【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
96 / 98
別れと再会

いつでも、あなたの側に

しおりを挟む
「えぇ。わたくしと。お嫌かしら?」
 
「そんなわけ!ありません。」

 姫のことを嫌がるなど、あり得ない。だが、それでは王に更に心配をかけるだけだ。
 
「それなら、いいじゃない。それとも誰か他に心に決めた人がいらっしゃって?」
 
「そんな人おりません。私の心は今でも……」

 心に決めた人など、たった一人しかいない。その方が今、私の目の前で信じられぬ言葉を口にしている。
 
「今でも?」
 
「クリュスエント様にお誓いしたままです。貴方が嫁いだあの日、送らせていただいた花の、花言葉のままです。」
 
 『いつでも、貴女の側に』私の想いは姫が嫁いでいったあの日から変わらない。

 どれだけ離れても、変えることができなかった。

「わたくしもよ。アイシュタルトにお見舞いに送った花の花言葉と一緒。」

 私たちが贈りあった花は同じものだ。今、一面に咲き誇っている小さな花。
 
「一緒になど、そのようなこと王が認めませんよ。」

 姫が嫁いでいく前に、立場をわきまえるようにと、直々に申しつけられている。

 そんな私が一緒に暮らすなど、無理な話だ。

「認めさせるわ。一人で暮らすより、アイシュタルトと一緒の方がきっと父様も安心するもの。」

 一人より、は安心なさるかもしれないが、王はきっと別の心配をされるだろう。
 
「はぁ。それでは仕方ありませんね。王へもきちんとご報告して下さい。」

 私は相変わらず姫のわがままには弱い。以前のように、押し切られる。
 
「ずっと手紙を送っていたわ。」
 
「居場所がわからなかったではありませんか。一方的なお手紙では、余計にご心配をおかけします。」

 どこにいるかがわからず、私を呼び戻すことになったのだ。
 
「……」
 
「クリュスエント様がご報告されないのであれば、私が城へ戻り、ご報告差し上げて参ります。それでよろしいですね?」
 
「だめ!それはだめなの!そんなことしたら、アイシュタルトはこちらへ戻ってこないもの。そしてわたくしも城へ連れ帰られるわ。」

 姫が必死で私を止めようとする。そうまでして、城に戻りたくないのか。

「そうなるでしょうね。」
 
「そんなことさせない。せっかくアイシュタルトと一緒にいることを認めさせることができるのだもの。こんな機会、逃したりしないわ。」
 
「ク、クリュスエント様?」

 何を仰っている?城を出ることではなく、私と一緒にいることだと?
 
「城へ戻ったら、またアイシュタルトはただの騎士で、わたくしは姫で。そんな風に離されてしまうわ。そんなこと、もうさせない。」

 ただの騎士と姫。私たちの間の関係はそれだけだ。

 ルーイが何と言おうとも、それ以上の関係になど、なれるはずもない。良い関係になることなど、気持ちを伝えることなど、できるはずがない。

「何を、仰って……」
 
「わたくしに今後変わらぬ忠誠を誓ってくれたわよね?国境門で一生変わらないと言ったわよね?」
 
「は、はい。」
 
「それならば、ここでずっとわたくしのことを護って。わたくしのことを護ると誓って頂戴。」

 姫の緑色の瞳が、私のことを真っ直ぐ見据える。

 冗談ではないということか。
 
 姫のことをずっと護ることができるとは、なんと幸せな誓いだろうか。

「ここで、ずっと?」
 
「えぇ。一生。」
 
「一生、お護り致します。」

 私は姫の前で跪き、深く深く頭を下げた。
 
 姫に、私の一生を捧げよう。

 心よりの忠誠を誓おう。

 その真っ直ぐなお心が、私を見る微笑みが曇ることのないよう、護り抜いてみせる。

 私達の周りに咲き乱れる花の数だけ、姫に伝えたい。

 いつでも、貴女の側に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...