夏の破片

関谷俊博

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池袋の興信所で、僕は由里さんを前にこれまでの経過を報告していた。
「そうですか…姉がそんな団体の教祖になっていただなんて…」 
信じられないというように、由里さんは顔を歪めた。
「黙示録の子羊は自己啓発セミナーを開催しています。まずはそのセミナーに参加し、身分を隠して潜入する積りではいますが…」
僕はそこで口を噤み、やや間を置いた。
「慎重に進めようと思います。興信所の人間だとわかれば、私が麻里さんに会うことすら叶わないでしょうから」
「はい…」
由里さんは頭をさげた。
「宜しくお願いします」
経過報告を終えて立ちあがろうとした時、由理さんが僕を引き止めた。
「あ、あの…ひとつお訊ねしてもいいでしょうか…」
由里さんの顔は真剣だった。
「夏樹さんはどうして姉と別れてしまわれたのですか」
不意をつかれた僕は、軽い衝撃を覚えた。麻里さんとのあの夏の記憶が蘇ってきた。
「それは…」
僕は口籠った。
「麻里さんには他につきあっている人がいたのです」
「えっ」
「きちんとした彼がいたから、わたしも諦めたのです」
由里さんは暫く沈黙し、僕の顔をじっと見つめた。
「それは何かの間違いだと思います。姉は夏樹さんとしか付き合っていません…姉はあなたに夢中でした…」
「そんなことは…私は麻里さんがその彼と手を繋いで歩いているのを見たのです」
「いいえ、やはり間違いです。私達は隠しごとのない姉妹でした。もしそんな方がいたのなら、姉は必ず私に打ち明けた筈です」
「どうしても口に出せなかったのでしょう」
由里さんは首を振って僕の言葉を打ち消した。
「姉は戻ってくると必ず夏樹さんの話をしました。姉が他の人の話をするのを聴いたことがありません。それにそんな人がいたのなら必ず気配でわかります」
「亡くなったご主人が、その恋人ではないのですか」
「そんなことはありません」
由里さんは強い表情で、きっぱりと言い切った。
「亡くなったご主人と姉はお見合いで結婚したのです」

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