28 / 98
国を出て、新しい国へ
アイシュタルトの変化
しおりを挟む
「アイシュタルト!剣は今頼んだだろ?」
「あぁ。だが、ひと月かかると言われたではないか。」
「言われた。それで?」
「その間に使うものが欲しい。このひと月で私はステフに剣術を教える。」
今朝話していた内容をルーイにも伝え、剣が二本必要だということを理解してもらう。
「この街でひと月だもんな。金、かかるよなぁ。」
「他に比べ宿が高いのだろう?」
「移動すれば安くはなりますが、情報を集めるにはここがいいと思います。」
「ふむ。訓練を兼ねて、狩りに行く。それが一番効率が良さそうだ。」
「じゃあ、俺が情報収集するよ。そういうの、得意だからな。」
「頼んだ。」
「ぼ、僕は……」
「ステフはまずは剣を手に入れるんだ。」
「はい。」
三人で役目を決め終われば、まずは剣とナイフだ。武具屋でステフとルーイ、それぞれに見合ったものを手に入れ、すぐに食堂へと向かう。
「本当に戦争が始まるのか、一番気になるのはそこだよな。いくら国境に近いとはいえ、心配ないのなら、このまま旅を続けたいし。」
ルーイの意見には反対はしないが、私としてはコーゼの内情も気になるところである。クリュスエント様は、どのような状況なのだろうか。王族に命の危険はないのだろうか。
ただし、それを二人に打ち明けるのは……まだ抵抗がある。一国の姫にあのような感情を抱くなど、不敬罪ともとられかねない。
「アイシュタルト?どうしました?」
「いや、大丈夫だ。」
「顔色が悪い。少し、休んでろよ。俺とステフとで話聞いてくるから。」
「すまない。」
「いいよ。どうせアイシュタルトの言葉遣いじゃあ、まともに答えてくれねぇって。」
ルーイに気を遣わせてしまった。私の、個人的な問題であったのに。友人だと思っていても、やはり私は隠しごとばかりか。
しかし姫への気持ちを、軽々しく口にすることはできない。私と姫では立場も違う、叶うはずのない想い。しかも今はコーゼ国の次期王妃だ。ルーイやステフにとってみれば、敵国の者。
そのような方への想いを、二人にどう伝えるべきなのか。それに何を聞いたところで、今の私にはどうすることもできないではないか。
本当に戦争が始まれば、噂通りコーゼが攻め入ってくることがあれば、姫のことを聞けることも増えるだろうか。
それまでは、姫の心配は私の胸のうちだけで。姫への想いはまだ秘めたままで。それでも、二人は許してくれるだろうか。隠しごとの多い私を、信頼してくれるだろうか。
解決することない、自分では答えの出せない問いを、頭の中で繰り返す。
「顔色、余計に酷くなってるぞ。適当に食べて、宿に戻るか?」
「ルーイ。大丈夫だ。気にするな。」
「気にしないわけがないだろう!そんな顔色して、何が大丈夫だよ!大丈夫じゃないって見ればわかる。」
「顔色……」
「あぁ!ひでぇ色!今にも倒れそうだ。」
顔色など、そのような指摘を受けたのは、まだ騎士として見習いの頃以来だ。
隠せないほど酷い色なのか、それとも私は表情を隠すことができなくなっているのか。
怒りを腹に抑え、笑いを噛み殺し、喜びを受け流し、悲しみをこらえ、そうして城では生活してきた。その私の顔色が酷いというのか。
いつから、このようになってしまった。いつから、ルーイに隠せなくなってしまった。
隠せないことが、取り繕えないことが、良いのか悪いのかさえ、私には判断できない。
自分の足元がゆがんでいるような気がする。座っているはずなのに、どこかへ落ちていくような気がした。
「アイシュタルト!宿に戻るぞ!」
ルーイがそう言うと、私の体を支えて立たせた。酷く酔った時のように、足元がおぼつかない。ルーイに掴まっていないと、このまま倒れてしまいそうだった。
「あぁ。だが、ひと月かかると言われたではないか。」
「言われた。それで?」
「その間に使うものが欲しい。このひと月で私はステフに剣術を教える。」
今朝話していた内容をルーイにも伝え、剣が二本必要だということを理解してもらう。
「この街でひと月だもんな。金、かかるよなぁ。」
「他に比べ宿が高いのだろう?」
「移動すれば安くはなりますが、情報を集めるにはここがいいと思います。」
「ふむ。訓練を兼ねて、狩りに行く。それが一番効率が良さそうだ。」
「じゃあ、俺が情報収集するよ。そういうの、得意だからな。」
「頼んだ。」
「ぼ、僕は……」
「ステフはまずは剣を手に入れるんだ。」
「はい。」
三人で役目を決め終われば、まずは剣とナイフだ。武具屋でステフとルーイ、それぞれに見合ったものを手に入れ、すぐに食堂へと向かう。
「本当に戦争が始まるのか、一番気になるのはそこだよな。いくら国境に近いとはいえ、心配ないのなら、このまま旅を続けたいし。」
ルーイの意見には反対はしないが、私としてはコーゼの内情も気になるところである。クリュスエント様は、どのような状況なのだろうか。王族に命の危険はないのだろうか。
ただし、それを二人に打ち明けるのは……まだ抵抗がある。一国の姫にあのような感情を抱くなど、不敬罪ともとられかねない。
「アイシュタルト?どうしました?」
「いや、大丈夫だ。」
「顔色が悪い。少し、休んでろよ。俺とステフとで話聞いてくるから。」
「すまない。」
「いいよ。どうせアイシュタルトの言葉遣いじゃあ、まともに答えてくれねぇって。」
ルーイに気を遣わせてしまった。私の、個人的な問題であったのに。友人だと思っていても、やはり私は隠しごとばかりか。
しかし姫への気持ちを、軽々しく口にすることはできない。私と姫では立場も違う、叶うはずのない想い。しかも今はコーゼ国の次期王妃だ。ルーイやステフにとってみれば、敵国の者。
そのような方への想いを、二人にどう伝えるべきなのか。それに何を聞いたところで、今の私にはどうすることもできないではないか。
本当に戦争が始まれば、噂通りコーゼが攻め入ってくることがあれば、姫のことを聞けることも増えるだろうか。
それまでは、姫の心配は私の胸のうちだけで。姫への想いはまだ秘めたままで。それでも、二人は許してくれるだろうか。隠しごとの多い私を、信頼してくれるだろうか。
解決することない、自分では答えの出せない問いを、頭の中で繰り返す。
「顔色、余計に酷くなってるぞ。適当に食べて、宿に戻るか?」
「ルーイ。大丈夫だ。気にするな。」
「気にしないわけがないだろう!そんな顔色して、何が大丈夫だよ!大丈夫じゃないって見ればわかる。」
「顔色……」
「あぁ!ひでぇ色!今にも倒れそうだ。」
顔色など、そのような指摘を受けたのは、まだ騎士として見習いの頃以来だ。
隠せないほど酷い色なのか、それとも私は表情を隠すことができなくなっているのか。
怒りを腹に抑え、笑いを噛み殺し、喜びを受け流し、悲しみをこらえ、そうして城では生活してきた。その私の顔色が酷いというのか。
いつから、このようになってしまった。いつから、ルーイに隠せなくなってしまった。
隠せないことが、取り繕えないことが、良いのか悪いのかさえ、私には判断できない。
自分の足元がゆがんでいるような気がする。座っているはずなのに、どこかへ落ちていくような気がした。
「アイシュタルト!宿に戻るぞ!」
ルーイがそう言うと、私の体を支えて立たせた。酷く酔った時のように、足元がおぼつかない。ルーイに掴まっていないと、このまま倒れてしまいそうだった。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる