夏の破片

関谷俊博

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夏も終りに近く、太陽は翳りを見せ始め、秋風すら吹き始めていた。僕は街のメインストリートを歩いていた。それでも日曜日とあって、そこはかなりの賑わいをみせていた。
そして祭りでもあるかのような雑踏のなか、僕は見つけてしまった。麻里さんが背の高い男と手をつないで歩いているのを。
留学していた彼氏だな、と僕は直感した。ロンドンから日本に戻ってきたのだ。そのとき僕が感じた感情といえば、驚愕と深い絶望だった。いつかこのような場面に遭遇することを、僕は予測していた気がする。
その後、僕がした行動といえば、麻里さんに気づかれないように踵を返し、急いで家に逃げ帰ることだった。見てはいけないものを見てしまったのだ。僕はそう思った。部屋に戻ると、心を焦がすような感情が込みあげてきた。嫉妬…そして、敗北感…。
首のペンダントを川に投げ捨て、僕は二度と麻里さんに電話をしなかった。文芸部もすぐに辞めた。麻里さんから何度も自宅に電話がかかってきたが「忙しいと言ってくれ」と母親に伝え、僕は電話に出ることはなかった。

大学の哲学科に進学してから僕は何人かの女の子とつきあったが、どれも長続きしなかった。社会人になってからも、それは同じだった。僕は何人もの女の子と寝たが、いつも相手に麻里さんの面影を探していた。相手もそのことにそれとなく気づいて、やがて僕から離れていった。考えてみれば冷酷な話だった。僕は相手を愛してなどいなかった。「何て冷たい眼をするの」と、行為の最中に言われたこともある。僕は平気で相手の心を踏みにじれる存在だった。そのうち僕は自分の酷薄さに嫌気がさして、彼女をつくらなくなった。
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