英雄の軌跡

オウル

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自警団と学芸員

旅人(2)

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「よぉ!クルツ!」

 突然後ろから大声で呼び止まられて、青年は足を止めた。
 振り帰ると、青年と同じ出で立ち、皮の鎧に大きな革袋、腰には長剣をぶら下げた赤毛の青年が立っていた。

「バッツ」

 バッツ青年はクルツよりも僅かに背が高く、癖のある赤毛を短く刈り込んでいる。ルーズな性格らしく、よれよれになったシャツが、皮の鎧の端からはみ出しているのも気にならないらしい。

「クルツは相変わらず早いな」

「バッツがこんなに早く来るなんて珍しいじゃないか。いつもは集合時間ギリギリだ」

「お袋がうるさいんだよ。上級自警団になったんだから、時間に遅れるのは下の者に示しがつかないって」

「そいつはお袋さんが正しいよ」

 二人並んで他愛のない会話を続けていると、視界が開けて大きな広場に出た。
 少し離れた場所には井戸があり、主婦やお手伝いをしている子供たちが並んでいるのが見える。
 ここは村の中心に位置する広場で、村の大事な決め事をする際に皆が集まる場所だ。

 しかし、今、クルツとバッツの視界に見えているのは、二人と同じ格好をした三人の中年男性と二人の少年だった。

「おぉ、二人とも来たか。お前たちが最後だぞ」

 がっしりとした体格の髭を生やした中年男性が二人に気づいた。大きな腕を振ると、早く来いと手招きする。

「おはようございます。ガッデ団長。みなさん早いですね。予定時間まで、まだだいぶありますよ」

 クルツが小走りに駆け寄ってくると、髭面のガッデ団長はニヤニヤしながら顎をくいっと動かした。
 その先には入念に手荷物のチェックをしている少年二人の姿があった。

「チビどもが五月蠅くてな。早朝訓練も兼ねて、かれこれ三時間前には来ていた」

「三時間前!?そんな時間、まだ爆睡してたぜ」

 バッツが信じられないといった風に両手を上げる。

「お前がこんなに早く来れたことは想定外だったけどな」

「何たって上級っすからね。これが昇級した俺の実力っすよ」

「お袋さんの実力だろ」

 抗議の目を向けてくる友人を無視して、ガッデ団長の言う少年達の方を見る。
 彼らは袋の中身をお互いに確認し合うと、薬草やら毒消し草やらを出し入れしていた。
 服装はクルツたちと同じ皮の鎧であったが、腰には長剣の代わりに小ぶりな銅製の剣を備えている。

「彼らは今日が初めての実習ですか」

「そうだ。初めてにしては難易度が高いが、上級が五人もいれば大丈夫だろう」

 そう言うとガッデ団長は団員たちを呼び集めた。
 中年団員が素早い動作で、少年達が慌てて団長のもとに集まる。

「予定より早いが、全員揃ったので本日からの任務内容の確認を行う」

 クルツの横に走ってきた少年がこちらを見やって、軽く頭を下げたのでクルツも笑顔を返した。

「東の森にワイルドベアが出たと報告があった。みんなも知っての通り、森まではさほど遠くない上に、村の者も狩りや食料の採取に行くことが珍しくない。まだ具体的な被害報告は無いが、あってからじゃ遅い」

「ワイルドベアなんて、森で出会ったら終わりだろ」

 バッツの軽口に隣の少年が身を震わせた。

「だから、そうなる前に俺たちで駆除しようってこった」

 中年団員の一人が言った。手にした荷物には大振りのハンドアックスが括り付けらており、表情には余裕が見えた。体中にある傷が経験の多さを証明している。

「そういうことだ。だが、相手が相手だしな。この村の自警団だけじゃ心もとないってことで、隣村の彼らに応援を頼んだんだ」

 ガッデ団長が中年団員の二人を紹介する。クルツとバッツは中年団員と握手を交わすと今回の任務の成功を祈り合った。
 自警団組織は近隣の村や町で連携をとっている。その場所の自警団単体で解決困難な事案が発生した場合、近くの自警団組織に応援を頼むことは珍しいことじゃない。
 クルツやバッツも隣村の要請で応援に行くことは多い。もっとも、下積み時代は応援という名の雑用が多かったのだが。

「それと、ワイルドベアの討伐なんていうのはそうあることじゃないから、今回はこの村の未来を担う若者二人にも参加してもらうことにした」

 今度は少年達が前に出て中年団員たちと握手を交わした。緊張する少年達に対して、中年団員は立場に相応しい大らかさで肩を叩いていた。

「貴重な経験っていっても危険すぎはしませんか?」

 クルツが当然の疑問を投げかける。

「ここにいる七人の内、三人がワイルドベアの討伐経験者だ。特に彼はひとりでワイルドベアを倒したこともあるそうだ」

 ハンドアックスの中年団員が厚い胸板を叩いている。片手の指を三本立てているのは、それだけの数のワイルドベアを倒したという意思表示だろう。
 つまり、ガッデ団長と中年団員二人がワイルドベアの討伐経験者であるということだ。

「クルツもバッツも森にはワイルドウルフ狩りによく行っているし、足手まといにはならないだろう。お前たちにはワイルドベア討伐の具体的な内容を学んでもらうと共に、少年達の面倒を見てもらいたい」

「俺たちは保護者かよ」

 バッツが毒づく。

「不満なら荷物持ちと食事当番を追加してやる」

「誠心誠意、坊ちゃん達のお世話をさせていただきます!」

 ガッデ団長とバッツのやり取りを見て、少年達も緊張が解けたようだ。もっとも、バッツが狙ってやったとは思えないが。

「ワイルドベアの出没地点はある程度絞り込めているが、それでも2、3日は森の中で寝泊まりすることになるだろう。不足しているものがあるようなら今の内に買いに行け。予定時刻になり次第出発する!」

 団員からの質問が無い事を確認すると、ガッデ団長は解散の号令をかけた。
 急いで村の商店に向かって走り出す少年二人の背中を見送ると、大人たちはこれからの日程の詳細について話し合いを始めたのだった。
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