熱帯植物街

関谷俊博

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翌朝、ぼくが登校すると、ある噂が学校中を駆けめぐっていた。教室にはいくつもの人の輪ができている。
「聞いたか。あの話」
「ああ、聞いた。二組の北島がいなくなったんだってな」
「あとにはサイバーゴーグルだけが、落ちていたんだって」
「こえーっ!」
ひそひそ話は、波紋を描いて、人から人へと伝わっていった。
「いま話題になってるよね。小中学生連続失踪事件」
昼休み、いとちんがぼくに、そう声をかけてきた。
「うん。ニュースでみたよ。この学校でも、とうとう出たんだね」
「いったいどこに消えたんだろうね、北島くん」
「謎だなあ」
ぼくといとちんは、長いこと顔を見合わせて、考えをめぐらせていた。

学校から戻ると、ぼくは夕食を済ませ、適当に宿題も終わらせた。いとちんとの約束の八時までは、まだ時間がある。
〈熱帯植物街〉にログインするまでの間、ぼくはサイバーゴーグルでインターネットテレビをみることにした。サイバーゴーグルをテレビモードに切り替えると、視界いっぱいにテレビ画面が映しだされる。テレビが放送していたのはニュースだった。
「では次のトピック。小中学生連続失踪事件のニュースです。失踪者は、とうとう百名を超えました。失踪した小中学生は、いずれもサイバネティクス社のサイバースペースゲーム〈熱帯植物街〉に熱中していたことがわかっており、警視庁は一連の事件との関連を調べています」
そういえば、いなくなった北島も〈熱帯植物街〉に相当ハマっていたっけ。本当にいなくなったヤツらは、どこに消えてしまったんだろう?
そんなことを考えているうちに、約束の八時がきた。サイバーゴーグルのモードを切り替えて、ぼくは〈熱帯植物街〉にログインした。

いとちんは、もう〈熱帯植物街〉の川岸でぼくを待っていた。強い陽射しを反射させて、目がくらむほど川は光っている。
しばらく待ってみたが、フローラは姿を現さなかった。フローラは本当に気まぐれなのだ。ぼくといとちんは、今日は二人で前に進むことにして、川を渡り始めた。
「あっ!」
川の中ほどまで来たとき、ぼくは両足に強い痺れを感じた。ほぼ同時に、いとちんも叫んでいた。
「おい!」
いとちんがぼくに声をかけた。ぼくは急いで防御シールドを張った。
ぬめっとした光沢をした魚が、ときおり体の一部を水面にあらわしながら、うねるように川を泳いでいる。雷神肺魚とかいうヤツだ。こいつは、強い電気を出して、相手を痺れさせる。
いとちんは、剣をふりあげると、勢い良く雷神肺魚に突き立てた。雷神肺魚は、ひと突きで、ぐったりとおとなしくなった。
「やったな! いとちん!」
「かっちゃん。知ってるかい?」
いとちんは、にやりと笑った。
「雷神肺魚は、焼いて食べるとうまいらしいぜ」

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