今回のことでリーゼロッテの立場が改善されれば、それでいい。
 エーリックのこの様子を見てもなお、動く様子のないバルタザールのことを横目で伺いながら、ベルンハルトは兄妹の会話に耳を傾けた。

「そうですね。わたくしも、まだまだです」

 エーリックと言葉を交わしている間のリーゼロッテは、常に柔らかい微笑みを浮かべていて、ベルンハルトにはその心の中を読み取ることはできない。
 だが、表面だけでも穏やかなやり取りは、ぴりついていた話し合いの場を和ませる。

「父様。ここまで言ってもまだ、その腰を上げようとはなさらないのですか?」

 エーリックの非難じみた言葉と共に、三人の視線がバルタザールへ向けられた。
 だが、またしてもそこで時は止まってしまったようだ。



「ちょ、ちょっとお待ちください! どのようなご用件でしょうか?」

「ですから、頼まれた魔力石を運んできたのです。そのように取り次いでいただきたい」

 再び沈黙を打ち破ったのも、話し合いの場に参加する人間以外の声。
 それも、片方はベルンハルトが聞き慣れた声だ。

「そんなばかな」

 その声を聞いた驚きが、ベルンハルトの口から声を生み出す。
 そして先程まで微笑みを浮かべていたリーゼロッテも、その声に身を固めていた。

「エーリック、外が騒がしい。見てきてくれないか?」

 不機嫌そうな顔で押し黙ったままであったバルタザールが、扉の外の騒動に更に不快な顔を作り、エーリックに指示を出す。

(あの扉を開けられては、まずい)

 エーリックがその場から扉に向かう間、どうすれば上手くやり過ごすことができるのか、ベルンハルトは必死で頭をひねった。
 ベルンハルトにとっては信じられない出来事だった。
 今、この城内で聞くはずのない声。ベルンハルトの考えも、全て伝わっているはずだった相手。絶大な信頼を寄せているはずの人物。
 これはその者による、大きな裏切り行為。

(何故……)

 何を間違えたのだろうか。自分の信じた道を、思うように歩いたつもりだった。
 魔力石の対価など、他には何もいらない。
 ただ、リーゼロッテのことを、救いたかっただけなのに。

 どれだけ頭をひねったところで、打つ手は思いつかない。
 エーリックが取っ手に手をかけ、その扉を開いた。

「ヘルムート。何、してるんだ」

 扉が開けられる前から、その人物の顔を見る前から、その場にいるのが誰かはわかりきっていた。
 辺境地の、それもただの庭師。
 その者によるこの騒動を、バルタザールは許しはしないだろう。
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