バレンタインに両思いになったのに

光城 朱純

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初デートの準備

『花火大会、明、浴衣着てきてくれない?明の浴衣姿、見たい』

 涼からの誘いのメッセージはそう続いていた。浴衣?! そんなの着て出かけたことなんて、ないよ。

『涼も、浴衣着るの?』

『いいよ。着ていく』

 あっさり承諾した涼とは逆に、僕の頭はパニック寸前だ。だって、浴衣なんて、小さい時の写真でしか着てる自分を見たことないんだから。

「母さん、僕の浴衣って、ある?」

 慌てて母さんに話をする。僕にはあるかどうかさえわからない。

「浴衣? って、お祭りとか行くの?」

「うん。今度花火大会に行こうって話になってて、浴衣着ようって」

「へぇ。誰と?」

「と、友だち!」

「男の子の?」

「そうだよ!」
 
 母さんのニヤけ顔の意味はわかる。付き合ってる子じゃないかってことだ。もちろん、女の子の。

 一緒に行くのは男の子には違いない。だけど、友だちじゃない。僕らの関係は……誰にも言えない。

「いつ行くの?」

「8月の最初の日曜日」

「それなら、買いに行こうか。今の明なら、もうそんなに成長しないでしょ。最近はセットで売ってたりするし」

「い、いいの?!」

「たまにはね。気分転換しなさい」

 母さんが笑顔でそう言ってくれる。まだ何かを誤解してるみたいだ。

 母さんと一緒に選んでもらったのはモスグリーンのシンプルな浴衣。

「着方、教えて?」

 浴衣が準備できたら、次は着方だ。

「着せてあげるわよ?」

「いい。覚えるから」

 僕が意地になったのは涼のせいだ。あんなに気軽に了承したってことは、涼は着慣れてる。慣れてないとしても、多分着られる。

 涼にこれ以上差をつけられないように、こんなことさえできなくて、涼と釣り合ってないと思わずに済むように。僕がしてることは見当違いなのかもしれない。それでも、涼に対する劣等感を重ねたくなかった。

『花火大会、楽しみだ。初デートだな』

 涼が送ってきてくれたそんなメッセージに、胸が締め付けられるかと思った。嬉しくて、楽しみで、ドキドキしすぎて苦しい。

 初デート……そんなふうに思ってくれるなんて。その響きにめまいがした。余計に失敗できない。

 何度も何度も自分で着られる様に練習して、ボサボサの髪の毛をどうしようか悩んで、遅刻しないように電車の時刻を調べて。

 涼から誘われるまで、あんなに毎日パソコンにかじりついていたのに、今はもうそれどころじゃない。

 花火大会の日は確実に迫ってくる。用意にかけられる時間は限られているのに、毎日毎日カレンダーを確認する度に、待ち遠しさに心臓が弾む。

 あぁ。今度こそ、風邪をひかないように気をつけないと。
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