ウェントス

関谷俊博

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俺達はロサンゼルスからニューヨークへと向かう航空機の中にいた。E&Mがチャーターした小型旅客機だ。
はしゃいでいる俺達の傍で、白井だけは腕をギターに見立てて、フィンガリングの練習に余念がない。やっぱりとんでもないギター小僧だ、こいつは。
「し~ら~い~」
酔った倉田が白井にヘッドロックを決めた。
「やめろよ、倉田」
白井は言ったが、怒っている風でもない。
「いいコード進行が浮かんだんだ」
白井は紙ナプキンに、コードを書き連ね始めた。
「へえ」 
倉田が真顔に戻った。
「面白いコード進行だな」
「白井さんは根っからのソング・ライターなんですねえ」
杉浦も感心しているが、楽器の弾けない俺には何のことやらわからない。
ジョクラトルがE&Mと契約を交わし渡米してから二年。俺達はロサンゼルスを拠点に活動していた。
全米ツアーもこれで三度目。その間にリリースした二枚のアルバムはどちらも全米・全英チャートでトップテン入りを果たしていた。五枚出したシングルのうち二枚は全米、全英でナンバー・ワン・ヒット。他の三枚もトップテンにチャートインしていた。順風満帆どころではなかった。英語を母国語としないアーティストとして、俺達は史上最も成功したバンドだった。ライブは回を重ねるごとに大規模なものとなり、ジョクラトルはスタジアム・ロック・バンドとしての地位を確立していた。
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