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これからのこと 1
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「はる。もう十分仙力も操れるようになってきたね」
いつものように外で仙力をコントロールする練習をしていれば、上空から降り注ぐ王子声。
「櫂さん! おはようございます」
私が桃を食べてから、また櫂は毎日顔を出してくれるようになった。仙人島でのことが忙しいのか、短時間で帰ってしまうこともあるけど、それでも毎日来てくれるのは嬉しい。
他に誰もいない島に独りきりは、さすがに寂しいからね。
「さすが桃の効果、とでも言っておこうかな。はるは本当に強くなった」
「櫂さんのおかげです。お忙しいのに、毎日様子を見に来てくれて」
櫂が仙人島で何をしてるのかはわからない。知りたくもないし、知る必要もない。私のことを仙帝に言うのも言わないのも、櫂に任せた。櫂が私のせいで居心地が悪い思いをしてなければ良いなって、それだけを祈ってる。
「どうしてもあっちでやらなければならないことも多くて、長い時間付き合ってあげられなくて申し訳ない」
「もう子どもじゃないんです。独りでも大丈夫ですよ」
そう言って自信満々に胸を張った。もう子どもじゃない。少し前まで五歳児の様だった体はもうない。仙力を扱うにつれて成長した体は、桃を食べることで更に成長できた。
ちょうど、私が日本にいた頃と同じぐらいなんだと思う。
「仙力が大きくなって、体もそれにつられたみたいだね。確かに、もう立派な女性だ」
「でしょう? ですから、櫂さんも無理しないで下さいね」
天馬で仙人島とこっちを往復するだけで、力を使ってしまうだろうし。
「そんな大人の女性のはると、今日はこれからの話をしようか」
「これから?」
「あぁ。仙帝を倒すって目標は、まだ変わってない?」
あれから、どれだけ考えてもその理由だけが思い出せなかった。
霧がかったみたいにぼやける記憶を掘り出そうとすればするほど、襲いかかる頭痛。
それに耐えられなくて、思い出そうとするのをやめちゃった。
「変わってないですよ。相変わらず、理由は思い出せませんが」
「そうか。思い出せないのだとすれば、わざわざやる必要はないと思うけど」
あれだけ私の側にいてくれた櫂が、その理由を知らないはずがない。
わかってて、教えてくれないんだよね。
それが私のため? それとも、仙帝のため?
櫂の立場では仕方ない決断も、本当は少し恨めしく思う。
「ふふっ。私もそう思います。でも、それをわかってて、私自身が桃を食べるって決心したんです。それなら、その決心を守ります。もしかしたら、忘れちゃった誰かのために仙帝を倒そうって思ったのかもしれません。記憶と引き換えにしてでも、そうするのが最善って思ったのなら、その誰かのためにも私のためにも全力を尽くします」
「はるの決意は固い……か。そしたら、はるのその思いを手助けできる奴をつれてきたから、呼んでもいいかい?」
「手助けですか?」
「あぁ。僕はまだ前に立つわけにいかないからね。彼ははると同じくらい仙帝に思うところがあるはずだ。きっと役に立つ」
「もちろんです。どなたですか?」
「この前も会った、尚のことさ」
「尚さん。たしか櫂さんのお友だちでしたよね。手伝ってもらえるならありがたいです」
「呼んでおいたから、もうすぐ来ると思うけど。まさか、ここまできて来ないなんてわけ、ないよなぁ」
櫂の王子声にどす黒さが混ざり込んで、背筋に冷たいものが走る。
仙帝と対峙する前に、私の心臓がつぶれそう。
「私を呼びつけるとは、正気か? どうなるかもわかっていないのに」
平然とした声で呼びつけられた不満を呟きながらどこかからバランスボールが飛んでくる。
今の会話、聞こえてたの?
「尚さん。先日は失礼しました。桃を食べたせいかぼやっとしてることが多くて」
「いや。そんなことを気にするほどの度量ではないつもりだ。だから、気にしなくて良い」
尚の声は抑揚がなくて、ちょっと冷たい感じもするけど、その言葉は優しくて。心がほんのり温かくなる。
「僕はいつだって正気だ。心配される筋合いはないね」
「だが……」
「これまでの経験上、これぐらいの接触は大した問題にはならないよ。良くも悪くもね」
「しかし……」
「そもそも君は気にしすぎだ。たまには自分の心に素直に動いたらどうだい?」
二人の会話の奥にあるものが何かは私にはわからない。二人しか通じることのない会話を繰り広げていく様子に、二人の仲の良さが感じられて、そんな相手がいることが羨ましい。
「お二人とも、話が長くなる様なら、中に入って下さい」
いつまでも立ち話をさせておくわけにもいかないし、これからの話をするなら、きちんと腰を下ろした方が良いだろう。
私の目の前に櫂と尚が並んで座る。その光景に湧き上がる既視感。
初めてじゃ、ない?
「改めて話をするね。尚ならはるのことを手助けできると思うんだ。尚は僕よりも強いし、きっと力になってくれる」
「尚さんも、仙帝を倒したいと思ってるんですか?」
「私は、このままでも構わないと思ってる。仙帝を倒すなんて、危険極まりない」
やっぱり。普通の人はそう考えるよね。
「そう、ですよね」
「だが、其方がやると言うのであれば、協力する」
私が? 何で?
「驚くのも無理はない。しかし、私には其方に力を貸す理由がある」
「理由……ですか?」
「其方に返しきれない恩がある」
私の動揺は隠すこともできない。櫂よりも強いっていう仙人様に感じてもらえてる恩?
「それって、どんなものですか?」
「其方は忘れているかもしれない。それぐらい些細なことなのかもな。だが、私にとってはこの身を削ってでも返さねばならぬ」
「えっと……」
尚の言葉の重みに、どう応えて良いかわからない。
私、一体なにしたの?
「尚の言い方は少し大袈裟だから、そんなに重く受け止める必要はないよ」
「それなら、良かったです」
櫂のフォローにほっと胸を撫で下ろした。
勝手に恩を感じていられても、正直居心地が悪い。
「僕の代わりぐらいに思っておけばいいよ」
櫂が王子オーラを振り撒く隣で、尚が眉間に深いシワを刻んだ。
櫂の代わりって。それはそれでやりづらい。
本当に倒せるかどうかなんて保証もないのに。
いつものように外で仙力をコントロールする練習をしていれば、上空から降り注ぐ王子声。
「櫂さん! おはようございます」
私が桃を食べてから、また櫂は毎日顔を出してくれるようになった。仙人島でのことが忙しいのか、短時間で帰ってしまうこともあるけど、それでも毎日来てくれるのは嬉しい。
他に誰もいない島に独りきりは、さすがに寂しいからね。
「さすが桃の効果、とでも言っておこうかな。はるは本当に強くなった」
「櫂さんのおかげです。お忙しいのに、毎日様子を見に来てくれて」
櫂が仙人島で何をしてるのかはわからない。知りたくもないし、知る必要もない。私のことを仙帝に言うのも言わないのも、櫂に任せた。櫂が私のせいで居心地が悪い思いをしてなければ良いなって、それだけを祈ってる。
「どうしてもあっちでやらなければならないことも多くて、長い時間付き合ってあげられなくて申し訳ない」
「もう子どもじゃないんです。独りでも大丈夫ですよ」
そう言って自信満々に胸を張った。もう子どもじゃない。少し前まで五歳児の様だった体はもうない。仙力を扱うにつれて成長した体は、桃を食べることで更に成長できた。
ちょうど、私が日本にいた頃と同じぐらいなんだと思う。
「仙力が大きくなって、体もそれにつられたみたいだね。確かに、もう立派な女性だ」
「でしょう? ですから、櫂さんも無理しないで下さいね」
天馬で仙人島とこっちを往復するだけで、力を使ってしまうだろうし。
「そんな大人の女性のはると、今日はこれからの話をしようか」
「これから?」
「あぁ。仙帝を倒すって目標は、まだ変わってない?」
あれから、どれだけ考えてもその理由だけが思い出せなかった。
霧がかったみたいにぼやける記憶を掘り出そうとすればするほど、襲いかかる頭痛。
それに耐えられなくて、思い出そうとするのをやめちゃった。
「変わってないですよ。相変わらず、理由は思い出せませんが」
「そうか。思い出せないのだとすれば、わざわざやる必要はないと思うけど」
あれだけ私の側にいてくれた櫂が、その理由を知らないはずがない。
わかってて、教えてくれないんだよね。
それが私のため? それとも、仙帝のため?
櫂の立場では仕方ない決断も、本当は少し恨めしく思う。
「ふふっ。私もそう思います。でも、それをわかってて、私自身が桃を食べるって決心したんです。それなら、その決心を守ります。もしかしたら、忘れちゃった誰かのために仙帝を倒そうって思ったのかもしれません。記憶と引き換えにしてでも、そうするのが最善って思ったのなら、その誰かのためにも私のためにも全力を尽くします」
「はるの決意は固い……か。そしたら、はるのその思いを手助けできる奴をつれてきたから、呼んでもいいかい?」
「手助けですか?」
「あぁ。僕はまだ前に立つわけにいかないからね。彼ははると同じくらい仙帝に思うところがあるはずだ。きっと役に立つ」
「もちろんです。どなたですか?」
「この前も会った、尚のことさ」
「尚さん。たしか櫂さんのお友だちでしたよね。手伝ってもらえるならありがたいです」
「呼んでおいたから、もうすぐ来ると思うけど。まさか、ここまできて来ないなんてわけ、ないよなぁ」
櫂の王子声にどす黒さが混ざり込んで、背筋に冷たいものが走る。
仙帝と対峙する前に、私の心臓がつぶれそう。
「私を呼びつけるとは、正気か? どうなるかもわかっていないのに」
平然とした声で呼びつけられた不満を呟きながらどこかからバランスボールが飛んでくる。
今の会話、聞こえてたの?
「尚さん。先日は失礼しました。桃を食べたせいかぼやっとしてることが多くて」
「いや。そんなことを気にするほどの度量ではないつもりだ。だから、気にしなくて良い」
尚の声は抑揚がなくて、ちょっと冷たい感じもするけど、その言葉は優しくて。心がほんのり温かくなる。
「僕はいつだって正気だ。心配される筋合いはないね」
「だが……」
「これまでの経験上、これぐらいの接触は大した問題にはならないよ。良くも悪くもね」
「しかし……」
「そもそも君は気にしすぎだ。たまには自分の心に素直に動いたらどうだい?」
二人の会話の奥にあるものが何かは私にはわからない。二人しか通じることのない会話を繰り広げていく様子に、二人の仲の良さが感じられて、そんな相手がいることが羨ましい。
「お二人とも、話が長くなる様なら、中に入って下さい」
いつまでも立ち話をさせておくわけにもいかないし、これからの話をするなら、きちんと腰を下ろした方が良いだろう。
私の目の前に櫂と尚が並んで座る。その光景に湧き上がる既視感。
初めてじゃ、ない?
「改めて話をするね。尚ならはるのことを手助けできると思うんだ。尚は僕よりも強いし、きっと力になってくれる」
「尚さんも、仙帝を倒したいと思ってるんですか?」
「私は、このままでも構わないと思ってる。仙帝を倒すなんて、危険極まりない」
やっぱり。普通の人はそう考えるよね。
「そう、ですよね」
「だが、其方がやると言うのであれば、協力する」
私が? 何で?
「驚くのも無理はない。しかし、私には其方に力を貸す理由がある」
「理由……ですか?」
「其方に返しきれない恩がある」
私の動揺は隠すこともできない。櫂よりも強いっていう仙人様に感じてもらえてる恩?
「それって、どんなものですか?」
「其方は忘れているかもしれない。それぐらい些細なことなのかもな。だが、私にとってはこの身を削ってでも返さねばならぬ」
「えっと……」
尚の言葉の重みに、どう応えて良いかわからない。
私、一体なにしたの?
「尚の言い方は少し大袈裟だから、そんなに重く受け止める必要はないよ」
「それなら、良かったです」
櫂のフォローにほっと胸を撫で下ろした。
勝手に恩を感じていられても、正直居心地が悪い。
「僕の代わりぐらいに思っておけばいいよ」
櫂が王子オーラを振り撒く隣で、尚が眉間に深いシワを刻んだ。
櫂の代わりって。それはそれでやりづらい。
本当に倒せるかどうかなんて保証もないのに。
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