【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
77 / 98
別れと再会

城の門を出て

しおりを挟む
 姫を抱え込みながら、ゆっくりと城の門へと向かっていく。

 開かれたままの城門の近くに見えるのは、ジュビエールからの伝令を聞いて集められた兵士だろうか。

 城門の見張りにしては多いようにも思うが。

「クリュスエント様、もしかしたらご無礼な振る舞いをすることになるかもしれません。先に、おわび申し上げておきます。」

「わたくしならば、大丈夫です。何もかもお任せしてしまって、ごめんなさい。」

 私の胸に頭をもたれかけたまま、姫が答える。

 姫の許しを得て、私は姫の顔を隠すように、更に深くマントを羽織らせた。馬の上でマントに包まれている姫の顔を見ることができる者はおらぬはずだ。

 そう準備を整えて、城門へと近づいていった。


「其方!どこへ行く?」

 私に声をかけてきたのはこの辺りにいる兵の中で、最も位の高い者だろう。

「ジュビエールの命を受けて、この人をカミュートへ送り届けるところだ。内密な命だと話していたが、まさか誰も知らぬというのか?」

 ジュビエールのマントを持ち、その名前に敬称を付けない私のことを、どう誤解したかは知らないが、私の話を聞きながら、青ざめていく顔は何とも見ものであった。

「し、失礼しました!!」

 横柄な態度もすぐに改められる。

「では、このまま進んでいくぞ。」

「はい!どうぞ!」

 予想はしていたが、何の警戒もなく通してしまうとは。ジュビエールの名前のせいか、それともただの怠慢か。

 門から出た所には城で働いていた者たちが、大勢座らされていた。他の者たちに紛れて目に入ったのは、先程出会ったナージャと庭師だ。

 あの二人のおかげで、姫と再会できた。このまま無事に、解放されることを願わずにいられない。

 ただ、今だけはどうしても声をかけるわけにはいかない。このまま無事に、コーゼから出なくては。申し訳ない思いを抱えて、目を逸らし、その横を通り過ぎた。

 門をくぐり、しばらく行くと、マントの中から笑い声が聞こえる。

「いかがされました?」

「ふふ。いいえ。アイシュタルト、どこでそのように口が上手くなったのですか?」

「上手く?」

「えぇ。上手にかわしたと思いまして。」

「先程の門の話ですね。そういうことが上手な者たちと話す時間が長かったものですから。」

 私の頭の中には、ルーイやステフ、ロイドの顔が浮かぶ。人の懐に入り込み、時には嘘を操り、自分の思い通りにことを進めていく。

 そのようなことに長けた彼らと、知り合えたのは本当に幸運なことだ。

「そう。わたしが嫁いでからのことですね。」

「はい。」

「また、教えてくださいますか?」

「もちろんです。全てお話ししますよ。ただ、長くなります。それでもよろしいですか?」

「えぇ!楽しみです。」

 姫が嫁いでからの1年半は、私にとって初めてのことばかりであった。

 その話を聞きたいと仰った姫の顔は、まるで綺麗に咲いた花のようだ。

 この顔を曇らせることの無いような話が、私にできるだろうか。ルーイやステフの方が適任ではないだろうか。

「アイシュタルトのお話、楽しみにしておりますね。」

 私の心を見透かしたように、姫が私の話が楽しみだと仰った。

「私の話す話など、楽しくはないですよ。」

「ふふ。構いませんよ。」

 そんな話をしながら、たどり着いたのは都を出るための門である。

 先程まで楽しげに話をしていた姫の体が、硬くなるのを感じた。城門とは違い、こちらにはコーゼの兵も、それを見張るカミュートの兵も大勢集まっている。姫が緊張されるのも無理はない。

「クリュスエント様。大丈夫です。私にお任せください。」

 姫に向かってそう告げたものの、先程のような真似がどこまで通用するだろうか。

 喉が張り付くような違和感を、唾を飲み込むことで散らし、グッと奥歯に力を入れた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...