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ゲリラライブ当日。大型トレーラーのコンテナに機材を積み、俺たちは渋谷へ向かった。俺の胸は高鳴っていた。集まった聴衆が一体どんな反応を示すのか。ジョクラトルからのサプライズ。今から楽しみだった。
それは他のメンバーも同じらしい。
「何だかわくわくします」
杉浦が俺たちの気持ちを代弁した。
やがてトレーラーが軽い衝撃と共に停まった。ゲリラライブの会場に到着したらしい。外の騒めきがここまで聞こえてくる。「邪魔だな。この車」。そんな声もした。
「始めるぞ」
コンテナの隅にいた柴谷が俺たちに合図を送った。俺たちは皆、所定の位置にスタンバイした。
コンテナの扉が開き始める。扉が全開になった途端、地響きのような歓声があがった。
「どうも! ジョクラトルです!」
おおっという響めき。泣き叫ぶような悲鳴。メンバーの名前を、口々に叫ぶ声。間髪入れず白井がイントロを奏で始め、俺は歌い出した。
冬空を抱きしめているね
言葉に詰まってしまったのは
凍ってしまったせいだろう
冬の海を抱きしめているね
涙が出ないのも
きっと凍ったせいだろう
こうして道化を演じているけれど
ぼくの声はきみに届くかい
時代は暗く寒い
空気は張りつめているけれど
僕は待っているよ
言葉も涙もほどける季節
闇を切り裂き低く飛ぶ鳥が
その訪れを告げるんだ
集まった人々が波のように揺れている。俺が歌い終わっても歓声と悲鳴は止まなかった。コンテナの扉が閉まり始める。後は警察が来る前に逃げるだけだ。
柴谷の戦略は見事に当たった。ゲリラライブの様子は、テレビニュースでも取り上げられた。ジョクラトルの新曲「冬空の道化師」はダウンロード数一位を獲得。事前に道路の使用許可を取らなかった為(これももちろん戦略だった)、柴谷は渋谷警察に呼ばれたらしいが、上機嫌だった(相変わらず、にこりともしなかったが、黙って俺たちに親指を立ててきたのには驚いた)。「冬空の道化師」は五百万ダウンロードというとてつもない数字をたたき出していた。
俺たちは今や押しも押されもせぬトップアーティストだった。
「まずいな」と俺は言った。
「何がまずいんだい? 順風満帆じゃないか」
白井が不思議そうな顔をした。
「売れすぎだよ。俺たちの曲が商品になっちまった。商品は消費されて終わりだ」
「売れるのが悪いことだとは思いませんけど…」と杉浦。
「フェンネバー・ピープル・アグリー・ウィズ・ミー。アイ・オールウェーズ・フィール・アイ・マスト・ビー・ロング」
「なんて言ったんでしょう? 自分は英語に弱いのです」
「倉田。訳してやれよ」
「人々が私に賛成するとき、私はいつも自分が間違っているに違いないと感じる。荻はそう言ったんだよ」
「俺たちはもう一度ジョクラトルに戻る。新しい仮面を被るんだ」
妥協する気は、もう俺にはなかった。
それは他のメンバーも同じらしい。
「何だかわくわくします」
杉浦が俺たちの気持ちを代弁した。
やがてトレーラーが軽い衝撃と共に停まった。ゲリラライブの会場に到着したらしい。外の騒めきがここまで聞こえてくる。「邪魔だな。この車」。そんな声もした。
「始めるぞ」
コンテナの隅にいた柴谷が俺たちに合図を送った。俺たちは皆、所定の位置にスタンバイした。
コンテナの扉が開き始める。扉が全開になった途端、地響きのような歓声があがった。
「どうも! ジョクラトルです!」
おおっという響めき。泣き叫ぶような悲鳴。メンバーの名前を、口々に叫ぶ声。間髪入れず白井がイントロを奏で始め、俺は歌い出した。
冬空を抱きしめているね
言葉に詰まってしまったのは
凍ってしまったせいだろう
冬の海を抱きしめているね
涙が出ないのも
きっと凍ったせいだろう
こうして道化を演じているけれど
ぼくの声はきみに届くかい
時代は暗く寒い
空気は張りつめているけれど
僕は待っているよ
言葉も涙もほどける季節
闇を切り裂き低く飛ぶ鳥が
その訪れを告げるんだ
集まった人々が波のように揺れている。俺が歌い終わっても歓声と悲鳴は止まなかった。コンテナの扉が閉まり始める。後は警察が来る前に逃げるだけだ。
柴谷の戦略は見事に当たった。ゲリラライブの様子は、テレビニュースでも取り上げられた。ジョクラトルの新曲「冬空の道化師」はダウンロード数一位を獲得。事前に道路の使用許可を取らなかった為(これももちろん戦略だった)、柴谷は渋谷警察に呼ばれたらしいが、上機嫌だった(相変わらず、にこりともしなかったが、黙って俺たちに親指を立ててきたのには驚いた)。「冬空の道化師」は五百万ダウンロードというとてつもない数字をたたき出していた。
俺たちは今や押しも押されもせぬトップアーティストだった。
「まずいな」と俺は言った。
「何がまずいんだい? 順風満帆じゃないか」
白井が不思議そうな顔をした。
「売れすぎだよ。俺たちの曲が商品になっちまった。商品は消費されて終わりだ」
「売れるのが悪いことだとは思いませんけど…」と杉浦。
「フェンネバー・ピープル・アグリー・ウィズ・ミー。アイ・オールウェーズ・フィール・アイ・マスト・ビー・ロング」
「なんて言ったんでしょう? 自分は英語に弱いのです」
「倉田。訳してやれよ」
「人々が私に賛成するとき、私はいつも自分が間違っているに違いないと感じる。荻はそう言ったんだよ」
「俺たちはもう一度ジョクラトルに戻る。新しい仮面を被るんだ」
妥協する気は、もう俺にはなかった。
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