夏の破片

関谷俊博

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僕の麻里さんとの記憶は、下校途中の夏空に盛りあがった入道雲であり、ヒグラシの声であり、浴衣姿で二人して見て歩いた夏祭りの屋台だった。プールのカルキの匂いであり、ソーダ水の泡であり、夕立ちが来る前の微かな雨の気配だった。
思えばその夏、僕は殆ど毎日のように麻里さんと過ごしていたのだ。アドレッセンスにしか存在し得ない憧憬、心の震え、胸の高鳴り、その全てを麻里さんは併せ持っていた。 僕にとって麻里さんは特別な存在だった。どんなことがあっても、僕は麻里さんと離れるべきではなかったのだ。今にして思えばだけれど。だが当然のことながら時は巻き戻せない。
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