竜のめざめ

関谷俊博

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「やるなあ、亮ちゃん。あの美波ちゃんに誘われたのか」
 仕事場での一部始終を話すと、おじさんは大げさに両手を広げて言った。
「そんなにすごいことなの?」
 ぼくは少したじろぎながらたずねた。
「すごいことさ。美波ちゃんは、この町の男の子とは口も聞かない。亮ちゃんは、よっぽど気に入られたらしいぞ」
「いいわあ、初々しくて。やっぱり夏よねえ。あついあつい」
「おばさん、からかわないで」
「それで亮ちゃんはどうするんだ?」と、おじさん。
「せっかく誘ってくれたんだから行くけど」
「いいわあ。お似合いよう」
 おばさんは最後までぼくを冷やかしていた。

 夜八時。浴衣姿の美波が迎えにきた。
「亮太」
「あ、いま行く」
 花火大会の会場まで、肩を並べて歩いた。
「亮太は何年生だ?」
「六年だよ。美波は?」
「私も六年。おんなじだな」
「うん。そうだね」
「亮太は東京から来たんだろ」
「うん」
「いいな。私はこの町から出たことがない」
「旅行とか行かないの?」
「行かないな」
 そのとき、花火があがった。
 あたりが明るくなり、美波の顔を照らし出した。
 ぼくらはだまって、次々に打ち上げられる花火を見上げた。
 花火はくるくると回ったり、青やオレンジに色を変えたりした。
「あ、環がある!」
「土星だ!」
 三十分ほどで、花火大会は終わった。
「送っていくよ」
 ぼくらはだまったまま、また歩き始めた。
 しばらくすると、美波がふと口を開いた。
「なあ、亮太」
「うん?」
「笑わないで聞いてくれ」
「うん」
「亮太は生まれ変わりって信じるか?」
「生まれ変わりって、死んだ人間がまた別の人間に生まれ変わるってやつ?」
「そう」
「わからないな」
 美波は少し早口になって言った。
「私には竜を操っていた。そんな記憶があるんだ」
「竜神山の伝説?」
「そう」
「赤済と黒姫が出てくる話だね」
「そうだ。私は黒姫と呼ばれていた。そんな記憶さえあるんだ。馬鹿げているか? こんな話」
「馬鹿げてなんかいないよ」
「そうか」
「ぼくも竜に襲われる夢を見るんだ。夢だけど、夢だとは思えないんだ」
 やがて、美波は、幅の広い参道の入り口で立ち止まった。奥に大きな寺が見える。
「ここまででいい」
 ふりかえった美波の顔は、心なしか赤くなっていた。
「今日は楽しかった」
 美波は参道を駆けていった。
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