ジョクラトル

関谷俊博

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セカンドアルバムの制作前、俺はこう宣言した。
「マン・イズ・リースト・ヒムセルフ・フェン・ヒー・トークス・イン・ヒズ・オゥン・パーソン。ギブ・ヒム・ア・マスク・アンド・ヒー・ウィル・テル・ユー・ザ・トゥルース」
またもや杉浦が困った顔をした。
「倉田」
「やれやれ」
倉田は肩をすくめた。
「人がクソ真面目に話すとき、そこに真実はほとんど含まれていない」 

「レコーディングが始まった。「冬空の道化師」のような曲を作る気は、いまの俺には更々なかった。今度は商品として消費されないものを。原点に戻るつもりだった。
白井は俺の意を汲んでくれた。エフェクターを多用したギターサウンドは大きく歪んだものになった。
そして倉田のうねるようなベースラインと、いななくような俺のボーカル。
バンドは不協和音に満ちた土着的サウンドを目指していた。
俺たちに任せると決めたのか、柴谷が何も言ってこないのが不気味だった。それともこれも奴の計算なのか。まあ、いい。俺たちはやりたいようにやるだけだ。
「リスナーの期待を裏切っているような気がしてならないんです」
杉浦はしきりに不安を口にした。
「その通りだよ」
俺は言った。
「今度は商品として消費されないものをって言っただろ」
「おいおい」
倉田が口を挟んだ。
「言っていることはわかるけどな。やっぱり売れてナンボなんじゃね? 勘違いしやすいけどな。俺たちはリスナーから金を貰ってるんだぜ。事務所はそれを分配しているだけだ」
「今なら何を作ってもそこそこ売れるさ」 
俺は言いきった。
「僕は荻くんに賭けてみようと思うね」
倉田をなだめるように、白井が言った。
「こんな実験は今しかできないんだ。それだけの条件が整っているんだよ。だから僕もポップな曲は作らなかった」
「今回だけは、俺の思う通りにやらせてくれよ」
俺はきっぱりと言った。

セカンドアルバムのレコーディングは緊張に満ちたものになった。
特に俺と倉田はしばしば激しく衝突した。冷静な倉田には珍しく、俺の顔を見ると、顔を背けたり、椅子を蹴飛ばしたりした。
余りの雰囲気の悪さに耐え兼ねたのか、白井は俺とは時間をずらしてスタジオに入るようになった。
杉浦だけが、俺たちの仲を取り持つ為に苦労しているようだったが、結局はただオロオロしているだけだった。
こんな雰囲気の中で俺たちのセカンドアルバム「グノーシス」は完成した。

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