冬迷宮

関谷俊博

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「要するにおまえはカウンセリングに失敗したってことさ」
 僕の話を聞き終わると、冴木は言った。
「典型的な逆転移だ。おまえはクライエントに恋愛感情を持った。  しかもクライエントとは知り合いではないと、俺に嘘をついたな」
「ああ、そうだ」
 僕は弱々しく頷いた。何の釈明もできなかった。
「則子は僕の力で、何とかしてやりたかったんだ」
「それがもう逆転移なんだよ。自分の感情に溺れて、中立的なカウンセリングが出来なくなっていたんだ。更にだ。統合失調症にカウンセリングは有効でないと、俺は忠告したじゃないか。精神科の医師に任すべきだったんだよ。初回のカウンセリングのとき、俺はあのクライエントにきちんと伝えてある」
「その通りだ」
 返す言葉もなかった。
「だけど、おまえの気持ちもわからなくはない。感情移入はカウンセリングに必要な要素だ。それが度を過ぎてたってことさ」
 沈み込む僕を慰めるように冴木は言った。
「僕はどうしたらいい」
「本当だったら後はもう精神科の医師に任せて放っておけと言うところだが…おまえはクライエントを助けたい。そうだな?」
「ああ」
「俺に考えがある」
 意外なことに、冴木はそう言った。
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