熱帯植物街

関谷俊博

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む
ぼくと糸ちんは、木の枝や木の葉を拾い集めると、サイバーライターで火をつけた。木の枝に刺した雷神肺魚を、火にあぶると、うまそうな匂いがあたりに漂い、魚の油が炎にしたたり落ちた。
やがて、ぼくといとちんは、丸焼けになった雷神肺魚を、まわしかぶりした。雷神肺魚はうまかった。ウナギをもっと上品にした味だ。
サイバネティクス社は芸が細かい。視覚や聴覚はもちろん、味覚や嗅覚まで、サイバースペース上で再現してくれている。

翌朝、教室に入ると、
「かっちゃん!」
いとちんが深刻そうな顔で、ぼくに駆け寄ってきた。授業が始まるまで、あと少し時間がある。
「こんな噂を聞いたんだ」
いとちんは、ぼくの耳元でささやいた。
「なんだい? 噂って」
ぼくも思わず小声になった。
「〈熱帯植物街〉の奥には、森の王がいるんだって」
「森の王?」
初耳だ。
「うん。登校途中に四組の矢萩から聞いたんだ。矢萩、レベル24まで行ってるんだってさ」
「レベル24か! すごいなあ!」
相当な時間プレイしなければ、そこまではいけないはずだ。
「その矢萩が別のパーティの一人から聞いたんだって。〈熱帯植物街〉の奥には、森の王がいる」
「森の王。何だろう、それは」
「わからないんだ。だけどレベルの高い子たちの間じゃ、けっこう有名な噂なんだって」
ぼくといとちんは考えこんだ。森の王。なぜか胸がドキドキした。正体はわからないけれど、ぼくらも早くレベルアップして、森の王に会ってみたい。
そのとき始業のチャイムが鳴って、担任の羽柴先生が教室に入ってきた。女の子を一人連れている。恥ずかしそうに女の子はうつむいていた。
「今日は皆さんに転校生を紹介します。今日から皆さんの新しい仲間です」
教壇に立つと、羽柴先生は言った。女の子が顔をあげた。
「初めまして。松川みどりです」
女の子は緊張しているらしく、硬い声で一気に言った。
ぼくといとちんは、顔を見合わせて、同時に叫んだ。
「フローラ!」
クラスの生徒が何事かと、ぼくといとちんを見た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...