17 / 34
15
しおりを挟む
「黙示録の子羊」の本部は新橋にあった。外観はどこにでもある教会施設である。入信費の二十万は既に支払ってあった。約束の時間の五分前、僕は教会の扉を開けた。
「夏樹様ですね。お待ちしておりました」
白い修行服を身につけた若い女性が、僕に深々と頭を下げた。端正な顔立はしているが、まるでマネキンのように無表情だった。髪を後ろで束ね、前髪は真っ直ぐに切り揃えられている。
「解脱への道に踏み出されたことは、誠に喜ばしいことです。心よりお祝い申し上げます。一定期間修行すれば出家の道もあります」
言葉とは裏腹にそこには何の感情もこもっていなかった。
「これから入信のイニシエーションが始まりますが、夏樹様にはその前にしていただきたいことがあります」
「していただきたいこと?」
「はい」
女性は部屋の隅にある木製の棚から大皿を取り出すと、恭しく両手で運んできた。
「こちらをお召しあがりください」
茶色く干からびたキノコが、そこには盛られていた。軸の捩れたひょろっとしたキノコだ。
それがマジックマッシュルームであることは容易に推測できた。マジックマッシュルームは幻覚成分であるシロシビン及びシロシンを含有するキノコの総称である。基本的には摂取すると多幸感を感じ、閉眼時にも色彩の変化や模様等、視覚的な認識を知覚する。症状としては他に知覚の鋭敏化、聴覚の歪み等が挙げられるが、感情的作用がネガティヴな方向へ向かうと(所謂バッドトリップ)パニック症状を引き起こすこともある。
勧められるがままに、僕はかなりの量のマジックマッシュルームを口にした。
「もう暫くお待ちください」
そう言うと女性は、僕の前の長椅子に腰を下ろした。マジックマッシュルームが効いてくるのを待つつもりなのだろう。マジックマッシュルームは摂取しても、すぐには効果を表さない。幻聴や幻覚が始まるのは一時間も経過してからである。
お陰で僕は「黙示録の子羊」の表玄関とも言えるその部屋を存分に観察することができた。
部屋のあちらこちらに蛇を象ったシンボルがあしらわれていた。やはり「黙示録の子羊」はグノーシス主義の影響を受けているのだろう。人間に知恵をもたらした蛇を善き神であったと考えているのだ。
小一時間も経つと女性は立ち上がった。
「それではご案内します。こちらにお越しください」
女性は部屋の正面にあるドアの前に僕を立たせた。
「それではお入りください。解脱への第一歩です」
三重構造になったそのドアは、かなり分厚かった。恐らくは防音ドアだ。女性はそこで初めて笑った。何とも冷酷で不気味な笑いだった。
僕を押し込むと、女性はすぐに扉を閉めた。ガチャンという重い音が背後で響いた。息苦しい暗さに僕は包まれた。獣たちが呻くような声…明かりとなるのは、天井近くの小窓から差す僅かな光だけである。酸っぱく鼻につく異臭がした。
目が慣れてくるに従って、おぞましい光景が露わになった。僕は息を呑み、茫然と立ち尽くした。祭壇の前で幾人もの男女が様々な体位で性交を繰り返していた。祭壇には磔にされたイエスの代わりに、牡山羊の頭をしたバフォメットが据えられていた。
バフォメットには数人の女が絡みつき…その屹立した男根に跨っているのは…麻里さんだった。
「夏樹様ですね。お待ちしておりました」
白い修行服を身につけた若い女性が、僕に深々と頭を下げた。端正な顔立はしているが、まるでマネキンのように無表情だった。髪を後ろで束ね、前髪は真っ直ぐに切り揃えられている。
「解脱への道に踏み出されたことは、誠に喜ばしいことです。心よりお祝い申し上げます。一定期間修行すれば出家の道もあります」
言葉とは裏腹にそこには何の感情もこもっていなかった。
「これから入信のイニシエーションが始まりますが、夏樹様にはその前にしていただきたいことがあります」
「していただきたいこと?」
「はい」
女性は部屋の隅にある木製の棚から大皿を取り出すと、恭しく両手で運んできた。
「こちらをお召しあがりください」
茶色く干からびたキノコが、そこには盛られていた。軸の捩れたひょろっとしたキノコだ。
それがマジックマッシュルームであることは容易に推測できた。マジックマッシュルームは幻覚成分であるシロシビン及びシロシンを含有するキノコの総称である。基本的には摂取すると多幸感を感じ、閉眼時にも色彩の変化や模様等、視覚的な認識を知覚する。症状としては他に知覚の鋭敏化、聴覚の歪み等が挙げられるが、感情的作用がネガティヴな方向へ向かうと(所謂バッドトリップ)パニック症状を引き起こすこともある。
勧められるがままに、僕はかなりの量のマジックマッシュルームを口にした。
「もう暫くお待ちください」
そう言うと女性は、僕の前の長椅子に腰を下ろした。マジックマッシュルームが効いてくるのを待つつもりなのだろう。マジックマッシュルームは摂取しても、すぐには効果を表さない。幻聴や幻覚が始まるのは一時間も経過してからである。
お陰で僕は「黙示録の子羊」の表玄関とも言えるその部屋を存分に観察することができた。
部屋のあちらこちらに蛇を象ったシンボルがあしらわれていた。やはり「黙示録の子羊」はグノーシス主義の影響を受けているのだろう。人間に知恵をもたらした蛇を善き神であったと考えているのだ。
小一時間も経つと女性は立ち上がった。
「それではご案内します。こちらにお越しください」
女性は部屋の正面にあるドアの前に僕を立たせた。
「それではお入りください。解脱への第一歩です」
三重構造になったそのドアは、かなり分厚かった。恐らくは防音ドアだ。女性はそこで初めて笑った。何とも冷酷で不気味な笑いだった。
僕を押し込むと、女性はすぐに扉を閉めた。ガチャンという重い音が背後で響いた。息苦しい暗さに僕は包まれた。獣たちが呻くような声…明かりとなるのは、天井近くの小窓から差す僅かな光だけである。酸っぱく鼻につく異臭がした。
目が慣れてくるに従って、おぞましい光景が露わになった。僕は息を呑み、茫然と立ち尽くした。祭壇の前で幾人もの男女が様々な体位で性交を繰り返していた。祭壇には磔にされたイエスの代わりに、牡山羊の頭をしたバフォメットが据えられていた。
バフォメットには数人の女が絡みつき…その屹立した男根に跨っているのは…麻里さんだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる